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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
43/199

43.不安な気持ち

やっとアンジュ視点に戻りました。

どうぞよろしくお願いします。

 テリュース殿下や兄のアンリが討伐訓練に出発してからと言うもの、アンジュはずっと言い知れぬ不安に苛まれていた。


「大丈夫だよね。きっと大丈夫」


 自分で言っておいて、また不安になる。


 討伐訓練。訓練とはついてはいるが実践だし、何が起こるかわからない。

 ビッグフロッグと言う魔物が、どんな魔物なのかも解らなかった。

 自称、魔物博士、魔物馬鹿の兄のアンリなら、知っているのかも知れないが、ここにはアンジュに説明してくれる人は誰もいなかった。


 少しでも早く討伐訓練の情報が知りたくて、アンジュはこのところほとんどの時間を薬草園か研究室で過ごしていた。


(王族であるリシャール殿下の側にいると、いろいろな情報が入って来るからね。)


 じっと報告を待つだけでは落ち着かなくて、アンジュは気を紛らす為に傷薬を作ろうと思い立った。


 魔物と言えば討伐、討伐と言えば怪我、怪我と言えば傷薬である。

 怪我をして帰って来るかもしれないテリュース殿下の為に、良く効く傷薬を作ろうと思った。


 研究室に籠って、とにかく怪我や傷などに効くと言われている薬草を、片っ端から鍋に入れて行く。

 トーイが言うには、これは入れるなんて優しいものではなく、ブチ込んでいると言う状況らしい。(なんか失礼だよね)

 ついでに、打ち身にも効く薬草も入れてみた。


 あとは混ぜ棒で、ゆっくりグルグルとかき混ぜて行く。


「ひ、姫さん。いったい何を作っているんですか?」


 アンジュがかき混ぜている鍋の中を覗き込んだトーイが、驚きの声を上げる。不気味なものを見たように、ブルリと身体を震わせた。


「えっ、何って、傷薬だけど?」


 それが何か?って感じで、トーイを見上げた。


「傷薬って、姫さん」


 これがと言わんばかりに、もう一度鍋の中を見つめる。再度確かめるように、恐る恐る二度見した。


 鍋の中はいろいろな薬草が混ざり合い、何故か濃い紫色の液体になっていた。

 しかもボコッボコッと大きな泡が、浮かんでは弾けを繰り返している。

 まるで前世での絵本に出て来た、魔女のスープのようだった。


 しかも混ぜれば混ぜるほどクリーム状になって来た。濃い紫色のクリームは、ちょっと不気味に見えた。


「で、姫さんはなんで今頃、傷薬なんかを作っているのですか?」

「今、テリュース殿下たちは、討伐訓練に行かれているのです」

「はぁ、まぁそうですね。それと傷薬と何の関係あるのですか?」

「えっーとトーイさん、討伐って魔物と戦うのですよ」

「はい、そうですね」


 何をそんな当たり前の事を、と言う声なき声が聞こえたような気がした。


「魔物の討伐となると怪我はつきものなのです」

「・・・・・それで傷薬ですか?」

「はい。少しでも早く傷を、治して差し上げたくて」


 納得はしてくれたようだが、アンジュに向けるトーイの可愛そうな子を見る目は変わらなかった。


「でも姫さん、大抵の傷はポーションで治るよね」


 案に、傷薬は不要だと言われた。

 ズバリと言われた訳ではないが、トーイに言われたことがショックだった。

(なぜだろう?やっぱりトーイだからだよね。)


「あっ」


 そうだった。騎士団の方たちは、ポーションを持っているのだから、傷薬は必要ない。

 この世界には魔法のお薬、ポーションがあったことを忘れていた。


 とたんガックリと肩を落としたアンジュに、トーイは慌てて慰めの言葉を掛ける。


「でも傷薬は他にもいろいろ使い道があるし、きっと今後何かの役に立ちますよ」


 傷薬の他の使い方って何、いろいろな使い方ってどんな使い方?

 今後何かの役って、今後っていつの事の話?

 慰めにもならなかった。


 これはただの八つ当たりと解っていた。

 トーイとのやり取りで少しは気が紛れたから、まぁいいかと、出来た傷薬をいくつかの容器に小分けした。


(トーイの言うとおり、今後何かの役にたつかもしれないからね。)


 そうこうしていると、研究室のインターフォンが鳴った。

 待ちに待った本日最初の報告の書類が、リシャール殿下に手渡される。

 リシャール殿下はさっと目を通すと、アンジュにその書類を差し出した。


 報告書にはビックフロッグ討伐競争として、テリュース隊5名とマーク隊5名に分かれての討伐で、テリュース隊が勝ったことが記されていた。


 男の方って、競争とかほんと大好きだよね。

 まぁ怪我はないようだし、テリュース殿下が勝ったのならまぁいいかって感じだった。


 ここまではアンジュも、笑って読んでいられた。

 人がこんなに心配しているのに、ほんと何やってんのって感じだった。


 次々といろいろな情報が、リシャール殿下の元へと届く。今日は本当に、慌ただしかった。

 現場もかなり混乱しているようだった。


 本日2度目の報告書にはレッドドラゴンスネークと言う魔物が出現し、怪我人が多数出たと言うことと、マークが行方不明と言う報告だった。


「怪我人、多数、マーク殿下が行方不明って?」


 アンジュの顔が、泣きそうに歪む。心配で心配で胸が張り裂けそうだった。こんなに簡単に書かれた報告書では、詳細までは解らない。解らないことが多くて、もどかしかった。


(怪我人って、テリュース殿下は大丈夫なの?)


「リシャール殿下・・・・・」

「まだ何も解らないのだから、泣いてはいけないよ。アンジュを泣かしたとテリィに知られたら、私が叱られるからね」

「泣いたりしません。ただ・・・・・・」

「うん、心配だよね。わかっている」


 問うようにウルウルの目で見上げると、宥めるようにアンジュの頭をいい子いい子と撫でた。

 もう子供ではないのだからと、そろそろ撫でるのは卒業させてもらおうと思っていたのだが、あまりの心細さに拒絶することはできなかった。

 もう少し子供のままでいさせて欲しかった。


 慌ただしく今日3度目に届いた報告書は、

 テリュース、コンラット、アンリが、レッドドラゴンスネークとの戦いの中、がけ崩れによって行方不明と言う報告だった。


「・・・・・・・う、うそ!嘘ですよね」


 テリュース殿下にコンラット様、アンリ兄様までが行方不明って?


「アンジュ、落ち着いて」

「どうしょう。どうしょう。どうしょう」


 震えるアンジュを、テリュース殿下が抱きしめる。

 アンジュはもう何も考えられなかった。

 身体の血の気が引いて、冷たくなる。身体も心も寒かった。


「大丈夫、大丈夫だから」


 リシャール殿下も、自分に言い聞かせるかのように、同じ言葉を何度も繰り返した。

 

読んで戴きありがとうございました。

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