37.討伐訓練 5
引き続き、アンリ視点です。
なかなか討伐訓練が終りません。
討伐続きで読み苦しいところもあると思いますがご勘弁ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
「では、始め!」
シヴサル団長の始め!の声で、5対5のビックフロッグの討伐競争がスタートした。
ルールは簡単。俺たちテリュース隊5名と対するマーク隊5名で、ビックフロッグを倒し、多く倒した隊の方が勝ちと言うものだった。
ビックフロッグを倒した時に出る、魔石の数の多い方が勝ちとなる。
魔石を拾うのはテリュース隊はシヴァラ、マーク隊は第3騎士団のものが手伝うことになった。
俺たちテリュース隊は南側から、マーク隊は北側から、ビックフロッグを倒して行く。
「やるからにはみんな本気だして!大丈夫だと思うけど、怪我などしないように、あと・・・・・・」
「指揮官はごちゃごちゃ言わずに、『勝て!』の一言でいいんだぜ」
ほんとテリュースは話が長い。目的さえはっきり言えば、俺たちはそれに従うだけだった。
「ああ、うん。よし、勝つぞ!」
「おう、任せとけ!」
「はい、行きます」
「がんばります」
「勝ちましょう」
テリュースの勝つぞ!の声に、俺たちは動き出す。目の前のビックフロッグに、力いっぱい剣を突き立てた。
テリュースは日頃の鍛錬のおかげか、剣さばきが綺麗で速く、急所が解れば的確にそこを突いて行く。流れるようにビックフロッグを、魔石へと変えて行った。
俺とコンラットは二刀使いで、てきぱきとビックフロッグを魔石へと変えて行く。
的が小さいので急所を突くのに大変集中が必要だが、俺もコンラットも日頃から騎士団総括のペルセガンド卿にしごかれているので、こんなことは朝飯前、非常に容易いことだった。
同じ隊のタルタナとヘルテックも、俺やコンラットに比べると見劣りするが(俺たち、最強だからな!)、同じ歳の騎士見習いたちからすると、大変優秀だった。
5人とも乱れることなく、どんどん魔石へと変えて行く。
開始から10分ほどで、すでにシヴァラの持つ袋いっぱいに魔石が詰まっていた。
ふと気づけば第3騎士団の団員たちは、みんな観客気分で声援を送っている。
「テリュース隊、がんばれ!」
「マーク隊、がんばれ!」
「コンラット様、素敵!」
「アンリ、抱いて♥」
(だ、誰だよ今の?)
言った奴の顔をぜひ見てやろうと、俺は振り返ろうとしてやめた。
だって、怖すぎる。
俺の後ろには第3騎士団の団員たち、ごっつい身体をしたお兄様たちしかいない。
もし振り返って、朱い顔をした筋骨隆々のお兄様に、熱く見つめられでもしたらと思うと・・・・・。(や、やめてくれ〜っ)
俺の背筋を冷たいものが走り抜ける。身体がゾクリと震えた。
(怖い、怖すぎる。うわぁ~、考えたくねぇ。)
今の言葉は聞こえないふり、聞こえないふり。(俺は断じて、聞いていない。)
しかし、第3騎士団の皆様は、いったい何やってんの?
さーっと流し見ると、寛ぎ過ぎなのではと思うほど、座り込んだり、寝転がったり、お茶を片手に観戦している者もいた。場の雰囲気から酒を酌み交わさなかっただけましかもしれない。騎士としての常識は、まだ残っているようだった。
「あれ、先輩たちは討伐しなくていいんですか?いったいなにをしているんですか?」
俺の疑問はもっともだと思う。
王族ふたりと、護衛騎士見習い8名だけに、ビックフロッグの討伐競争をさせておいて、本業の騎士さんが何もしないなんてどう言うこと?って感じだった。
「ああ、俺たちはいいんだ。討伐訓練だからな。」
(なんですと?)
「訓練は見習い騎士に譲ってやる」
(譲ってやるなんて言って、たんにさぼりたいだけですよね。)
「俺たちは騎士見習いたちの経験レベルを上げるための、見守り役ってことで」
(本当に見守ってくれているのか、なんだかとても不安なのですが・・・・・)
「せいぜいがんばって、俺たちを潤わせてくれ!」
(それって、賭けているってことですよね。勝てると良いですね。)
などと遊んでいるうちに、すでに全体の半数以上をテリュース隊が倒していた。(なんせ俺たち最強だし)
魔石の数は圧倒的に、テリュース隊の方が多かった。
マーク隊を応援していた第3騎士団の団員達の声が、小さくなったと思ったら、諦めたのか聞こえなくなった。
俺たちに賭けた団員達とマーク隊に賭けた団員達とでは、天国と地獄、顔色が全然違っていた。(いったい幾ら賭けてんのって感じ。)
「おまえたち、しっかりしないか!」
マークから叱咤の声が上がる。苛々を隠そうともしない様子に、焦りが垣間見える。
その間も俺たちの魔石の数は、どんどん増えて行った。
「なにやっているんだ!このままでは、負けてしまうじゃないか」
「・・・・はい、がんばります」
「一応、倒そうとはしているのですが、数が多すぎて・・・・・」
「言い訳はゆるさん。ビックフロッグを倒せ!」
「「「「・・・・・はい」」」」
マークもだが他のメンバーの顔にも疲労の色が濃い。動きがとても鈍く、叱咤されてもマークの希望通りの働きが出来ないようだった。
ビックフロッグの残りも少なくなって来た。
テリュース隊、マーク達が入り乱れて、残りのビックフロッグを倒しにかかる。
俺たちテリュース隊は日頃の鍛錬のおかげか、まだまだ余力を残していた。
テリュースもまだまだ綺麗な剣さばきで、ビックフロッグを魔石へと変えて行く。息さえ切れていなかった。
残り数十匹になった頃、テリュースとマークが並ぶように、ビックフロッグを倒していく。俺たちは剣を置き、ふたりの対決を見守った。
後は任せたって感じ?残りは二人で、十分だった。
テリュースとマークは、兄弟だと言うのに似ているところがまるでない。
テリュースの剣さばきのほうが、遥かに勝っていた。
剣の動きが早いせいか、マークの前にいるビックフロッグを絡めとるように倒していく。見ている分には笑えるのだが、やられたマークから見れば嫌がらせにしかみえないと思う。
案の定、マークは苛立ったように、自分の剣を投げ捨てた。涙の浮かぶ目でキッ!とテリュースを睨みつける。
(マークもまだ12歳、まだまだ子供だよな。3歳年上の兄貴相手によくやったと思うけど・・・・・。)
「兄上はずるいです。私をいたぶって、そんなに楽しいですか?」
「マーク、何を言っている?」
テリュースにしてみれば、マークに競争しましょうと誘われたので、全力でやっただけのこと。マークをいたぶる気など微塵もなかった。
ただの言いがかりにしか聞こえなかった。
(まぁ、お兄様には出来の悪い弟の気持ちなんて、一生解らないよな。)
いよいよビックフロッグも残り1匹。
最後のビックフロッグを、華麗にテリュースが打ち取る。
せめて話ぐらい手を止めて聞いてやればいいのにと、俺は内心マークを哀れに思った。
(出来過ぎた兄を持つと、苦労するよな。)
俺も上に2人、出来過ぎの兄がいるので解る気がした。
「そこまで!」
シヴサル団長のそこまで!の声で、5対5の討伐競争は終わりを告げた。
「勝者、テリュース隊!」
つづいて勝ち鬨の声が上がる。
「やった!」
「勝った!」
「やりましたね」
「勝ったぞーっ!」
「みんな、よく頑張った」
喜ぶ俺たちを横目に、マークはワナワナと全身を震わせ、キッと睨みつけた。
彼の中では自分が勝てなかったのは、すべて俺たちのせいに変換されているらしかった。
(ほんと、まだまだお子ちゃまだねぇ。潔く負けを認めてこそ、男だろう。)
しかしマークにはテリュースが勝ったことが許せなかったらしく、子供じみた癇癪で、突然、力いっぱいテリュースを突き飛ばした。
「うわぁーっ!」
まさかマークがそんな暴挙に出るとは思ってもいなかったテリュースは、とっさに抵抗することすらできなかった。バランスが保てず、無様にその場に転ってしまう。
俺たちもあまりに突然のことに、瞬時に動くことができなかった。
「えっ?」
「テリュース!」
「殿下!」
「な、なんだ?」
ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーー!
突然、もの凄い地響きがして、グラリと大地が揺れる。
地面にぽっかりと穴が開いたかと思うと、レッドドラゴンスネークが顔を出した。
読んで戴いてありがとうございます。