3.お子様同伴のお茶会 2
母のアンヌは、隣国のバロウア公国から降下して、フランドール公国のクロード・ド・トゥルース公爵のもとへ嫁いできた元は本物お姫様。
フランドール公国に親善のため訪れたアンヌが、歓迎の宴でクロードに一目ぼれしたらしいのだが・・・・・・。
元お姫様のアンヌと王様の片腕として政務を司る当時は宰相補佐だったらしい堅物のクロード。
どこがそんなに良かったのかはわからないが、二人は今でもラブラブ(死後)だったりする。
おっとりした性格(天然とも言う)、苦労知らずで(お姫様が苦労なんて、知っているわけないよね)、生活力のなさは天然級。
たぶん自分でお金を払って買い物したことすらないのではないだろうか?もちろん自分で稼いだことなど、まったくないと思う。
そんな母を父はよしとしているのだから、娘のアンジュがとやかく言うことではないのかもしれない。
実はそんな母を見てアンジュは、密かに一人でも生きていける自立した大人になると、物心ついた頃より決めていた。
(これはまだ誰にも、内緒。まぁ、なれるかどうかは解らないけど、希望は大きく持ちたいよね)
母アンヌとアーデル王妃様とは、お姫様だったときからの付き合いで、フランドール公国に嫁いでからも、とっても仲がよい。親友と言うよりは、まるで姉妹のよう。
そんな二人が最近、キャピキャピと楽しそうに何かをたくらんでいるなぁと思っていたら、
「アンジュちゃん、来月はママと一緒に、王城でお茶会よ。がんばりましょうね!」
と、内心のワクワク感を隠しもせず、満面の笑顔で決定事項として告げた。
がんばりましょうね!って、いったい何をがんばるのやら?
(・・・・・・お、お茶会ですよね。)
今からこの調子では、この先どうなってしまうのか不安しかない。お茶会への出席は命令であって、アンジュに拒否権はなかった。
「お母様、王城でのお茶会に、私も出席するのですか?」
恐る恐る確認したアンジュに、
「そうよ。今回の王妃様のお茶会は、お子様同伴なの」
楽しみよね。と、ニッコリ微笑まれた。
何が楽しみなのか、理解できない。できればお茶会など行きたくない一心で、回避策を模索する。アンジュは必死に脳みそを、フル回転させた。
「そうだわ!」
グットアイデア☆ 我ながらなかなかよい考えではないだろうか?
思いついた案は、アンジュが行きたくないのなら、誰かに代わりに行ってもらえばいいじゃないってこと。
お子様同伴のお茶会なら、他のお子様に行ってもらえばいい。アンヌのお子様はアンジュ以外にも、あと3人もいる。上の2人は年齢制限で残念ながらアウトだが、条件にあうお子様はアンジュの他にもう1人いた。
・・・・・・そうだ、アンリお兄様!
「お母様、アンリお兄様がいいと思います!」
「アンリ?」
「そうですよ、お母様。お茶会はアンリお兄様と、ご一緒されてはいかがですか?アンリお兄様でしたら、完璧なエスコートができましてよ」
まずは人身御供として、3つ歳上の兄アンリを差し出してみた。
アンリは現在15歳、今回のお茶会の年齢制限内だし、アンジュと違って引きこもりではない。アンリには悪いが犠牲になってもらおうと、エスコートな完璧さを主張してみたのだが・・・・・・。
「アンリなんて、ダメダメ」
間をおかず、つれない返事が返って来た。アンジュの提案など、けんもほろろ。とりつくしまもない。
「アンリお兄様では、ダメですか?」
「だってアンリでは、ドレスが着られないでしょう」
「ドレス、ですか?」
兄のアンリがドレスを着た姿を想像してみる。テリュース殿下の見習い護衛騎士をしている兄は、15歳とは言え男らしい体つきをしていた。筋肉もほどよくついていて、とても女装など似合いそうにない。
(さすがにドレスは、無理だよね)
母の希望が、お茶会にドレスで着飾った子供を連れて行くことなら、その対象はアンジュしか残っていない。アンヌの子供は4人いるが、娘はアンジュ一人しかいなかった。
(子供4人も生んでおいて、なんであと1人くらい女の子を生んでおかないかな?)
「でも・・・・・・・」 そこをなんとか・・・・・・。
「着飾れない男の子なんて、なんの楽しみもないもの。アンリと一緒になんて、行く気はないわ」
「・・・・・・・・・・・・・」
これほどきっぱり、はっきり、お断りされては、アンジュは何も言えない。
アンヌの頭の中はすでにアンジュを着飾ることしかないようで、何を言っても聞いてもらえなかった。
「早速仕立屋を呼ばなくては、ね。どんなドレスがいいかしらね。アンジュちゃんは可愛いから、迷ってしまうわ」
お茶会に向けてアンヌのテンションの高いことと言ったら、思い出すだけでも苦笑しか洩れない。
今日のお茶会までの日々、ただただ着せ替え人形に徹していた、私の苦労も解って欲しい。
文句も言わず我慢強く耐え抜いた自分を褒めてやりたい。
子供って、つらいよ。