29.究極のポーション
妖精たちにいろいろな異世界素材をいただき、アンジュはどうしてもこの素材を使ってポーションが作りたくなってしまった。
こんなに素敵な素材がいっぱいあるのに、ポーションを作れないなんて酷すぎる。アンジュにとって拷問でしかなかった。
本来ならここで妖精たちにお礼を言って、研究室に帰ったほうが良いことはアンジュにも解っていた。
「沢山の素材、ありがとうございます」
『アンジュ、うれしい?』
「はい、とても嬉しいです」
『アンジュ、おくすりつくる?』
「作りたいのですが・・・・・・」
今日はもうポーションを作ってはいけないと、リシャール殿下に厳命されていた。
トーイもいないし、帰らなくてはとアンジュの良心が帰るようにと行動を促す。
もう一つの心が、作ちゃおうよ。作りたいでしょと囁きかける。
グラグラ揺れる気持ちのバロメーターが、右に行ったり、左に行ったり。
ここで帰らなくてはいけないことは解っているのに、異世界素材で作るポーションの魅力はとても大きかった。
(怖いお顔のリシャール殿下に今日はもう作ってはいけないって言われたのだから、作ったら絶対に怒られるわよね。でも・・・・・。)
今のところ身体に不調はないし、魔力キレも起こしていない。素材も取り立ての今、調合するのなら新鮮な方がいいに決まっていた。
『『『アンジュ、おくすりつくる?』』』
再度、妖精たちに問われて、アンジュの気持ちは決まってしまった。
バロメーターが作る方に、完全に振り切れてしまっていた。
せっかく戴いた素材を無駄にするのは、勿体ない。
それよりなによりこの素晴らしい素材で、アンジュはポーションを作ってみたかった。
「はい、作りましょう。妖精さんたちも、手伝って戴けますか?」
『アンジュとおくすりづくり』
『みんな、てつだう!』
「はい、よろしくお願いします」
この薬草園にも幸い?なことに、簡易実験室が備え付けられていた。簡単な薬品などの調合の設備が、いろいろと揃っていた。
魔道コンロの上に、研究室にあったのと同じ底に魔法陣が刻まれた鍋を用意する。
「えっと、どれから入れたら良いのかしら?量は?妖精さんは解りますか?」
研究室では黒板に書かれていた順番に、量っておいてあった素材を入れただけだったので、新しい素材での手順がアンジュには解らなかった。
『さいしょは、これ』
『つぎは、これ』
妖精たちは手順を解っているようで、ちょうどよい分量にして、手渡してくれた。
最初に渡されたのは、瓶に入った水だった。一応、何の水かを知る為に鑑定してみる。
「鑑定!」
透明タブレットに浮かび出た文字は、
ーーーーーーーー【聖なる水】 神の水。あらゆるものを清め、穢れを祓う。
「神の水って・・・・・?」
本当に異世界素材だった。
いったいどこから持ってきたのか?どうやったら手に入るのかも解らない。通常、一般人が手に入れられるようなものではなさそうだった。
(神様の水だよ。初めて見た。・・・と言っても、見た目は、普通の水だけどね。しかし、これ本当に使っちゃっていいの?)
「ぜっかく妖精さんが持ってきてくれたものだし、使わない方が悪いわよね」
アンジュはひとり勝手に、結論付ける。ここでも好奇心の方が、勝ってしまっていた。
もう誰にもアンジュを、止められない。
(まぁ、止める人もいないけどね)
用意した鍋の中、聖なる水を入れる。
次はシャインアップル。次はシャインバナナ、シャインパイナップルと光耀くフルーツたちを入れて行く。
(あれ?これって前世のミックスジュースみたい。ちょっと美味しそうかも。キラキラだけどね。)
その後も妖精たちから渡されるまま、どんどん素材を加えて行く。よく解らない素材もいっぱいあったが、妖精たちに言われるままに加えて行った。
(妖精さんを信じてと言うより、ほとんど自分の好奇心に従っただけなんだけどね。)
あとはゆっくり混ぜ棒でかき混ぜ、むらなく煮込んでいく。
妖精たちとの調合は、めちゃくちゃ楽しかった。
(ほんと、幸せ。異世界、最高!)
アンジュが魔力を注ぎながら鍋の中の素材をゆっくりかき混ぜていると、
「うわーっ!」
今度は前回とは違いかなりの魔力を、持っていかれた感じがした。
身体の中を流れる何かがズルリと大量に抜き取られる感覚に、一瞬鳥肌が立つ。前世で献血した時の感覚に似ていた。
(これって、やばいんじゃない?前世でも献血の後、私、ぶっ倒れたのよね。)
妖精さんたちとのポーション作りが楽しすぎて、また怒られ案件を作ってしまったようだった。
まぁ、やってしまったものは、しょうがない。どうせ怒られるのなら、やるだけやって、楽しむだけ楽しんで、裁きを受けたほうがいいに決まっている。
なので多量に魔力を持っていかれて事は、考えないことにした。
今は楽しいことだけしか考えない。
突然、前回のように混ぜ棒に掛っていた重い抵抗が、フッ!と軽くなった。
次の瞬間、 ピカーーーーーーーーーーーッ! と、鍋の中が、眩い虹色の光を発した。
『できた!』
「完成したのですね」
『うん、かんせい!』
『アンジュ、せいこうした?』
「どうでしょう。成功していると良いのですが、ちょっと鑑定してみますね」
『うん、かんてい』
「はい。では、鑑定!」
アンジュが鍋の中を鑑定すると、透明タブレットに浮き出た文字は、
【アルティメットスーパーハイパワーポーションもどき】
神のポーション。あらゆる傷、怪我、外傷を治す治療魔法薬。。場合によって身体補正も可能。
[用量] 通常10mlで完治。傷により量を調整すること。
と、書かれていた。
「アルティメットスーパーハイパワーポーションもどき?」
子供が知っている凄い感じの英単語を繋ぎ合わせたような、えらく長い名前だった。
名前だけは凄そうだが、ここでもまた『もどき』がついていた。
『もどき』の意味を検索すると、-----それに匹敵するほどのもの・それに似て非なるもの。
これでは喜んでよいのかどうかも解らない。
(でも神のポーションだし・・・・・・)
ふと時計を見ると、ここに来てすでに1時間が経とうとしていた。
ここでポーションを作っていたことが知られれば、絶対に怒られるだけですまないと思う。
しかも作ったのは「アルティメットスーパーハイパワーポーションもどき?」(早口言葉みたい。)だし、絶対大騒ぎになるに決まっていた。
アンジュは他の誰かに見つかる前に、できたポーションを保存用の瓶に詰め、クッキーを入れて来た自分のバックに隠すと、手早く使った機材などを片付け始める。これで調合した形跡は、残っていないはずだった。
「妖精さん、いろいろありがとう。とても楽しかったです」
『うん、たのしかった』
『アンジュ、またつくる』
「そうですね。また作りましょうね」
『うん、またね』
アンジュは妖精たちにお礼を言って、あわててトーイの待つ研究室へと戻って行った。
◇◆◇◆◇
妖精たちから戴いた異世界素材で【アルティメットスーパーハイパワーポーションもどき】と言う胡散臭い長ーい名前のポーションを作ったアンジュは、その日家に帰るなりお約束とでも言おうか、まるで糸が切れたように卒倒した。
「アンジュ!」
「ひ、姫さん?」
「ア、アンジー?」
驚き慌てる家族たちをよそに、アンジュはその後まる2日間も目を覚まさなかったらしい。
理由は明白、魔力ギレだった。
(やっぱり、やってしまいました。)
読んで戴いて、ありがとうございます。