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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
25/199

25.ローポーションの作り方

 ローポーションの作り方。

 

 まずはお鍋を用意します。

 

 詳しくないので何の金属で作られているのかは解らないが、金属でできた底の厚い特別製の鍋だった。

 底の方に魔法陣が刻まれているので、普通の料理に使う鍋とは違うみたい。

 研究室の中には小さな片手鍋から、前世の給食作りでおばさんたちが使っていたような大鍋まであり、どの鍋も底には魔法陣が刻まれていた。


 アンジュは今回、両手鍋を、使用することにした。

 前世では家庭で使われていた中くらいサイズの鍋だった。


 鍋の中に、トーイが言う通りに、各種薬草とお水を入れて煮詰めていく。


 ゆっくり、混ぜ棒でかき混ぜる。


 ここポイント、ただかき混ぜればよいわけではない。

 全部がむらなく混ざるようにゆっくり、じっくり、結構コツがあったりする。


 アンジュは前世 学生時代から、薬の調合や実験が大好きだった。わりと得意だったりする。

 大学の時など教授にも、なかなか手際が良いと褒められたことがあった。

 褒められれば、がぜんやる気も湧いて来るってもので・・・・・。


(私って、褒められて育つ子なのです。えっへん!)


 最後に愛情――――――――!


 ・・・・・・・ではなく魔法を注ぐと、ポーションの出来上がり。


 アンジュが鍋の中の薬草をゆっくりかき混ぜていると、混ぜ棒に掛っていた重い抵抗がフッ!と軽くなった。


 あれ、軽くなった?と思った瞬間、


 ピカーーーーーッ!


 と、鍋の中が、眩い光を発した。


(もしかしてこれが出来た証拠とか?ほんと異世界っぽい。異世界、最高!)


「トーイ先生、できました」

「姫さん、もうできたの?それも鍋いっぱい?」

「あれ、早すぎました?量、多すぎですか?」


 トーイから、驚きの表情を向けられる。

 ポーションを作ったのは初めてなので、作る時間も量もふつうが解らない。

 アンジュは、首を傾げるしかなかった。


 はたしてちゃんと出来ているのかも、自信がない。


「ここに置いてあった薬草、えーと確かポーション50本分の材料だったと思うのだけど。もしかして、それ全部使っちゃった?」

「えーと、いけなかったですか?」


(もうやっちゃったし、今更言われても、だよね。)


 トーイからの指示は、薬草は計ってあるので黒板に書かれている順番に鍋に入れて調合して行けばいいと言うものだった。

 

 前世も今も調合は、アンジュの得意分野だ。

 手際も混ぜる感覚も、完璧だった・・・・・・はずである。


 トーイはアンジュに簡単に手順を説明した後、自分のノルマ達成の為、ポーション作りに励んでしまっていた。なにせ時間が、ないからね。


 トーイはアンジュがポーションの知識のない初心者だと言うことを、すっかり失念していた。


(自分のノルマことで、頭がいっぱいだったんだよね。)

 

 できる人には、できない人ことなんて解らない。初心者のことなど、トーイはまったく解っていなかった。 

 初心者は解らないことが、解らないのだ。だからアンジュは、質問もしなかった。(そこ、威張るなって?)

 それに気づかなかったトーイは、教師としては失格だった。


(自分で作る分には、手際が良いのにねぇ)


 アンジュもアンジュで、ポーションが作れると興奮のあまり、分量まで気にせず調合してしまった。

 今思えば確か、すべての薬草が5等分になっていたような気がする。


(もしかして私、やっちゃたかも?)


「姫さん、疲れたり、頭が痛いなんてことはない?」

「えっ、疲れたり、頭が痛いとかですか?」


 聞かれてアンジュは、自分の体調を確認する。疲れてもいないし、頭も痛くなかった。


「大丈夫です。何ともありません。えっと?」

「通常ポーションを作るには、多くの魔力を必要とする。ここの研究員でも1日10本も作れば、魔力キレを起こす」

「魔力キレですか?もしかして私、失敗したの?」


 ポーションを作っていて魔力キレで死ぬことはないにせよ、人は生存本能が働いて魔力が切れた段階で意識を失う。頭痛や吐き気、体調不良は魔力キレの危険信号みたいなものらしかった。


 貴重な薬草を無駄にしたのかと思うと、血の気が引いていく。


(結構簡単にできたなとは、思ったんだよね。)


「うーん、どれどれ」


 青い顔で心配そうに見つめるアンジュをよそに、トーイはのほほんと鍋の中のポーションをシャーレ―に少し取ると、色や臭いなどを確認する。  

 大量に失敗して申し訳ない気持ちとか、罪悪感などはまったく感じられなかった。時間がないと、焦る様子もなかった。


 突然、自分の指をナイフで傷つけると、指先をシャーレ―の中につけた。

 あーっと言う間、止める間もなかった。

 傷口がみるみる塞がって行く。

 最後には傷跡さえ綺麗さっぱり消えてしまった。


(怖い、怖すぎる。なんで自分の身体を、傷つけるかなぁ?)


「自分を傷つけるなんてこと、やめてください」

「うーん、でもこれが一番調べやすい方法なんだよね」

「それでも嫌です」

「あ、うん。そうだよな。うん、もうしません。許してください」


 アンジュがうるうるの目でトーイを睨みつけると、柔らかな頬につーっと綺麗な涙が零れた。

 トーイは降参とばかりに両手を胸の前に上げる。ゴクリと生唾をのみ込むと、困ったように目を反らした。


「えーと、姫さん。そんな目で見つめれると、テリュース殿下に俺が怒られるんで、やめてもらえますか」

「そんな目って?」

 

 どんな目?と、再びトーイを見上げると、


「無自覚かよ〜」と、がっくりと肩を落とした。


 ここでテリュース殿下の名前が出て来る意味が解らない。コテリとアンジュが首を傾げると、


「あーっ、もうこれは何かの修行ですか?神様が俺を試しているとか」


 トーイは訳の解らぬことを口走ると、何かを吹っ切るかのように自分の頭をガシガシを掻き乱す。

 気持ちを切り替えるように、ふーっと大きく息を吐き出した。



読んで戴きありがとうございました。

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