表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
23/199

23.リシャール殿下からの依頼

「お待たせしました」

「ああ、すまないね。どうぞ二人ともかけて」


 執務室に入ると同時に、応接のソファに座るようにリシャール殿下に勧められた。


 身分から言えばアンジュが座ってから、トーイが座る。もしくはアンジュの後ろに控えるのだが、トーイはそんなこと気にしない。座るようにすすめられた瞬間、座っていた。


(まぁ、トーイだからね)


 トーイは助手と言う立場だがお目付け役だし、平民とは言え研究室の先輩だし、若くみえるけど一応年上だし・・・・・・・。


 もともとアンジュはそんなことは、気にしない。

 公爵なのは父のクロードだし、アンジュ自身は公爵令嬢だけど、何もかしずかれるような人間ではないと思っていた。


 トーイ曰く、本人はできる子らしい。(本当かな?)

 人を見て態度を変えているのだそうだ。

 これでもリシャール殿下の許容範囲は、弁えていると言っているのだが・・・・・・。(本当かな?)


 リシャール殿下もトーイの態度を呆れたように見つめながらも、アンジュが気にしないならといつものように黙認してくれていた。


 アンジュが腰を下ろすと、リシャール殿下の従者のフレットによってテーブルの上に、お茶とお菓子がセットされる。

 すべてを終えるとフレッドは、一礼して少し離れた壁際に控えた。


「まずはお茶でもどうぞ」


 リシャール殿下が優雅なしぐさでお茶を勧める。さすが王族、指先の動きの1つ1つが洗練されていた。


(今日も白衣がお似合いです。白衣、最高!)


「はい、・・・・・・・」


 いただきますまでアンジュが言わないうちに、


「いただきまーす」


 トーイの声が被さったと思うと、お約束のようにお菓子に飛びついた。結構大きなケーキの塊を、口へと運ぶ。


「う、うまい!」


 好みの味だったらしくニンマリと笑うと、嬉しそうに次を口へと運ぶ。こんなに喜ばれて、ケーキも本望だろうと思った。(ほんと子供だよね)


 今日のお菓子はハーブとバナナのバウンドケーキ。ローズマリーと胡桃、レーズンを入れて、最後にラム酒で香り付けしている。

 焼きあがった後、1日、2日置いた方が美味しいので、アンジュが昨日作って今朝リシャール殿下にお届けしたケーキだった。


 トーイはケーキ、ケーキ、ケーキ、お茶のテンポで、さっさとお皿とカップを空にした。


 本当に好みのケーキだったのか満足そうに口元を緩ませているわりには、アンジュのケーキから目を離そうとしない。


(これって、まだ欲しいってことだよね。もしかして私のケーキ、トーイに狙われちゃっている?)


 アンジュはそっと自分の分の皿を、まだ食べたりなさそうなトーイの方へとずらした。

 トーイは声には出さないが、「いいの?」と、アンジュを見つめる。

 アンジュが頷くと、再び「いただきます」と、今度はさきほどよりもゆっくりと味わって食べ始めた。


 しがない研究員のトーイにとってケーキなどの甘味は、超がつくほどの贅沢品。めったに口にできるものではない。

 しかしアンジュの助手と言う立場になってからは、手作りのお菓子など結構頻繁に口にしていると思うのだが・・・・・・・。

 昨日も焼きあがったばかりのケーキを、味見と称してほぼ1本まるまる食べていたように思う。


(トーイの食い意地の問題だよね。トーイだからしょうがないで済ませる私もどうかと思うけど。)


 いつの間に来たのかフレッドが、新しいお茶のお変わりをトーイのカップに注ぐ。

 ほんとプロの中プロ。まさに従者の鏡だった。


 トーイにフレッドの爪の垢でも煎じて飲ませたい。まぁ飲んでも変わらないだろうから、飲ませないけどね。


 トーイとフレッドを見ていると、年齢だけの差とは思えない。トーイが10年後フレッドのようになれるかと言えば、自信をもってアンジュは無理だと言える。

 根本から何かが違うような。人間と珍獣くらいの違いがあると思うのは、アンジュだけではないと思う。


 今はアンジュの助手だけど、もともとはリシャール殿下の部下でもある。今のトーイを作ったのは、リシャール殿下であると言っても過言ではない。

 トーイのしつけ直しは、ぜひともリシャール殿下のお願いしたいと思った。


 アンジュはいつまでも見ていられないと、トーイの行動にくぎ付けの視線を無理やり引きはがす。

 ほんと危なっかしくって、目が離せない。

 これでアンジュより11歳も年上だなんて、信じらなかった。

 ほとんど馬鹿な弟を見守る、姉の心境だった。馬鹿な子を見る親の心境?かも。


「リシャール殿下、ご用件をお願いします」


 いつもでもこのままではいられないからね。怒られるのならさっさと怒られたい。

 アンジュが先を促すと、リシャール殿下も慌てて見ていたトーイから視線を引き剥がした。


(うん、わかるよ。珍獣すぎて目が離せないよね)


「ああ、すまない。話と言うのは、東の森で魔物が大量発生したらしい」

「魔物ですか?」


 魔物が大量発生と言われても、アンジュにはそれが何か?って、感じだった。想像もできない。 

 魔物退治は騎士団の仕事だし、薬学室にいるアンジュには、関係ないことだと思う。


 ここでこんな話が出るとは思わなくて、アンジュはぽかんと間の抜けた顔をしていた。


「準備が整いしだい第3騎士団が魔物の討伐に向かうことになった。

 発生しているのはビックフロッグ。

 カエルの魔物なのでそう強くはない。ただその数が異常発生していて、今回はテリィとマークも同行することになった」

「テリュース殿下とマーク殿下も、ですか?それって危険なのでは?」

「危険がないとは言えないが、ビックフロッグくらい討伐できなければ、騎士とは言えないからね」

「それは・・・・・・?」


 テリュース殿下も、マーク殿下も、騎士ではない。

 それでも王族として、戦かわなくてはいけないこともあるのだろう。その為の訓練や修養は、必要なことなのだと思う。


 しかし、アンジュの胸を言い知れぬ不安が過ぎる。

 怖い!怖い!怖い!

 恐怖が足元から浸食してくるかのように、身体が冷たくなって行く。

 テリュース殿下を、魔物の討伐になんて行かせたくなかった。


(虫の知らせなんてことは、ないわよね)


 ふり払えない不安。拭いきれない恐怖。

 魔物の討伐など、アンジュにとっては未知の領域だった。


「それで、アンジュ。ここからが本題になる」


 今までの話は前ふりとばかりに、リシャール殿下の真剣な瞳がじっとアンジュを見つめる。

 強いブルー瞳に見つめられ、アンジュは思わず背筋を正す。今から何を言われるのかと思うと、胸の鼓動が早くなった。


「はい」本題って、何?


「討伐に向かう騎士たちの為に、ポーションの準備を手伝ってくれないか?」

「ポーションですか?」


(今、ポーションって言った? あのポーションだよね、私が作っていいの?やっほーっ!)


「ああ、危険はないとはいえ騎士たちを、万全の準備で討伐に行かせてやりたいからね」

「備えあれば憂いなしですね」

「そうだね。頼めるかな、アンジュ」


 討伐に向かうテリュース殿下のことを考えると不安は過るが、自分の手でポーションが作れると思うと、不謹慎だがワクワクしてしまう。


(ポーションだよ、ポーション。魔法のお薬だよ。異世界、最高!)


 アンジュは姿勢を正すと、リシャール殿下を見つめ、はっきりと今の気持ちを口にした。


「もちろんです、殿下。私でお役に立つのなら、お手伝いいたします。ポーションの作り方を教えてください」


 



 




読んで戴きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ