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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
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21.フットスプレーを作ろう!

 その日、いつものようにアンジュが研究室で、助手のトーイと薬品の調合をしていると、


「アンジュ、トーイ、ちょっといいかな?」


 と、リシャール殿下に手招きされた。


 助手のトーイことトーイ・オルエム、23歳。性別、男性。

 商家の出身だが、羨ましいほどに魔力量がめちゃくちゃ豊富な上に、国立魔法学院薬学科を主席で卒業と言う実績を買われて、王国の薬学室に就職した研究者だった。


 マッシュルームカットの明るいブラウンの髪に、クリクリとした大きな琥珀色の瞳をしたトーイは、23歳と言う実年齢よりもかなり若くみえる。

 ぱっと見、アンジュとほとんど変わらない感じなのだが、それを言うと本人が落ち込むので口にはしないことにしている。


 あのクロードの為に作ったおじさまドリンクがバカ売れしてしまい、アンジュの知識が莫大な利益を生むと考えたリシャール殿下と父のクロードにつけられた、助手兼、お目付け役兼、護衛である。

 まだ実力を目にしたことはないが、剣の腕もかなりのものらしかった。


 リシャール殿下に呼ばれて、アンジュとトーイは顔を見合わせる。呼ばれる理由が解らなかった。


「トーイさん、何か失敗でもされましたか?」


 自分のことは棚上げ状態でしれーっと話を振るアンジュに、いつも尻拭い?をさせられるトーイは、渋い顔で返す。


「いえいえ、姫さんこそ、何かやらかしたのではないですか?」

「えーっと、まだ今日はやらかしてはいないと思うのですが・・・・・・・」

「まだって、姫さん。これからやらかすつもりですか?」

「そんなつもりはないのですが、起きてしまうものはしょうがないです。トーイさんも連帯責任で、お願いしますね」

「連帯責任でお願いしますねって、姫さん?心当たりがあるのなら、先に教えといて下さいよ。こちらにも覚悟が必要なんですから」


(覚悟って?ほんと失礼だよね)


 そんなことを言われても、アンジュには今のところ心当たりは全くない。それにいつも何かやらかそうと思ってやっている訳ではないが、結果そうなってしまうのだから仕方なかった。


 アンジュとトーイが、リシャール殿下の執務室に呼ばれるのは、これが初めてのことではない。

 つい最近呼び出されたのは、お父様の足の臭いを消すためのフットスプレーを作った時のことだった。



               ◇◆◇◆◇



「お父様の足、・・・・・・とても臭(くさ)いです」 


 ぷーんと部屋中に漂うあまりの臭(くさ)さに、アンジュがうるうるの涙目で父のクロードに苦情を訴えた。

 においに色がついていたら、部屋中が黄色に染まっていそうなくらい臭(くさ)かった。


(なんで臭(くさ)いにおいの色って、黄色なんだろう?赤色のにおいだったら、命の危険がありそうだよね。)


 アンジュだってなにもクロードを虐めようと思って、言ったわけではない。

 鼻が曲がってしまいそうなこのにおいに、思わず言葉が口をついて出てしまっていたのだから、しょうがない。


 他の家族たちはクロードを気遣ってか、ただ単ににおいに対しての苦情を口にして父の怒りを買いたくないだけなのか、誰もこのにおいについて触れようとはしなかった。 時々顔をしかめる者もいるが、ほぼ黙殺状態。よく我慢できるものだと思う。


 それでも臭(くさ)いものは臭(くさ)い。ここは末っ子の特権、子供なら許されるとばかりに、言ってしまっていた。


(だって、我慢できなかったのだからしょうがないよね。臭(くさ)いものは、臭(くさ)いのです。)


 しかしクロードにとって、可愛い愛娘の『臭(くさ)い』の言葉は、とても痛かったようで・・・・・・。

 誰も好き好んで可愛い娘に、嫌われたくない。

 困ったように眉を寄せるクロードを見て、アンジュは口を滑らせてしまったことをすぐに後悔した。

 確かに一日中革靴を履いてお仕事をしていれば、蒸れて足も臭(くさ)くなるよね。


 この世界、前世のようなフットスプレーみたいなものもないようだし、愛娘に涙目で臭(くさ)いって言われてもどうしょうもない。

 アンジュもクロードを、困らせたいわけではなかった。


 ーーーーーそれなら、よし、フットスプレーを作ろう!


 と、なったのだが、ここまでなら普通の話。

 何もやらかしてないと思うでしょ。


 可愛い娘が、足の臭(くさ)い父親の為にフットスプレーを作る。

 ちょっとお涙頂戴、感動ものじゃない?


 しかしここは異世界なのです。

 アンジュの知識プラス、異世界の原材料プラス、魔法プラス、妖精さんの力が加わり、なぜかトーイの力まで加わったら、なんと足のにおいだけでなく、クロードの水虫まで完璧に治してしまった。


 それこそ即効で効いた。


 キターーーーーーーーっ!って、感じに。


「うむ、これをアンジュが作ったのか?」

「はい、お父様の為に作りました」

「アンジュ、凄いぞ。足のにおいが消えた。むむむむ?」

「お父様、どうされました?」

「・・・・・・水虫まで治っている」

「お父様、水虫だったのですね。でもにおいだけでなく、水虫も治ってよかったです」

「アンジュ、よくやった。これは凄い!」


と、クロードからは、健康ドリンク以上の大絶賛を戴いた。


 足が臭(くさ)くなくなり、水虫までが治ったのなら、良かったよね。で、終わるところなのだが、この世界、足のにおいや水虫で苦労している人が、とても多かったみたい。


(皆さん、水虫で苦労されているのですね。)


 そう言えば前世での父親も、水虫で苦労していたように思う。

『お父さんの靴下と、私の洋服を一緒に洗濯しないで!』って、散々母に文句を言った覚えがあった。

 今思えば結構酷いことを、言ったものだと思う。


(前世のお父さん、酷い娘でごめんなさい。)


 クロードにプレゼントして終わりとなるはずだったフットスプレーだったが、その日のうちにアンジュはトーイとともに、リシャール殿下の執務室に呼び出された。

 そこにはもちろん父のクロードが同席していたのは、言うまでもない。


 まぁやらかしたと言っても、失敗して呼び出されたわけではなく、凄いものを作ってしまったってだけなんだけどね。


 別に怒られたわけではない。

 呼び出されて、何かを作るときはホウレンソウ、つまり報告、連絡、相談を忘れるなとしっかり、はっきり、くっきり言われたってだけのこと。

 ほんと耳にタコって感じだったけど、大人二人のご忠告はありがたく戴いておくことにした。


 堅苦しい話も終わりほっと一息、アンジュは肩の力を抜く。一応神妙にしていたため、肩や腰が凝ってしまっていた。


 横を見ると一緒にお小言を聞いていたはずのトーイは、先ほどまでの神妙な様子はどこへやら、出されたお菓子をパクついていた。しっかりお茶まで戴いている。


(ほんとトーイって、切り替えが早いよね。羨ましい。)


 アンジュはトーイのこの切り替えの早さが、嫌いではなかった。




読んで戴いて、ありがとうござます。

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