2.お子様同伴のお茶会 1
その日、アンジュ・ド・トゥルース 12歳は、フランドール公国の王妃であるアーデル・ド・フランドール様に招かれ、母アンヌ・ド・トゥルースとともにお茶会に出席していた。
本日、王妃様の薔薇園に招かれたのは、フランドール公国内の上位貴族の奥方と、上は15歳から下は12歳までの十数人の子供たち。
大人たちから少し距離を置いて、子供たち用にもテーブルがセットされている。
大人のお茶会のミニチュア版のようなセッティングを見て、アンヌが満足そうに眼を細める。
少女趣味のお二人が企画しただけあって、すべてがフリフリで統一されていた。
招待客の中には男の子もいるのに・・・・・・。男の子たちはさぞかし座りにくいに違いない。
「アンジュちゃん。若い人は若い人同士、今日はしっかり楽しんでいらっしゃい♥」
まるでお見合いのおばさんのようなことを言って、アンヌがニンマリと笑う。何を期待されているか解らないが、アンジュにはとてもご期待には添えそうになかった。
「はい、お母様・・・・・」
楽しめるとは、とても思えませんが・・・・・・。
従順なアンジュの返事にアンヌは満足そうに頷き、端から見れば仲良し親子のように繋がれていた手を放した。
見ようによっては仲良し親子だが、別に仲良しだから繋いでいたわけではない。
隙があれば常に引き籠ろうとするアンジュが逃げ出さないように、アンヌに捕まえられていたに過ぎなかった。
それを証拠にアンジュの小さな手は、アンヌが逃がさないように力を込め握られていたため、白くなってしまっていた。やっと放してもらえていきなり血流がよくなったのか、今は赤く痺れてしまっていた。
ここまで来て今更逃げようとは思わないが、できれば来たくはなかったと言う思いは否めない。
捕まえられていた状態からもわかる通り、ここ数日、アンジュもそれなりの抵抗を試みた。
年の功?母親の感!と言ったらいいのか、アンヌの方が何枚も上手だったのだ。
腹痛に頭痛、神経痛。仮病などはすぐに見破られるし、温室や納戸やトイレに隠れても、すぐに見つかってしまう。
最終手段として、末娘にゲロあまな父であるクロード・ド・トゥルース公爵を味方につけようとしても、愛する妻の黒い微笑みを見て、彼は早々に逃げ出した。
本当に役に立たなかった。
アンヌの手の温もりが離れて、アンジュはほっと息を吐きだす。
別にアンヌとアンジュは、仲が悪いわけではない。
アンヌに限らず、アンジュが他人との距離感が上手くつかめないだけの話。人見知りと言うか、人と接しているより、自分の温室で薬草に触れていたかった。
だいたい24歳の記憶を待った12歳児が、同じ歳の子たちとうまく行くわけがない。
その上、転生したこのフランドール公国にも、ハーブや薬草の数々がいっぱいあって、千尋の記憶は無駄にはならなかった。むしろ役立つことこの上ない。
この喜び、この感動が解っていただけるだろうか? 異世界、最高!
研究することが多すぎて、時間が足りないくらいなのに、この世界では結構良い身分に生まれ変わってしまったせいで、やれ社交だ、お茶会だとアンジュにとってはどうでもよいことに、ひっぱり回されてしまっていた。
これでも一応公爵令嬢だし、ねぇ。
今日も今日とて、親同伴のお茶会に、連れて来られてしまっていた。
――――――ああ、帰りたい。
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