198.【トゥールース領】連れて行かれた先には・・・
気が付けば半年以上も更新していなかったです。
これからも不定期ですが、がんばります。
さっそく、村長から手渡されたワンピースに、着替えてみる。
前世ではともかく今世では初体験の綿のワンピースは、お貴族さまのドレスに比べて、軽い上に着心地はとても良かった。
(いくらお貴族様に転生したからと言って、根っこの部分では庶民出身だかね。この着なれた肌触り、綿のワンピース、最高!)
共布で作られた三角巾を頭につけると、あーら不思議。
--------可愛い村娘の出来上がり。
(ちょっと自画自賛し過ぎ?)
アンジュの黄色味の強い金髪が、三角巾で程よく隠れていい感じになる。
靴のサイズもピッタリで、かかとが低くとても歩きやすかった。
昨日までズル剥け状態だった足の裏は、ポーションのおかげもあってなんの跡形も残っていない。これならいくらでも歩けそうな気がした。
村長の亡くなった奥さん、マーシュさんの若い頃のものと言っていたが、とても大切に保存されていたようで・・・・・。
(私が借りちゃっていいのかな?愛妻の思い出の品だよね)なんだか申し訳ない気がした。
アンジュが着替えて少しすると、気を使って部屋を出ていてくれたのか村長が部屋に戻って来た。
「着替えたか?」
「はい。ピッタリです」
アンジュは嬉しそうに、その場でクルリと回って見せる。軽やかの広がるスカート。ダンスだって踊れそうな気がした。(踊らないけどね)
「ああ」
村長は眩しそうにアンジュを見つめると、慌てて目を反らす。
それからアンジュが脱いだドレスを麻袋に詰めると、どこかに持って行ってしまった。
汚れてしまっているとはいえ、公爵令嬢のドレスなのだ。売れば幾らかにでもなると思う。布やレースなどは、それなりに高級な素材が使われていた。
しかし貴族令嬢のドレスなど、この村では需要などあるはずもなく。王都でならともかく、ここではただのゴミに違いなかった。
(捨てられてしまうのかしら?結構お気に入りだったのに・・・)
未練がましく麻袋の行方が気になったが、返してくださいとは言えない雰囲気だった。
(中身は庶民だからね)
「では、行こうか?」
戻ってくるなり、村長が言う。
「えっと?」
では行こうか?って、いったいどこへ?と聞く間もなく、村長がスタスタを部屋を出て行く。
アンジュはもう一度姿見で自分の姿を確認すると、村長の後を追った。
慌てて村長を追いかける。
玄関を出たところには、もともとどこかへ出かける予定でもあったのか、牛車が用意されていた。
大きな牛が引く荷車の半分ほどには、この村の特産物である薬草らしき物が積まれていた。どこかに納品にでも行くのかもしれない。
「乗りなさい」
村長に言われ、アンジュは牛車を見、そして再び村長を見る。
(乗りなさいって、言われても、ねぇ)
言われていることは解るが、アンジュにとって牛車に乗るのは初めてのことで、どこにどうやって乗ればいいのかも解らなかった。
通常馬車での移動はするが、牛車に乗った経験はない。
牛車は、荷物を乗せるもので、人が乗るものではなかった。
(だって、貴族令嬢だもん。これ貴族様の常識!)
アンジュが牛車に乗ったなどお母さまに知られたら、きっと卒倒するに違いなかった。
アンジュにとって牛車に乗ることには抵抗はないが、どこに乗ればよいのか解らない。面白そうとは思うが、どうすれば良いのか本当に解らなかった。
(牛車なんて、前世でも乗ったことないし、どうすればいいわけ?)
「そうか、これならどうだ?」
アンジュの戸惑いに気づいたのか、村長が荷車の空いているところに、筵をひく。筵の下に藁を敷いて、座りやすく調えてくれた。
「ありがとうございます」
「.....」
アンジュがお礼を言うと、村長は怒ったように顔を背ける。耳が赤いので、照れているのかも知れなかった。
「早く、乗りなさい」
ぶっきらぼうに言って、アンジュの手を取る。ぶっきらぼうな口調に反して、優しくアンジュを筵の上に座らせてくれた。
「ありがとうございます」
初めての牛車体験。再度お礼を言って、なんとか座りやすい位置にアンジュが腰を落ち着かせると、村長はさっさと御者台に座る。
何の合図もなしに、牛車は動き出した。
(ほんと、何処に行くんだろう?)
ガタガタと農道を、牛車が走る。
日頃から揺れない上等な馬車にしか乗ったことのないアンジュにとっては、かなりの苦行だった。
(だって、公爵令嬢ですもの)
道とも言えない荒れ果てたデコボコ道を、上ったり下がったり、飛び跳ねたりとアンジュの身体をもみくちゃにする。
口を開けると舌を噛んでしまいそうで、奥歯をぐっと噛みしめ、転がり落ちてしまわないように荷車の縁をぎゅっと握りしめるが、ダイレクトに身体を痛めつける衝撃を緩めることはなかった。
(これって、いつまで続くわけ?いったい、どこに行こうとしてるの?ここ、どこなのよ)
アンジュには、ゆっくり辺りを見る余裕もなかった。
気づくと牛車は、背の高い葦のトンネルの中を走っていた。
葦が牛車の回りを取り囲み、アンジュには葦のトンネルしか見えない。どこを走っているのかも、解らなかった。
(まるで異世界へと続く、無限トンネルみたい。私からすれば、ここはすでに異世界だけどね)
荷車の端を握りしめた指先が冷たくなり、痺れを感じはじめる。
身体のあちこちが痛かった。腰も麻痺したように、痺れてしまっている。
さすがにもう限界かもと、思いはじめた頃、アンジュの視界がグニャリと歪む。
テリュースのゲートの魔法を、抜けた時の感覚にも似ていた。
いっきに視界が開らけ、まわりが明るくなる。気づくとアンジュの目の前には、高い壁がそびえ立っていた。
(ここはどこ?この壁って、いったいなに?)
こちらと向こう側を完全に遮断するように現れた頑丈そうな壁。
牛車はその壁の前で、止まった。
(どうなるの、私?)
読んで戴きありがとうございました。