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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
196/199

196.【トゥールース領】アンジュ記憶喪失になる?

 今まで自分の非力さを、これほど感じたことはなかった。

 部屋の中には座る椅子すらないので、身支度を整えた後、ベッドに腰掛け、非力なアンジュではびくりともしない鍵のかかった扉をただ睨みつけることしかできない。


 これから自分がどうなるのか?

 いったいこれからどうすればいいのか?今は何1つ、考えつかない。

 トーイが今どこにいるかさえも解らないし、テリィたちの迎えがいつ着くのかも解らない。本当にテリィたちが迎えに来てくれているのかも解らなかった。


 今、解っていることは、この村で何か大規模な悪事が進行中であると言うことだけ。


 何の下準備もなく、妖精たちによっていきなりラーク村に連れてこられて、アンジュは今ハルワ村長の家の、部屋の一室に閉じ込められている。それが今のこの状況だった。


「おうちに帰りたいよぉ」


 ついいつもの口癖が、口をついて出てしまった。お家が大好き、薬草園が大好きなアンジュにとって、お家にかえりたいは、もう口癖になってしまっている。

 口をついて出てしまった弱音は、誰に聞かれることなくすーっと空へと消えて行ってしまった。

 

 ほんと貴族令嬢なんて何にもできないし、非力すぎて役に立たない。

 まだ前世の方が、体力的にもましだったような気がするが、それでも平和な世界で勉強ばかりして育ってきたので、やはりなんの役にも立ちそうになかった。

 アンジュが唯一持って転生した前世の記憶、薬学の知識も、今はなんの役にも立たなかった。


 自分がアンジュ・ド・トゥルースだと、身分を明かせばなんとかなるかもしれないが、ここに来てから見聞きしたことを考えると、返って身分を明かす方が危険なような気がする。


「このまま、迷子の貴族令嬢で通すしかないみたいね」


 しかし供の者とはぐれた貴族令嬢はいいとして、何故はぐれたとか、どこに行くはずだったのかとかいろいろ聞かれたら、答えようがなかった。


(いっそのこと、記憶喪失にでもなる?)


 いろいろアンジュが考えていると、扉の向こうからだんだん足音が近くなってくるのが解った。

 重そうな足音は、ハルワ村長に違いない。

 しばらくするとノックもなしに部屋の扉が開き、アンジュの想像通りこの家の主であるハルワ村長が、手に朝食らしきものを持って入って来た。


「起きたか?」


 いきなり部屋へとはいって来て、起きたか?もないと思うのだが、一宿一飯の恩がある。

 ここは少しでも愛想良くしておいた方が良いに決まっていた。(これでも一応、貴族令嬢だしね。)


「おはようございます。お食事だけでなく、ベッドまでおかりしたみたいで申し訳ありません」


 他人の家で食事をしている途中で眠ってしまうなんで、危機感がなさ過ぎると自分でも思う。一応は深く反省していると、ハルワ村長がクスリと笑ったように見えた。


「ずいぶん疲れていたみたいだな」

「はい。とても疲れていたみたいで、ぐっすり眠らせてもらいました」

「ところでおまえ、名前は何という?」

「・・・・・名前?」


 突然、ハルワ村長に名前を聞かれ、アンジュは口ごもる。

 そう言えばと、昨夜は名のっていなかったことを思い出した。

 名前は?と聞かれて、咄嗟には出て来ない。

 このキナ臭ささ漂う中で、本名を名乗るわけにもいかず、かと言って初対面の相手なら、当然名乗りは必要だった。

 これだけお世話になったのだから、名乗らないわけにはいかない。


(う〜っ、どうする?どうすればいい?)


 偽名なんて咄嗟に考えもつかない。身近なひとの名前でも借りてしまおうかと思うが、適当に拝借できる名前も思いつかなかった。


(うわーん、名前、名前、名前って、どうするのよ?)


 焦れば焦る程、頭の中は真っ白になって行く。

 ハルワ村長は何かに気づいたように、アンジュの顔をマジマジと見つめる。


「もしかして、おまえ・・・・・」


(えっ、なになに、もしかしてって?もしかして、私がアンジュだってことが、ばれちゃった?)

 

 アンジュであることがばれてしまったのかと内心焦るが、やはり頭の中は真っ白で何も言葉が出てこない。気持ちは焦るばかりで、どうしたら良いのか、本当に何も解らなかった。


(どうする?どうする?・・・・・どうするのよ。わーん、ぜんぜん思いつかない。)


 同じ言葉がグルグルと、アンジュの頭の中を廻っていた。


「もしかして・・・・・、記憶を失っているのか?」


 (・・・・・記憶を失っている?)


 それって記憶がないって、ことよね。

 記憶喪失って言うことは、当然、自分の名前を思い出せなくても、しかたがないことで。

 今のこの状況に、ピッタリだと思う。


「そ、そうです。私、記憶喪失なんです」


 ここはひとまずハルワ村長の言う通り、アンジュは記憶喪失になることにした。

読んで戴きありがとうございました。誤字脱字報告ありがとうございます。

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