195.【トゥールース領】目を覚ますと閉じ込められていました
アンジュが目を覚ますと、見知らぬ部屋のベッドの上に寝かされていた。
「意外とすっきりした目覚めですねぇ」
両手にギュッと拳を作り天に向かって突き上げ伸びをすると、かなり体調は良いような気がした。
ポーションのおかげと、しっかりと眠ったのが良かったのか、アンジュの体力は完全とは言えないまでもほぼ回復していた。
何故この部屋で寝ているのかと考えて、ふと寝る前の状態が頭を過る。
確かハルワ村長にシチューを、ご馳走になって―――――。
「お腹がいっぱいになると、眠ってしまうなんて・・・・・」
アンジュは思わず、自分の頭を抱え込む。穴があったら入りたいとは、このことを言うのだと思った。
まるで子供だと、自分で、自分につっこみを入れる。
まだこの村の現状も解っていないのに、あまりにも無防備過ぎる。
と、いろいろ考えても、今更だった。寝てしまったものは、しかたがない。後悔は先立たずだった。
「そう言えば、トーイはどうしたかな?」
道具小屋にアンジュがいないと知って、今頃はきっと心配して探しまわっている違いなかった。
アンジュは運よく?ハルワ村長に保護され、お腹いっぱいの食事を戴いた上に、ちゃんとしたベッドの上で寝られたけれど、トーイはまだ気の休まらない時を過ごしているかもしれないと思うと少し申し訳なかった。
(あのトーイのことだから、きっと私を探しているわよね。)
そう思うと、いつまでもここでダラダラしているわけにもいかないと思う。
アンジュはベッドから飛び起きると、簡単に鏡で顔や全身をチェックする。
(これでも一応、貴族令嬢だからね。涎後など・・・・・。うわぁ!)
涎後はかろうじてないものの、髪の毛はぐちゃぐちゃだし、ドレスも汚れている上に皺だらけだった。
(こんな姿、ぜったいにテリィに見せられないよ)
恋人には、いつでも綺麗だと思われたいものです。
いつもならば侍女が起こしに来るまで、ベッドの中でグズグズ、ゴロゴロと待っているのだが・・・・・。
ここはハルワ村長の家だし、侍女などはいない。着替えなど持って来てくれるはずがないのだから、このままでいるしかなかった。
髪の毛を手櫛で整え、一通りチェックを済ませると、部屋を出ようと扉へと向かう。
意気揚々とノブに手をかけ、(さぁ、行くぞ!)
「あれ?」
ノブを回そうとするのだが、ビクリとも動かなかった。
「あれ?あれ?なんで?」
寝起きの頭では何故ノブが動かないのか、アンジュにはすぐには理解ができなかった。
扉はノブを回せば、開くはずなのだ。(普通はね)
「もしかして、私、閉じ込められているのかな?」
ガチャガチャと何度かドアノブを回し、やっと思い至った考えそれがだった。それしかないとは解っているのに、まだ自分の情況が理解できていない。理解をアンジュの心が、拒否していた。
(まさか私が、閉じ込められるなんて)
食事の時の雰囲気は悪くなかったと思う。ハルワ村長の態度も、普通だったと思う。
(・・・・・・それなら何故、閉じ込められた?)
しかし後から考えると、身なりの良い貴族令嬢らしき美しい少女が、自分の家の道具小屋に潜んでいたら、見るからに怪しいと思うよね。
そんな怪しい少女にポーションまで与えくれて、食事までご馳走してくれるほうがおかしいと思わなくてはいけなかったのだ。
(ほんと私って、危機感なさ過ぎだわ。)
しかし、今ここで後悔していても、先には進めない。さて、これからどうするか?が問題だった。
ハルワ村長はアンジュの怪我を治療してくれた上に、食事も与えてくれた。そして清潔なベッドで、寝かせてくれた。
(・・・・・なのに、この状態って?)
この部屋の扉には確かに鍵がかかっているが、アンジュには監禁されていると言う感じはまったくなかった。
(まずはハルワ村長がどう言う気持ちでいるのかを知らないと、どうにもならないよね。)
今はハルワ村長がこの扉を開け、入って来るのを待つしかない。
アンジュはじっと鏡に映った自分の細腕を見つめる。重たいものなど何も持ったことのない貴族令嬢の腕だった。
非力な自分では、扉を壊して外に出ることはできそうにない。
今、逃げることを考えるよりは、この村が置かれている状況を知ること先決だと思う。
(私の運動神経では、どうやっても逃げられそうにはないし、ね。)
「なんだか長期戦になりそうね」
それも仕方のないことだと思う。
中途半端に知ってしまった事実。
水面下で進行中の、なんらかの悪事。
それもラーク村と言うトゥルース家の領地が巻き込まれているのだから、アンジュ自身、知らなかったことにはしておけなかった。
読んで戴きありがとうございました。誤字脱字報告ありがとうございます。