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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
189/199

189.【トゥールース領】お姫様抱っこで運ばれた先は・・・

 お姫様抱っこで運ばれた先には、トーイの言った通り道具小屋らしき建物が立っていた。


「・・・・・本当にあったんだ」

「だからあるって、言ったじゃないですか」

「言ってたけど、私には見えなかったんだもん」

「だもんって・・・・・。姫さんも、あの目薬をさした方がいいんじゃないですか?」


 トーイが言ったあの目薬と言うのは、キャリーの為にメグスリノ木などを使って作った目に入れるお薬だった。

 効果はかなりのものらしく、クロードやリシャール殿下のお墨付き。王都では100倍に希釈したものがとても好評だった。キャリーの目の調子も良いと、リシャール殿下経由で聞いていた。


 そう言えばいろいろあり過ぎて、キャリーには何も言わずにトゥールース領に来てしまっていた。


(キャリーにはお手紙ででも、お知らせしておいた方がいいわよね。)


 いろいろあり過ぎて何から書けばいいのか解らないが、とりあえず今、何処に居るか知らせておいた方が良いと思う。


「それにしても・・・・・、いろいろあって視力が落ちたのかな?」


 掌で右目を隠し左目で辺りを見る。今度は反対に左目を掌で隠し右目で見るを繰り返してみたが、しっかり見えているように思う。

 この建物が見えなかったのは、アンジュの目のせいだけではないような気がした。

 やはりトーイの目の方が、異常すぎるのではと思う。

 このラーク村に来てからのトーイは、一味違っていた。まさにスーパートーイと言った感じだった。


「姫さん、ちょっと中の様子を見て来ますから、()()()()()ここで待っていてくださいね」


 トーイは()()()()()を強調して言うと、アンジュを道具小屋の陰に隠すように置いて中へ入って行く。

 わざわざ()()()()()と言い置いて行かなくても、アンジュは足がいたくてもう立ち上がることさえできそうになかった。


 しかしとうのトーイはアンジュをお姫様抱っこしてこの道具小屋まで走ったにも関わらず、息も乱れていない。疲れた様子は、まったくなかった。汗ひとつかいていない。


 身軽に道具小屋へとはいって行く姿は、まるで前世の忍者のような身のこなしだった。

 あらためてトーイって何者なんだろう?と考えてしまった。


(まぁ、考えても答えは出ないけど、ね。)


 数分後―――――。そんなに時間は経っていないと思うのだが、1人で待たされる時間は長く感じた。


「・・・・・トーイ、早く戻って来ないかな?」


 なにかあれば悲鳴を上げれば聞こえる距離だし、すぐに助けに来てくれるとは思う。今のところ切羽詰まった危険はないと解っているのに、やはりひとりは心細かった。


 トーイが中に入って数分経つが、未だに争う声も、もの音も聞こえてこない。

 見たところそんなに大きくもない道具小屋の中、いったい何を調べているのか不思議だった。


「姫さん、おまたせしました。ここは大丈夫そうです。疲れたでしょうから、中で少し休みましょう」

「う、うん」


 戻って来たトーイの顔を見て、ほっとしたことは内緒だった。本当は弱虫だと、知られたくはなかった。


「じゃ、もう少しがまんしてくださいね」

「えっ、あ、はい」


 トーイはまた躊躇なくアンジュを抱き上げると、小屋の中へと入って行く。歩けないことを、トーイにはすでに見透かされているようだった。


 薄暗い道具小屋の中は、農作業用の道具が置かれている他、ちょっと休憩がとれるようなスペースもあった。

 外の見た目より、中はかなり広い感じがした。


 もっと道具が雑然と置かれていて、足場さえない状態を想像していたのだが、道具はきちんと整頓され、思っていたほどには中は汚れていなかった。


 こんもりと積まれた藁の上に下ろされると、アンジュはほっと息を吐き出す。ふかふかのクッションとまではいかないが、座り心地は悪くなかった。


 ほとんどトーイにお姫様抱っこしてもらってここまで来たのに、アンジュは体力的にも限界だった。

 それよりなにより、早く靴を脱いでゆっくりしたい。


「トーイさん、ここで靴を脱いでもいいですか?」

「靴ですか?姫さんが脱ぎたいのなら、脱いでもかまいませんが・・・・・、いいのですか?」


 貴族令嬢としては、男性の前で素足を晒すのはいけないことだった。

 淑女としては、ここで靴を脱ぐべきではないことは解っている。

 でもここはキラキラ、ピカピカの貴族の社交の場ではない。ここはただの道具小屋だし、目の前にはトーイしかいなかった。


 靴の中が、いったいどうなっているのか?早く脱いで、確かめたかった。


「今は見なかったってことで、お願いします」

「了解しました。殿下たちには内緒と言うことで、姫さんのおみ足は見ませんので、どうぞやっちゃてください」 


 アンジュが殊勝にお願いすると、トーイは笑いを堪えるように顔を反らす。約束通り、アンジュのはしたない姿を見ないでくれるらしかった。


「はい、それでは失礼して」


 一応トーイの許可も出たことだし、別にトーイの許可なんていらないけど、ね。少しの間だけでも靴を脱いでいようと、アンジュは靴の踵を持ち脱ごうと試みる。

 しかしいつもならするりと抜けおちる靴は、張り付いたようにぴくりとも動かない。これでは靴を脱ぐことはできなかった。


「うっぐっ!」い、痛いです。

「姫さん、大丈夫ですか?」


 こちらに背を向けていたトーイは、アンジュのうめき声に驚き、慌てて振り返る。

 もうここは、トーイに頼むしかなかった。


「トーイさん、お願いがあります」

「・・・・・お願いですか?」

「はい、お願いです」

「えっと、お願いと言うのは、なんでしょうか?」

「靴を脱がせて、欲しいのです」


 力いっぱい引きはがせば良いのかも知れないが、自分でやるには怖すぎる。痛いのは、やはり嫌だった。


「えーと、俺が姫さんの靴を、脱がすのですか?」

「はい、トーイさんに私の靴を、脱がして欲しいのです」

「え~っ、俺が脱がすのですか?」

「はい、お願いします」


 アンジュお得意の少しウルウルの瞳で、上目使いにトーイを見つめる。胸の前で両手を組み、お願いと訴えてみた。


 ここでのウルウルの瞳は演技でもなんでもなく、本当に足が痛くて出た涙なのだが演出効果はどちらも変わらないと思う。


 トーイがゴクリと、生唾を飲み込んだのが解った。


 彼の瞳にアンジュがどう映っているのかは良く解らないが、今回も効果はあったみたいだった。


「俺が姫さんの靴を、脱がせてもよいのですか?」

「はい、トーイさん、お願いします」


 何度も同じことを聞かないで、さっさと靴を脱がせて欲しかった。

 目尻から堪えていた涙が、頬を伝い零れ落ちる。

 トーイがはっと息を飲むと、慌て出した。彼も女の涙には、弱いみたいだった。


「わ、解りました。靴を脱がせばいいんですね」

「はい。よろしくお願いします」


 お願いしますとアンジュは、まずは右足をそーっと差し出す。

 差し出された足を、トーイは恭しく両手で受け取ると、


「いいですか?脱がしますよ」


 トーイはアンジュの足から、靴を脱がそうと試みる。

 靴を掴み、アンジュを見る。アンジュはコクリと頷くと、痛みを覚悟してぎゅっと歯を食いしばった。


 トーイは靴など簡単に脱がせると思っていたようだが、靴はアンジュの足にぴったり張り付いたように、ピクリとも動かなかった。


「うっ」

「あれ?靴、脱げませんね」


 何度か靴を脱がそうと、トーイが試みるがなかなか脱ぐことはできなかった。

 うんうん唸りながらアンジュの靴と格闘しているトーイ見て、前世で読んだ『大きな(かぶ)』と言う絵本を思い出した。


(別に自分の足が、大根足ってわけではないからね。ただこのシチュエーションが、『大きな(かぶ)』のシーンと重なっただけです。念のため。) 


 大きく育った蕪を、みんなが力を合わせて引き抜くという話だったと思う。

 ねずみがねこを、ねこがいぬを、いぬが孫娘を、孫娘がおばあさんを、おばあさんがおじいさんを、おじいさんが蕪を掴んで引っ張ると言うシーンで、みんなの蕪を引っ張るときの掛け声が「うんとこしょ、どっこいしょ」と言う掛け声が、とても心に残るお話だった。


 アンジュは自分の靴をトーイが、トーイをおじいさんが、おじいさんをおばあさんが、おばあさんが孫娘を、孫娘をいぬが、いねがねこを、ねこをねずみが・・・と、必死にアンジュの靴を脱がそうと引っ張っている姿を想像していた。

 疲れと痛みでアンジュの意識が、飛びかけていたのかも知れない。


(お、おもしろすぎる)


「うんとこしょ、どっこいしょ」だよね。

「なんですか、それ?」


 アンジュは無意識のうちに、『大きな蕪』の掛け声を口にしていたようだった。簡単に絵本の内容を、トーイに話して聞かせる。


「いぬにねこにねずみが、引っ張るのですか?」

「あとおじさんと、おばあさんと孫娘もね」

「それは面白いですね。うんとこしょ、どっこいしょですね」


 トーイも掛け声を気に入ったようで、笑いながら何度も復唱していた。


「では、再度行きますよ、姫さん」

「うっ、はい、お願いします」

「うんとこしょ、どっこい()()!」


 何だか変な発音だったが、どっこいしょのしょの部分でトーイが力いっぱい靴を引っ張ると―――――。 スポ―――ン!と抜けた。


「うぎゃぁ!」


 痛いなんて、生易しいものではなかった。

 足の豆(水ぶくれ)はつぶれ、皮がべろーんと剥がれてしまっていた。中に入っていた滲出液(しんしゅつえき)が、皮が剥がれたことで靴の中に出てしまい渇いて固まってしまいなかなか靴が脱げなかったみたいだった。


 それにしても痛い。このまま意識を失えたらどんなに楽だったことか。


「これは酷いですね。姫さんの足の裏、ずる剥け状態ですよ」


 人が痛みに苦しんでいると言うのに、トーイが足の裏の状態を説明してくれる。見たくもない傷口を見てしまい、さらに痛みが増したような気がした。


「で、左足はどうしますか?」


 本当に血も涙もないことを、トーイが聞く。所詮は他人事、アンジュの痛みなどトーイに解るわけがなかった。


 右足だけでこれだけ痛いのだ。左足も脱ぐとなったら、どうなることか?怖い、痛い。しかし怖いけど・・・・・。

 右足がこれだけ酷いのだから、左足も同じくらい、もしくはそれ以上痛いはず。

 しかしこのまま左足だけ靴を、残しておくこともできなかった。

 ここは覚悟を決めて、不本意だが再度トーイにお願いするしかない。


「左の靴も、お願いします。すっぱり脱がしてやってください」


 本当に癪だが、再度トーイにお願いする。痛い思いをするために、お願いするのってなんだか理不尽なきがした。


「了解です。お願いされました」


 なんでそんなに明るい声で、お願いされるかなと思う。


(ただの八つ当たりだけどね。)


 もしかして右足のずる剥け状態を見て変な感覚に、目覚めちゃったとか?

 まぁ自分ではできそうにないし、ここにはトーイしかいない。


 アンジュは覚悟を決めて、左足を差し出した。 

読んで戴きありがとうございました。

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