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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
182/199

182.【トゥールース領】到着

新年、あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


ここからトゥールース領での、お話になります。

 王宮にあるテリュースの部屋のゲートを抜けると、一瞬で景色が変わる。そこは、領邸にあるアンジュの部屋だった。

 今まで6人とも王都にいたはずなのに、歩いて数歩でトゥルース領に着いていた。


(わぁ、私の部屋だ。凄い、もう着いちゃったよ。)


 ここトゥルース領には、アンジュはもう1年以上も来ていない。

 それなのに部屋の中は隅々まで綺麗に掃除されていて、1年以上前とどこも変わっていなかった。

 使用人たちが毎日、部屋に風を入れてくれているのか、空気も淀んではいない。

 いつでもすぐに生活ができるように、整えられていた。 


(うちの使用人さんたち、ほんと優秀で完璧だよね。まさにプロ中のプロ。最高の使用人さんたちです。)


「ここはアンジュの、部屋だよね?」

「そうですよ。テリィも何度か、来たことがありますよね」

「うん。覚えている」


 テリュースが懐かしそうに、部屋の中を眺める。

 子供の頃から変わっていない部屋の中は、いろいろな思い出の残像があちらこちらに残っているように思えた。


「なんだか落ち着きますね」

「うん、落ち着くね」


 テリュースと二人、窓際に置かれたソファに腰掛けると、気持ちがほっこりする。

 二人ともストレスが、かなり溜まっているみたいだった。


 目が見えなくなったり、毒を盛られたりとか、それぞれにいろいろあったのだから仕方がない。

 今は何も考えないで、ぼーっとしていたかった。


(静かだし、空気はいいし、ほんと、落ち着くよね。)


「誰も来ないな。気づいてないのか?ちょっと、テリィたちが着いたことを知らせて来るわ」

「ああ、頼む」


 アンリが部屋を出て、アーサーたちに来訪を告げに行く。

 いきなり王宮から、アンジュの部屋に来たので、領邸内のものたちは誰も気づいていないようだった。


(いきなり部屋の中に、王都から人が移動していたら驚くよね。)


  待つこと数分。部屋の外が急にザワザワと騒がしくなった。


「アンジュが、来たって?」


 いきなり扉が開き、ドカドカと人が入って来る。

 兄のアーサーに続き、祖父のガイフェウス、祖母のアレドラ、アーサーの婚約者であるシルキーナの後ろには、使用人たちまでもが連なっていた。


 とうていこの部屋に、入れる人数ではなかった。

 それでもひと目だけでもと、アンジュに会いに来てくれた使用人たちばかりだった。

 4人兄妹の中の紅一点、末っ子のアンジュは、本邸でもそうだが、ここの使用人たちにもとても愛されていた。

 彼らの中では、いつまでも守るべき小さい姫様のままなのかも知れない。それはそれでアンジュにとっては、心地よい人たちだった。


「アンジュ、良く来た」


 いきなり祖父のガイフェウスに、抱きしめられる。

 もともと武闘派の公爵だったガイフェウスは、引退して領地に籠ったとは言え、今でもかなり鍛えられた体躯をしていた。


 そんなガイフェウスに、愛情を込め抱きしめられたのでは、アンジュも堪ったものではない。

 あまりの息苦しさにアンジュはジタバタと暴れて抗議するが、ガイフェウスには喜んでいるくらいにしか思ってもらえなかった。


(た、助けて!おじいさま、死にそうです。苦しい~です)


「ガイ、そんなに抱きしめては、アンジュが壊れてしまいますわ」


 祖母のアレドラが気づいてガイフェウスを止めてくれなければ、アンジュの肋骨にはひびくらい入っていたかもしれなかった。


(愛情が凶器になるって、このことかも知れない。byアンジュ。(泣))


「ケホケホ・・・・、おじい様、おばあ様、お久しぶりです。しばらくお世話になります」

「まぁ、本当に素敵なレディになって」


 アレドラは、年のせいかとても涙もろくなったようで、アンジュの成長した姿を見て涙ぐんでいた。

 ハンカチでも差し出してあげたかったが、残念ながら今のアンジュには持ち合わせがない。


(女子力が低くて、すみません。だって突然追い立てられるようにこちらに来たので、本当に何も持っていない。みんなお父様が悪いのです。人のせいにするなってか?)


「もう婚約式を、挙げるお年になったのね。あの小さかったアンジュが、ねぇ」


 しばらく会っていなかったこともあるが、アレドラの中のアンジュは、いつまでたっても小さな子供のままのようで・・・・・。


「アンジュの婚約式にはわしも出席したかったのだが、クロードから止められて、泣く泣く諦めたのだ。クロードの奴め、わしを邪魔もの扱いしおって」


 そう言えばテリュースとの婚約式に、アーサーとシルキーナは出席してくれたが、ガイフェウスとアレドラの姿はなかった。


(クロードが止めていたとは、知らなかったけど。グッドジョブです。お父様。)


 もしガイフェウスが出席していたら、あんなに穏やかには終れなかったと思う。

 とてもあのくそ真面目なクロードの実の父親とは思えないほど、ガイフェウスは破格だった。(いえ壊滅的だった。)


 ちょうど婚約式の話も出たことで、前ふりはOKとばかりに、アンジュはテリュースを二人に紹介する。

 二人はアンジュに夢中で、テリュースの存在に気づいてはいなかった。


「おじい様、おばあ様、こちらが婚約者のテリィです」

「お久しぶりです。ガイ爺、アレドラ」


 テリュースが挨拶をした瞬間、ガイフェウスとアレドラは目を見開いて、固まってしまった。


(あまりお年寄りを驚かせたら、心臓が止まちゃうかも知れないよね。)


 しかしそこは引退したとはいえ、元公爵と元公爵夫人。声がひっくり返ってはいるが、立ち直りも早かった。


「で、殿下。お久しぶりでございます。今回は殿下も、ご一緒とは知りませんでした」

「まぁ、殿下。本当にご立派になられて、見違えましたわ」


「ガイ爺、アレドラも、元気そうでなによりだ。アンジュともども、しばらく世話になることになった。よろしく頼む」


 急に決まったことなので、ガイフェウスたちには、テリュースが来ることまでは知らされていないようだった。

 驚き慌てて礼を取る祖父母たちに、テリュースは楽にするように告げる。


「かまわない。そのままでよい」


 テリュースとは生まれた頃からの付き合いなので、王族とは言えほとんど身内も当然だった。


 テリュースも、自分の祖父母に接するような雰囲気で、笑顔を向ける。

 祖父母とテリュースが仲よくしている姿を見て、アンジュも嬉しかった。


「父から連絡を貰っていましたが、こんなに急なこととは思いませんでした。領を代表して歓迎いたします。どうぞ楽しい時間を、お過ごしください」


 兄のアーサーは落ち着いた様子で、テリュースに挨拶する。先にクロードから連絡があったのか、彼だけは驚いてはいないようだった。


「まずはお部屋で一度、落ち着かれてはいかがですか?ご案内いたします」

「解った。アンジュ、少し離れる」

「はい。また後でお会いしましょう」


 アーサーがテリュースを促し、部屋へと案内する。それにアンリ、コンラット、トーイと続いた。ガイフェウスたちもそれに続く。使用人たちは仕事に戻ったのか、いつの間にかいなくなっていた。


「また後でね、アンジュ」

「はい、おばあ様」

「アンジュ、今回は長くいられるのだろう。ラーク村の村長が会いたがっていた。一度行ってやるがいい」


 ラーク村と言うのは、邸宅から一番近い場所にある大きな村だった。

 消化器系の薬草であるウコン・カミツレ・エビスグサ・ツルナ・リンドウ・ヨモギなどを、多く栽培している。

 前世同様、消化器系の薬はこの世界でも需要が多いらしく、言葉は悪いがとても儲かっている村だった。


「まぁ、ラーク村のハルワ村長がですか?ほんと久しぶりです。明日にでも、行ってみますね」

「ああ、そうしなさい。それではまた、後でなアンジュ」

「はい、おじい様」


 みんなが一斉に引き上げると、部屋にはアンジュとタマラだけが残った。部屋の中が急に静かになり、なんだかとても広く感じてしまう。

 アンジュはふっと、気が抜けてしまったような気がした。


「姫様、お疲れはないですか?」

「王都からここまで、まだ数分しか経っていませんからね」

「そうですね。まるで夢をみているようです」

「本当に、不思議よね」


 とても便利なテリュースのゲートの魔法のお陰で、アンジュは疲れるほど何もしていなかった。通常王都からここまでは、どんなに急いでも馬で数日はかかるのだが、実際今回の所要時間は数分だった。


(トンネルを、くぐっただけですものね。)


 窓を開けると、やはり領地はいいなぁと思う。

 王都とは空気も景色も、何もかもが違っていた。

 この窓からは見えないが、トゥルース領では薬を作るための、いろいろな薬草を栽培している。


 たとえば頭痛薬なら前世ではポピュラーだった葛根湯などの原材料、葛根(かっこん)麻黄(まおう)大棗(たいそう)生姜(しょうきょう)桂枝(けいし)芍薬(しゃくやく)甘草(かんぞう)などを栽培している村があり、腹痛ならカミツレ・ゲンノショウコ・ハス・ハトムギ・ヨモギなどを栽培している村がある。


 大小さまざまな村が、特有の薬草を栽培しているため、村自体もとても潤っていた。


(この世界、薬は高価だからね。薬、最高!)


 それら薬草を加工して薬に調合するのは教会のシスターや併設する孤児院の者たち、信者たちのお仕事で、宗教的な建物ではあるが、病院や調剤薬局と言った役割も含んでいた。

 トゥルース領では村々に必ず1つは教会があり、地域に密接して薬を作っている。


 アンジュがいる領邸のある場所は、トゥルース領の中の街の部分にあたり、村々で栽培された薬草が教会で薬となり、この街に運ばれ、遠くは外国からも買い付けに来る。

 薬の売買取引が行われ、とても活気があった。


 アンジュは子供の時から祖父のガイフェウスに連れられ、いろいろな村々を廻り、役に立っていたとは思えないが、お手伝いをしたこともあった。

 各村の村長や教会の神父様たちとも、顔見知り以上の関係だった。


 そしてこの領邸にも、アンジュの為に作られた薬草園があり、調合ができる研究室もあった。(凄いでしょ。)


 兄のアーサーは研究よりも、どちらかと言えば商談などの方が得意なので、領地での薬の売買などで村人たちが騙されて損をしないように、そして領地に利がもたらされるように、働いているらしい。


 これからアンジュたちのトゥルース領での、生活が始まる。

 クロードからはあまり目立たないようにとは言われているが、テリュースも一緒だし、アンジュはとても楽しみだった。 

読んで戴きありがとうございました。

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