表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
177/199

177.ファーストキスは毒の味 

 今出来たばかりの【アルティメットアンチドートもどき】(これも長い名前だよね。あ~ぁ、舌噛みそう)の入った小さな容器を、テリュースの口元にあてる。


 しかし意識のないテリュースは、【アルティメットアンチドートもどき】を、自力で飲むことはできなかった。


 早く飲まさなければ、テリュースは手遅れになる。

 アンジュは絶対にテリュースを、死なせたくはなかった。どんなことをしても、助けたいと思う。


 (どうすればいい。どうすれば解毒剤を、飲ますことができる?)


「姫さん、俺もそろそろ限界です。助けてくださーい。もう、無理です」


 トーイにはかなり負担をかけているのは、解っていた。

 毒が身体に吸収されないように、魔法で止めておくのはかなり魔力を消費する。大変なことだった。


 もう限界と言うトーイの情けない声を聞いて、アンジュも覚悟を決める。


(だって、ファーストキッスだよ。やっぱり緊張するよね。)


 アンジュは【アルティメットアンチドートもどき】(アルポのように短縮もできそうにないし、もう解毒剤でいいよね。)を口に含むと、口移しでテリュースに飲ませる。


 初めて直接触れたテリュースの口唇は、とても冷たかった。


 いつもの優しいマリンブルーの瞳は今は閉ざされ、アンジュを見つめてはくれない。それがとても寂しいと、感じた。


「お願いテリィ、飲んで」


 アンジュは何度も【アルティメットアンチドートもどき】を口に含むと、口移しで飲ませようとする。

 しかし口元から零れるばかりで、テリュースが嚥下することはなかった。


「テリィ、飲んで。こんなことで、死なないでよ。私を13歳で、未亡人にしないで!愛しているの・・・・・。」お願い。


 アンジュは再度テリュースの口唇に、口唇を重ねる。

 今度は零れないように、ピッタリと隙間なく口唇を合わせると解毒剤を注ぎ込む。


 とても長い時間のように感じた。実際には、数分だったのかも知れない。

 口唇を重ねたまま、(お願い、テリィ、解毒剤を飲んで)と、心の中で何度も何度も叫ぶ。


「・・・・・・ゴクッ」


 アンジュの口唇も痺れて来たところ、テリュースが解毒剤を嚥下したのが解かった。


 口唇を放して、テリュースを見つめていると、


 ピカ――――――――――――ッ!


 瞬間、テリュースが、眩い光に包まれる。眩しい、神々しい光だった。


 効果は、即効だった。

 まさにキタ――――――――っ!と言う感じに、テリュースに生気が戻って来るのが解った。

 真っ白だった顔色に、温もりの色が戻って来る。


 これでテリュースは大丈夫だと、アンジュは確信していた。

 アンジュが見た限りでは、毒は消え去っているように見えた。


(【アルティメットアンチドートもどき】、最高!ありがとう、テリィを助けてくれて。) 


「テリィ、テリィ、お願い、目を覚まして!」


 アンジュが祈りを込め叫ぶと、テリュースの瞼が微かに震える。


 何度か瞼が震えた後、ゆっくりとマリンブルーの瞳が姿を現した。

 瞬きを繰り返し、彷徨っていた瞳が、アンジュを捕える。


 アンジュを見つけてとても嬉しそうに、テリュースが微笑んだ。


「・・・・・アンジュ」


 毒のせいでテリュースの声は、痛々しいほどに酷く擦れていた。


 アンジュの目から、つ――――ぅと涙が零れた。

 アンジュのすべらかな頬を伝って、テリュースの上へと零れ落ちる。


「・・・・・テリィ。よかった」


 テリュースが、戻って来た。

 彼を失わずに済んで、アンジュはとても嬉しかった。嬉し涙が、止まらなかった。


「・・・・・姫さん。そろそろ、俺のことも思い出して欲しいのですが」


 突然、トーイの情けない声が、せっかく良いムードの二人に割って入った。


(ほんと、お邪魔虫だよね。)


 テリュースの身体に毒が回らないように、トーイが魔法で止めてくれていたことをすっかり忘れていた。


(・・・・・忘れた。私が悪いんだっけ?)


「わぁ、ごめんなさい。もう大丈夫です」

「よかったです。もう目の前で熱烈なキスを始められた時は、俺どうしょうかと思いましたよ」

「熱烈なキスって・・・・・」


 これは人命救助だよね。そんな色気のあるものでは、なかったと思う。


「いえいえ、とても色気満載で、独り身の俺には刺激が強すぎでした」

「い、色気満載って?」


 もうアンジュは羞恥で、全身が真っ赤に染まっていた。

 恥ずかし過ぎて、穴があったら入りたかった。


「トーイ、私からも謝る。すまないがそれ以上、アンジュを虐めないでくれないか」


 だいぶん回復して来たのかテリュースの声にも、力が戻って来ていた。

 自力で身体を起こし、羞恥に染まるアンジュを隠すように抱きしめる。


 強い力で抱きしめられ、アンジュは腕の中でほーっと安堵の息を吐く。


 【アルティメットアンチドートもどき】は凄い効き目だった。


「殿下!アンジュ!」


 突然薬草園の扉が開き、リシャール殿下とクロード、アンリが駆けこんで来た。


「毒を飲まされたと、聞いたのだが?」


 リシャール殿下が、テリュースの容態を確認する。

 すでにテリュースには毒の後遺症もなく、毒を飲まされたことを知らなければ、いつもと変わりないように見えた。


「はい。もう少しであの世行きでしたよ。アンジュが解毒剤を作って飲ませてくれなければ、どうなっていたことか」

「そうそう、それはもう熱烈でした」

「その、熱烈とは?」


 早く解毒剤が作らなければ、テリュースに命の危険が迫っていたのだから、他のことなどかまってはいられなかった。


 トーイは熱烈と言うが、テリュースを助けるために、アンジュは必死だった。そこには他の感情が、入り込める予知などなかった。


 トーイがいらぬことを言うので、アンジュはどう返事していいのか解らない。


(熱烈って・・・・・・、あれは人命救助。人工呼吸と一緒だよね。)


「大丈夫、なのだな」

「はい。アンジュのおかげで、毒は解毒されました」

「そうか。それでことの真相は解っているのか?」

「今、コンラット様に、私たちに果実水を用意した侍女のマヤアを追ってもらっています」

「侍女のマヤアだと?」

「お父様、侍女のマヤアをご存じですか?」

「私の記憶が確かなら、スザンナ様の腹違いの妹の名前が、マヤアだったはずだ」

「スザンナ様の・・・・・・」


 どうやら今回も、スザンナ様が関わっているようだった。


 しかし、アンジュの意識も、ここまでだった。

 テリュースが助かるまではと、気力だけで持ちこたえていた意識はすでに限界だった。


 リシャール殿下やクロードが来たことで、気が緩んだのかも知れない。


 アンジュはテリュースの腕の中で、意識を手放す。

 もう瞼を持ち上げることすら、疲れていてできなかった。


「アンジュ!」 

 

読んで戴きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ