168.小さなお茶会
今日はアンリに連れられ、アンジュは薬草園に来ていた。
クロードに期限を切られた1週間の、1日目だった。(残り6日なのです。)
もちろん今日もアンリのお古を着て、男の子に変装している。
タマラのおかげで、何処からどう見てもアンジュは可愛い男の子だった。
今日のファッションは、薄いベージュ色のシャツに、茶色の膝丈パンツ、同色のサスペンダーに、白いハイソックスに革靴と、最後にハンチング帽の中に、黄色の髪を隠して完成だった。
これもすべて、アンリが8歳の時のものだった。
(な、何故だ?って、もう慣れたけどね。)
ここへと連れて来てくれたアンリは、アンジュを薬草園に置くと、さっさとテリュースのところに行ってしまった。
(まったく仕事、熱心だよね。)
どうせ3時のお茶の時間には、テリュースと一緒に戻って来ることは解っていた。食いしん坊のアンリが、アンジュが作ったおやつを、逃すはずがなかった。
(まぁ、この薬草園は、安全だからね。)
この薬草園は許可のないものは、入ることは出来ない。
アンジュが自分で許可を出したり、扉を開けない限りは安全だった。
中には妖精たちもいるし、アンジュひとりでいても、なんの危険もなかった。
(・・・・・って、前にレレミアたちに、ここにいる時に拉致されたんだけど。まぁ、あれは自分で出て行ったのが原因なので、カウントには入りませんよね。)
「こんにちは、妖精さんたち。お久しぶりです」
この薬草園に来るのは、アンジュが目覚めてから初めてのことだった。
アンジュに気づいた妖精たちが、わーっと集まって来る。
男の子に変装しているアンジュだが、妖精たちは気にならないみたいだった。
『アンジュ、きた。おひさしぶり』
『アンジュ、げんきになった?』
「はい、ありがとうございます。すっかり元気になりました」
『め、みえるようになった?』
「はい、目もみえますよ」
『よかった。よかった』
『うれしいね』
「ありがとう」
体調が回復したことを妖精たちに喜んでもらえて、アンジュはとても嬉しくなる。
妖精たちも、本当に嬉しそうだった。
「今日はお菓子を用意して来ました。こちらのテーブルに、広げますね。少し早いですが、みんなでお茶にしましょう」
今日は妖精さんたちの為に、小さめのクッキーとパウンドケーキを沢山作って来ていた。
飲み物は甘い果実水を、小さなカップにいっぱい用意した。
まるで妖精さんたちとの、小さなお茶会だった。
「はい、どうそ。召し上げれ」
『わーい、おかし』
『いただきまーす』
『おちゃかい、おちゃかい』
妖精たちは大喜びで、お菓子を食べ始める。
小さく作ったつもりのクッキーは、、それでも妖精さんの顔くらいの大きさだった。
大きなクッキーを、美味しそうに頬張る妖精たちの姿は、とても可愛かった。
(異世界、最高!妖精さん、可愛いです♥)
「本当にここの薬草園は、素敵な場所ですね」
久しぶりに見た薬草園は、とても美しかった。
薬草たちはみんな活き活きと、成長していた。
これもみんな妖精たちが、一生懸命にお世話をしているからなのだろうと思う。
「いつも丁寧にお仕事してくれて、ありがとうございます。これからも、頑張ってくださいね」
『アンジュ、どうしたの?』
『なにかあった?』
いつもとは違うアンジュの様子に、妖精たちから心配の声が上がる。
妖精たちにまで、心配を掛けてしまったみたいだった。
「これは内緒ですが、しばらくの間、領地に帰ることになりました」
今日は妖精さんたちにアンジュがトゥルース領へ帰ることを報告に来たのだが、実際に言葉にするとなんだか寂しかった。
(これが永遠のお別れって、わけでもないのに、ね。)
『アンジュ、トゥルースにいく?』
「はい」
『だいじょうぶ、トゥルースすぐいける』
「妖精さんたちが、会いに来てくれるのですか?」
妖精たちからトゥルース領までの距離など、何でもないように言われて、アンジュは驚いた。
そう言えば妖精さんたちには、妖精の輪と言う移動手段があることを思い出した。
妖精の輪は、直径10センチくらいのキラキラ光る輪だった。
空間にぽっかり穴が、開いているように見え、妖精たちの移動手段として使われているものだった。
メグスリの木を北のフィンメースの森に探しに行ったときに、アンジュも妖精の輪を使って連れて行ってもらったことがあった。
『そう、あいにいく』
『トゥルースにいく』
「ありがとうございます。ではトゥルースでも、お会いしましょうね」
『アンジュとあう』
『たのしみ、たのしみ』
会いに行くと言われて、アンジュは嬉しかった。
トゥルースの領地でも妖精たちに会えると思うと、なんだかとても心強かった。
読んで戴きありがとうございました。