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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
166/199

166.再接近

 美容の店天使(エンジェル)で店内見学とお買い物を済ませたアンジュたちは、食事をして帰ろうと言うことになり、久しぶりに『森の恵み亭』に来ていた。


 ちょうど今空いたばかりの4人席へと、ペチュラに案内される。

 いつもなら並ばなければ入店できないのだが、今日はとてもついているみたいだった。


「いらっしゃいませ。テリィ様、アンリ様、トゥーリ様。こちらのお坊ちゃんは初めてですね。ようこそいらっしゃいました。どうぞごゆっくりお過ごしください」


 テーブルへお水を置くと、各々から注文を取る。最後に間違いがないかを繰り返して確認すると、ペチュラは一礼して厨房へと戻って行った。


 『森の恵み亭』のオープン当初のペチュラたちを知っているだけに、洗練されたその姿に嬉しくなる。本当に良いお店に、なったと思った。


 アンジュとトゥーリはビックバードのカレーライスとサラダのセット、テリュースはワイルドボアのカツカレーの大盛りとサラダのセットにしたのだが、


「アンリ兄様、ちょっと食べ過ぎでは?」

「大丈夫、大丈夫。太ったら運動するから」


 アンリが注文したのはワイルドボアのカツカレーの大盛りに、ビックバードのから揚げ、生ハムサラダに、串カツまで注文していた。

 よくそれだけの料理が、胃の中に入るものだと思う。


(まぁ、アンリだからね。)


 ふと、隣のテーブルを見ると、女性客と談笑する男性客とバチリと目があってしまった。


(えっ、なんで?)


 一難去ってまた一難。会いたくないと思う人ほど、良く会ってしまう。


「げっ、アンリ!なんでおまえが、ここにいるんだ?」


 突然隣の席から上った大声に、アンジュはビクリと身体を震わせる。


 声の主はさきほどハーブカフェ『レモングラス』で別れたはずの、マークだった。

 その隣でカレン・アバッシヌーク侯爵令嬢も、美味しそうにカレーを頬張っていた。


「なんでここに?って、ここは魔物料理のお店ですからねぇ。から揚げや、カレーを食べに来たに決まってるでしょう」


 いつものようにアンリが当たり前のことを、のほほんと返答をする。マークにはアンリしか、見えていないようだった。


 珍しくテリュースも嫌な者に会ったと言う態度を、隠さない。ほんとなんでここにいるのかと、言う感じだった。

 店に入る前に解っていれば回避も出来ただろうが、ここで席を立つのは不自然だった。


「ここの店のレシピはどれも、アンジュが考えたものですからね」

「アンジュが、考えた料理?」

「そうですよ。ここにいるトゥーリとアンジュが、オーナーのお店ですからね。俺も兄として時々ここに食べに来て、売り上げに貢献してやっているわけです」

「ここも、アンジュの店なのか?」

「そうですよ。うちの妹、凄いでしょ。驚きました?」


 マークはこちらのテーブルを見て、テリュースがいることに気づいたようだった。


「兄上?」

「マークも、ここへ来てたのか。ここのカレーは、絶品だよね」

「・・・・・・そうですね」


 久しぶりと言うわけでもないが、兄弟での会話は少なかった。テリュースもあまり話を弾ませる気は、なさそうだった。


 それからすぐにアンジュたちのテーブルに、注文した料理が並べられる。アンリの注文の品が多いので、テーブルがいっぱいになってしまっていた。


「凄い量ですね」

「から揚げと串カツは、みんなで食おうと思って頼んどいた。トゥーリはいけるだろう?」

「まぁ、私を太らせてどうするつもりですか?もちろん戴きますけどね」


 トゥーリは遠慮なくから揚げにフォークを突き刺すと、口へと運ぶ。

 噛んだ瞬間サクッ!と音がして、中の旨みが口の中にジュワーと広がる感覚にトゥーリが目を見開く。そしてとても美味しそうに、咀嚼し始めた。


「本当にここのから揚げは、美味しいわね」

「ああ、うちの食事でもたまにから揚げが出るが、ここで食べるのはまた格別だよな」

「そうなのですか?」

「うちのから揚げは、チキンを使っていてビックバードではないから、味が違うのはしかたがないです」

「魔物の肉って、美味しいのですね」

「魔物のお肉は、味が濃厚でとても美味しいのです」


 王都では魔物の肉は、あまり市場には出回らない。

 『森の恵み亭』は、森番から直接仕入れているので、特別だった。


「テリィ、おまえも食えよ」

「ありがとう。戴くよ」


 テリュースも細身に見えて、良く食べる。アンリほどではないが、大盛りのカツカレーなど、ペロリと食べてしまった。


 久しぶりのカレーやから揚げは、とても美味しかった。

 アンジュたちのテーブルは、和気藹々と楽しそうに食事が進む。

 すでにマークのことなど、眼中にはなかった。


 アンジュも日頃よりも沢山食べて、お腹が重たかった。


 トゥーリがミエリッハ領にオープンさせたバーベキューのお店の話になると、テリュースもアンリも、バーベキューの話で盛り上がった。


「じつは王都にもバーベキューのお店2号店を、作る予定なんです」

「それはいいね。ミエリッハ領で初めて食べたけど、とても美味しかった」

「オープンしたら、すぐに食べに行こうぜ。王都で海の幸が食べれるなんて、最高だな」

「はい、楽しみですね」


 アンジュも王都でバーベキューを食べられるのは、とても楽しみだった。

 しかしアンジュはこれからトゥルース領に、隠されることになっている。オープンに立ち会うのは、またまた無理のようだった。


 一緒にお仕事をしたかったと思うが、しかたがなかった。

 そんなアンジュに気づいたトゥーリが、声をかけてくれる。


「アンジー、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ちょっと寂しくなっただけですから」

「きっと大丈夫よ。寂しいなんて思う暇は、ないと思うから」

「ああ、そうだな。テリィが放っておくはずがないだろう」

「そうだね。アンジーを寂しがらせない自信はあるよ」


 なんだかひとりだけ仲間外れにされるような気がして寂しかったが、みんなの声を聞いてアンジュは嬉しくなる。

 領地にいても、退屈しなくて済みそうだった。


 ふと会話が止まり、隣のテーブルが騒がしいことに気づく。

 マークとカレン・アバッシヌーク侯爵令嬢が揉めていた。


「おまえは何も、できないのか?」

「殿下、私にお店など経営できるわけがありません。それもこんな流行の最先端のお店なんて、考えられません。殿下、貴族の令嬢は着飾って殿方の側にいるのが、仕事なのです」


 この世界、貴族令嬢はただ綺麗にして、殿方の側にいればよかった。

 レシピを考えたり、お店をプロデュースするアンジュの方が異質なのだ。そうそう誰でも、できる事ではなかった。


「この役立たずが!二度と私の前に、顔を見せるな!」


 兄テリュースの婚約者であるアンジュが、いろいろなお店を経営していることを知って、マークは自分の婚約者もと思ったのかも知れない。

 カレンに向かって捨て台詞を吐き捨てると、店を出て行く。カレンは、置き去りだった。


「・・・・・殿下」


 カレンは去って行くマークを見つめ、しばらくボー然としていたが、パッとアンジュたちの方を振り返る。


 テリュースに焦点をあてると、ギッ!と憎々しく睨み付た。


 ここにアンジュがいれば睨み付けられるのはアンジュだったはずだが、今日の変装のおかげか、とばっちりにもテリュースが恨まれたようだった。

 カレンは慌てて立ち上がると、マークを追いかける。その間マークは、振り返りもしなかった。


「・・・・・怖かったですね」ほんと怖かった。

「マーク殿下の気持ちも解らないでは、ないけどね」

「どうしてですか?」

「テリュース殿下はその品行方正な態度と、魔力量、その他いろいろなことで国民にも人気があるわ。その上妃候補であるアンジュは、流行の発信者ですもの。マーク殿下との差は歴然よね。マーク殿下が妃候補に、何かを求めたくなってもしかたがないと思うわ」

「私は別にアンジュが流行の発信者だから、妃に選んだわけではないのだけどね」

「そうだよな。むしろアンジュがあれこれやらかすから、テリィはいつも心配で仕事が手につかない。まぁしばらくは領地で大人しくしていてくれると、俺たちも助かる」

「助かるって・・・・・?」ほんと、失礼な話しだよね。


 いつもいろいろとやらかしているアンジュとしては、何も反論出来なかった。


 テリュースを憎々しく睨んだカレンの目の強さが、アンジュには気になった。ゾクリ!とするほど、冷たい視線だった。


(まぁ、テリィにはアンリもコンラットもついているし、大丈夫だよね。) 


 アンジュの身体がほとんど良くなった今、クロードの一言でいつ領地に行かされるか解らなかった。


 まぁ、それまでは極力、大人しくしとかないとね。


読んで戴きありがとうございました。

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