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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
145/199

145.仲直り

 今日のアンジュは、タマラたちに磨き上げられて、ピッカピカのツルツル。いつもとは違い、薄化粧まで施されていた。


 仕上げにテリュースに戴いたドレスを身に着けると、気持ちがきゅっと引きしまる。

 まるでこれから戦いに行く、騎士のような気分だった。


「姫様、お綺麗です」

「ありがとう」


 自分で最終チェックが出来ないので、タマラたち侍女が頼りだった。


 何もかも心得ているタマラは、ひとつのミスも許さないとばかりに、しっかりとチェックしてくれる。


 タマラは姉妹のいないアンジュにとっては、とても頼りになる姉のような存在だった。

 唯一心を、許せる相手。目が不自由になってからは、本当に頼りにしていた。

 タマラも精一杯、それに応えてくれている。

 今日のアンジュの支度を一番張り切って、整えてくれているのがタマラだった。


「姫様、殿下がいらっしゃいました」


 タマラの声に、アンジュの胸はドキリとなった。

 目が不自由になってから、テリュースに会うのはこれが初めてのことだった。


 テリュースから直接別れの言葉を言われるのが怖くて、聞きたくなくて、彼を避け続けた結果がこれだった。

 今さらどんな顔をして、会えばいいのか解らない。


(わぁ、どうしょう?) 


 目が不自由では、逃げることも儘ならなかった。

 テリュースの足音が、だんだん近づいて来る。

 コツコツコツコツ、規則正しい靴音に、懐かしさを感じた。

 涙が、溢れそうになる。


(私、こんなにも、テリィが好きだったの?)


「アンジュ?」


 すぐ近くでテリュースが、立ち止まったのを感じた。彼ははっ!と息をのんだ後、続く言葉はなかった。


「テリィ?」


 テリュースがどんな顔を、しているのか解らなかった。

 アンジュは不安になり、テリュースの名を呼ぶ。


「ああ、ごめん。あまりに美しかったから、見惚れてた♥」


 恥ずかしげもなく、サラリとアンジュが赤面するようなことを言う。

 アンジュは何と言葉を返したら良いのか、解らなかった。


「テリィ、お茶会へのご招待、ありがとうございます。それにこんな素敵なドレスまで戴いて・・・・・」


 その先は、もう言葉にならなかった。

 テリュースに攫われるように、力強い腕の中に囚われ、抱きしめられる。

 

「アンジュ、ごめん。本当にごめん」

「何故、テリィが謝るのですか?」


 いきなりテリュースに謝られて、アンジュは驚いてしまう。


「だってアンジュの目が不自由になったのは、王家のお家騒動が原因だからね。辛い思いをさせて、本当にごめん」

「テリィが悪いわけではないので、謝らないでください」


 謝らなければいけないのは、アンジュの方だった。


「でも、そのせいでずっとアンジュは、私と会ってはくれなかったのだろう」

「そんな理由では・・・・・・」

「それなら私との婚約を、解消するなんて言わないよね」

「でも目の不自由な私は、テリィにとって足手まといになりますよ」

「そんなことはない。アンジュを失うことを考えただけで、私はもう生きていられない。そうだ、いっそのこと、ふたりで別邸にでも引き籠ろうか?うん、それがいい。そうしょう。ねっ、アンジュ、良い考えだろう」

「そんな・・・・・」


 そんなこと、できる訳がなかった。

 テリュースがまだアンジュを、必要だと言ってくれる。

 目の不自由なアンジュでもいいのだと、言ってくれていた。

 それならアンジュの答えは、1つしかなかった。

 

「あとでいらないって言っても、知りませんよ」

「いらないなんて言わないよ。言うわけがない」

「返品は、聞きませんからね。しっかり責任を、取ってくださいね」

「もちろん。アンジュも、もう逃げ出さないでね」

「うっ」


 アンジュが逃げ出したことなど、テリュースにはお見通しのようだった。

 まぁ小さい頃から一緒にいるのだから、アンジュの性格などすべて知られてしまっているのだろうと思う。


「それなら私からも、ごめんなさい。テリィに目が不自由な私など、いらないって言われるのが怖くてずっと逃げていました」

「うん、解っている。もう逃げたらダメだよ」

「はい・・・・・」

「私のアンジュへの気持ちが、こんなことくらいで消えてしまうことはないから安心して。私の愛情は深いよ。覚悟しておいてね」


 あまやかな口調にも関わらず、言っていることはとても物騒だった。

 一歩間違えると、ストーカーになりかねない熱量だと思う。


(まぁ、それが嬉しいなんて思っている私も、充分重症だけど、ね。)

  

 テリュースのことが、やっぱり好きだなぁと思う。

 諦めるなんて、できそうになかった。

 それなら自分で、がんばるしかない。


「テリィ、そろそろ時間です」


 コンラットが、お茶会の時間を告げる。


「ああ、解った。アンジュ、さぁお手をどうぞ」

「はい。しっかり、エスコートしてくださいね」


 テリュースがアンジュへと、手を差し出す。

 アンジュは何も見えていないので、いつもの感覚で手を乗せると、ピタリとテリュースの手に収まった。


(凄いよね。生まれた頃からの付き合いは、ダテではなかった。テリィ、大好き♥)


「仰せのままに」

 

 クスリと笑って、アンジュをしっかりと、エスコートする。

 テリィにエスコートされ、自分の定位置を感じた。

 慣れた感覚に、気持ちが落ち着いて行く。


 シュミレーションしたアンリのエスコートとも、トーイのエスコートとも違っていた。


(やっぱりテリィのエスコートが一番、しっくりくる。)


 何故離れられると思ったのか、アンジュは不思議だった。


「さぁ、行くよ。大丈夫、アンジュは、私が守るからね」

「はい、よろしくお願いします」


 きっとテリュースのマリンブルーの瞳が、優しくアンジュを見つめてくれているのだろうと想像できた。


(大丈夫。私たちは、前に進んで行ける)


 二人は未来の為に、最初の一歩を踏み出した。 

読んで戴きありがとうございました。

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