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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
144/199

144.お茶会までの2週間

 テリュース主催のお茶会に出席すると決めて、アンジュの日常はとても忙しくなった。


 お茶会まであと2週間。やらなくてはいけないことは、沢山あった。

 

 あと2週間で目が見えなくても、ある低度のことは自分で出来るようにしておきたかった。

 お茶会なのでダンスなどをすることはないが、子供の社交とは言えアンジュには好奇の目が集中しているのだから、失敗はできなかった。


(まだテリィの婚約者だからね。)


 テリィにだけは恥ずかしい思いを、させたくはなかった。


 時間がないので暇なアンリやトーイを巻き込んで、お茶会のシュミレーションを何度か試みた。


 アンリとトーイへの報酬は、手づくりのケーキとプリンで簡単に釣れてしまった。二つ返事で、手伝ってくれると言うことだった。


(ほんと、ふたりとも、食いしん坊だよね。)


「姫さん、俺に殿下の変わりが、できるわけないでしょう」

「解っているけど、感覚は掴んでおきたいの。だからお願い、手伝って欲しいです」

「そう言われたら、俺も頑張るしかありませんが・・・・・」

「ありがとう。それならまず、私をエスコートしてみて」

「こ、こうですか?」

「こっちの手を私の腰に添えて、しっかりホールドしてくれないと」

「ひ、姫さん、そんな罰当たりなこと、俺にはできません」


 トーイが涙目で、訴える。恐れ多いと、パッと手を放し、アンジュから離れた。

 ほんとトーイは役に、立たなかった。


「トーイもいい年なんだから、エスコートにも慣れておいた方がいいと思うけど」

「必要になったらがんばって練習しますから、今はいいです」


(なんでも慣れが肝心だよね。トーイも慣れておいた方がいいのに、ねぇ。) 

 

「それなら俺が」と、今度がアンリが変わってくれたが、こう言った動きには性格が出るものなのか、荒っぽ過ぎてテリュースの優しいエスコートにはほど遠かった。


「アンリ兄様、歩くのが早すぎます」

「ああ、このくらいか?」


「アンリ兄様、あまり引っ張ると痛いです」

「ああ、これでいいか?」


「アンリ兄様、これではまるで荷物扱いです」

「・・・・・・・」


 アンジュは荷物のように扱われ、悲鳴を上げる。


 アンリのエスコートは女性のペースに合わせるのではなく、自分のペースに女性を合わせようとするので、アンジュとしてはとても歩きにくかった。


 その上文句を言うと、最後には荷物のように抱えられてしまう。


 アンジュは目が見えなくて不安なのに、アンリは少しも優しくなかった。


(だからアンリ兄様には、恋人ができないのよね。女の子には優しくしてあげないと、誰も好きになってくれないと思うよ。)


 テリュース役には役不足の二人だが、1人で練習するよりはかなり役に立ったと思う。

 どんなハプニングが起こるか解らないので、アンリやトーイを使っての練習でちょうど良かった。


 それからお母様にドレスの相談をしたり、靴の高さを調節したり。

 目が不自由になって、あまり高いヒールは怖くて履けなくなった。

 女の子は準備もいろいろあって、とても大変だった。


 今回、お茶会まで2週間しかなかったので、ドレスを誂えるには時間が足りなかった。

 なので手持ちのドレスの中から、お母様に選んで戴くことにしていたのだが。


 お茶会まであと3日と言う頃になって、テリュースから大きな荷物が届いた。


「アンジュ、殿下からお荷物が届いているわよ」

「まぁ、なんでしょうか?お母様、見て戴けますか?」


 テリュースから大きな箱が届いたことは手で触れれば解るが、アンジュ自身では開けられなかった。


 なので自分の代わりに開けて欲しいと、母のアンヌにお願いする。


 アンヌはタマラと他の侍女たちに、箱を開けるように指示を出すと、アンジュの横に腰を下した。


「ずいぶん大きな贈りものね」


 リボンをほどく音。包装紙を開く音、箱が開けられるの後が続き。


「「「わぁーーっ!」」」 と、周りから感嘆の声が上がった。


「えっ、何、何が起こったの?」


 いったい何が起こっているのか、アンジュにはよく解らなかった。

 箱の何には何が入っていたのか、誰か早く教えて欲しい。

 目が見えないと言うことが、とてももどかしかった。


「アンジュ、触ってごらんなさい」


 アンジュの手を取り、アンヌが箱の中のものを握らせる。

 手にした感じは、とても高そうな手触りの良い布とレースの感触だった。


「アンジュ、殿下からあなたに、ドレスのプレゼントよ。これを着てお茶会に出席してくださいと、メッセージカードがついているわ」

「ドレス・・・・・・?」

「さすが殿下ね。アンジュに似合うものが、本当に良く解っておられるわ。全体に光沢のあるピンクの布地に、落ち着いた印象のアンティークレースが使われていて、上半身にはふんだんにあしらわれたフラワーモチーフがとても可愛いドレスよ。まぁ、それに合わせて、靴もあるわ」


 アンヌが興奮気味に贈り物のドレスを説明してくれるが、アンジュには良く解らなかった。想像力が貧困なのか、想像もできなかった。


(どんなドレスなの?見たい。見たいよ~ぅ。)


「アンジュ、着てみたらどう」


 アンヌはどう?と聞いているのに、着せる気満々だった。

 それほど素敵なドレスなのだろう。

 タマラ達も着せる気まんまんで、動き出す。

 アンジュは着せ替え人形のように、ただされるがままに着つけられた。


「まぁ、なんて素敵なの。アンジュにピッタリだわ」

「ほんと姫様、とてもよくお似合いです」


 みんなから、絶賛の声が上がる。

 着つけてもらったドレスは、とても着心地が良かった。


「これで準備は整ったわね。アンジュ、どこから見てもあなたは素敵なレディだわ。殿下の婚約者として、堂々と参加していらっしゃい」

「はい、お母様。目が見えなくても、怯むことなく楽しんで来ますね」


 見えないアンジュの目では、テリュースが贈ってくれたドレスがどんなものかは解らない。

 しかしアンジュが身に着けた瞬間、ピタリと身体にフィットして、テリュースに守られているような感じがした。

 勇気が不思議と、湧いて来る。

 3日後のお茶会が、アンジュはとても楽しみだった。

 



読んで戴きありがとうございました。

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