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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
141/199

141.空虚 

 目が見えなくなって、アンジュの生活は一転した。


 今までなんでも一人で出来ていたことが、今では人の手を借りなくては何も出来なくなってしまった。

 

「自分がとても役立たずに、なった気分だよね」


 確かに一人で着替えも出来なければ、手を引いてくれる人がいなくては、どこにも行けない。本当に役立たずだった。


「姫様、したいことがありましたら、言ってくださいね」

「ありがとう。でも今はいいわ」

「はい。何かありましたら、いつでも言って下さいね」


 侍女のタマラが時々気を使って聞いてくれるのだが、自分のことで彼女を煩わせたくない気持ちの方が強かった。


 今日はトゥーリが、ハーブのカフェの進行状況を、話に来てくれることになっていた。


「姫様、オルエム様が、お見えになりました」

「応接室にご案内してください」

「かしこまりました」


 アンジュはタマラに手を引かれ立ち上がると、応接室へと向かう。


 一人でも動けるようになろうと、アンジュは曲がり角の方向、部屋までの歩数を数えていた。少しでも覚えて、自分でも動けるようになりたかった。


(いつもでもヨチヨチ歩きの赤ちゃんでは、いられないものね。)


「アンジュ!」


 扉が開くなり、トゥーリに抱きしめられる。

 目が見えていないので、不意打ちは心臓に悪い。予測がつかないことは、恐怖でしかなかった。


「トゥーリ?」

「大変だったわね。目の方はどう?」


 抱きしめられながら、心配そうに耳元で問われる。トゥーリの声は、とても優しかった。


「ありがとう、トゥーリ。目の方は、相変わらずよ。まったく見えないの。みんなに迷惑ばかりかけているわ」

「でもアンジュは、良く頑張っていると思うわ」

「・・・・・・だといいのだけど。」


 本当に頑張っているのだろうか?と思う。

 毎日朝起きて、ベッドから出て、着替えさせてもらい。ご飯を食べさせてもらい。あとは椅子に座って、ぼーっとしている。


 あんなにワクワクして、トゥーリといろいろなお店の出店について話し合ったのに・・・・・・。


「これからもアンジュが形にしたいことは、すべて私が形にするから、だから何でも言ってね」

「うん、ありがとう・・・・・」


(私が形に、したいこと?)


 目が見えなくなる前は、いろいろと形にしたいことがあったはずなのに、今は何も思い出せなかった。

 視力を失って、いろいろな気持ちまで、どこかに無くしてしまったみたいだった。


 トゥーリの報告によると、ハーブのカフェも順調にオープンへと向かっているらしい。

 レレミアもケントも、お茶の入れ方から接客まで、いろいろなことを今、学んでいる途中らしいかった。


 一生懸命になれるレレミアたちが、少し羨ましく思えた。


「次はバーベキューのお店の、報告に来るわね」

「ええ、よろしくお願いします」

「では、またね」


 トゥーリを見送り、アンジュはまたヒマになる。

 椅子にずっと座っているだけの自分が、とても恥ずかしかった。


「そう言えばキャリーは、どうしているのかしら?」


 キャリーと言うのは、リシャール殿下の彼女さんだった。


 このところ忙しくて、フィンメースの森には行っていない。

 キャリーはずっと目が不自由だったから、今のアンジュの気持ちも解ってくれるかも知れなかった。


 アンジュが作った目薬が効いて、かなり見えるようになったと、リシャール殿下から聞いている。

 日焼け止めの効果も、直接キャリーの口から聞きたかった。


(キャリーのところへ、行ってみようかな。)

 

 思い立ったら、吉日だった。


 アンジュは伝書鳥に、言葉を吹き込む。


「キャリー、お元気ですか?私の目が見えなくなったことは、もう聞いておられますよね。久しぶりに会ってお話がしたくなりました。ご都合はいかがですか?」

 

 鳥はすぐに、アンジュの手から飛び立った。


 そう間を置かずして、アンジュの肩にキャリーの伝書鳥が止まった。


(はやっ!)


「アンジュ、目が不自由になったと聞いて、とても心配していました。いつでも来ていただいて、大丈夫です。お待ちしています」


 いつまでもグダグダしていては、私らしくない。

 ここは1つ先輩の話でも聞いて、前へと進むきっかけを見つけたかった。


「タマラ、これからキャリーのところへ行きたいの。馬車の用意をお願いできるかしら?」

「はい。すぐに用意いたしますね」


 目が見えなくなってずっと引きこもっていたアンジュの外出を、タマラは喜んでいるようだった。


 アンジュは伝書鳥に「今からお伺いします」と送ると、今度はキャリーから「お泊りセットを、持参できてね」と返信があった。


「タマラ、お泊りセットの用意をお願い」

「はい。ご用意いたしますね。あと、私もご一緒させていただきますから」

「いいの?」

「もちろんです。私もマーサさんに、いろいろ勉強させてもらいますね」


 一緒にキャリーのとこに行ってくれるだけでなく、アンジュの為に勉強までしてくれると言うのだから、タマラにはほんと感謝しかなかった。


「姫様、用意が出来ました。さぁ、参りましょう」

「はい。よろしくお願いします」


 いつまでも同じ場所に、留まってはいられない。

 アンジュは最初の一歩に、まずキャリーのところへ行くことを決めた。


読んで戴きありがとうございます。

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