137.商会を作ろう!
結果から言えばトーイは、まーたく、これっぽっちも役に立たなかった。
「あら、アンジュ、今頃気づいたの。ほんと人を見る目がないわね」
「だって、トゥーリの弟ですよ。しかも双子なんだし、少しはそっちの才能もあるかなぁと思って」
「まぁ双子と言っても、べつものだからね。それに私はこんなのと、一緒にされたくないわ」
「こ、こんなのって・・・・・?」
トーイがガクリと、肩を落とす。
こんなの呼ばわりされて、かなり堪えているみたいだった。
(まぁ、本当に役に立たなかったからね。)
双子と言っても、何でも一緒と言うわけではないみたい。
当たり前の話だが期待していた分、アンジュもかなりがっかりしてしまった。
「トーイが、ここまで使えないとは・・・・・」
「ひ、姫さん、そんなにがっかりされても、俺も困ります。それにトゥーリもこうして帰って来たことだし、俺はお役ごめんってことで」
「まったくお役にもたっていないけど、ね。まぁいいわよ。トーイは自分の研究室に帰りなさい」
「やった!姫さん、またね」
トゥーリからの許可が出たところで、これ以上何かを言われては堪らないと、トーイはさっさと逃げだした。
こんな時だけ逃げ足は、早かった。
「で、どこまで話は進んだのかしら?」
「えーと、全然進んでいませんね」
「まぁ、そうでしょうね。さてこれからどうするか?私とアンジュが王都にいて指示を出せば、動いてくれるような人物が欲しいわね」
「そうですよね。今回のことで私自身、まーたく役に立ちませんでしたからね。トーイのことばかり言っては、いられませんよね」
今回、本当にアンジュは、役立たずだった。
商売って信用が一番だから、13歳の女の子の話など誰も聞くものはいなかった。
トゥーリだって23歳、まだまだ若造の部類だ。
13歳のアンジュよりは、成人しているだけましかもしれないが、大人たちから見れば、年齢も実績も少なかった。
それでこのジレンマ脱却の為に、考えついたのが商会を作ると言うことだった。
商会組織を作るとして、人材はどうやって募集するのか?
はたしてアンジュとトゥーリに、人を見る目はあるのか?
(なさそうだよね。私も自身はなかった。)
二人だけでは、不安しかなかった。
そこでアンジュは、このフランドール公国で一番人を見る目があるはずの宰相に丸投げした。
「お父様、助けてください。もう私とトゥーリ様の二人だけでは、手に負えません。なので商会を作りたいのです。どうか力を貸してください」
じーぃっと見つめ、涙が浮かんできたウルウルの瞳で、クロードに訴えかける。
両手を胸の前で組み、まるで祈りを捧げるようにお父様、お願いと首を傾げた。
グビリとクロードの喉が鳴る。焦ったようにアンジュから目を反らすと、はっきりと頷いてくれた。
「わかった。人材はこちらで見つけておこう。」
「ありがとうございます。お父様」
「それでどんな人材が欲しいのかな?」
どんな人材って、仕事ができる人材だよね。
とりあえず中年くらいの、年齢の人をお願いしたかった。
それをどのようにクロードに告げようかと思っていると、出来る女トゥーリが要点をまとめて、依頼を言葉にした。
「トゥルース公爵、商会を作るにあたって必要な人員は、管理を任せられるほどの年配の方が欲しいと思います。それから営業ができる方、それと経理が達者な方、とりあえずこの3人は絶対にはずせません」
「うむ、そうだな。まずは最低でも3人だな」
「はい、よろしくお願いします」
なんだかクロードとトゥーリの間で、いろいろなことが決まって行く。
二人の会話はまさに打てば響くと、言った感じだった。
アンジュはここでも、役立たずだった。
(前世では、勉強ばかりしていたからね。こう言ったお仕事の話になると、ほんと解らないことが多すぎだった。)
クロードが選んだのは、管理を任せることのできる、エーオス・セヴィオリッグ子爵。40代半ばのなかなか渋めの男性だった。
銀髪にグレーの瞳。黒の三つ揃いを着ているせいかちょっと見、執事っぽい雰囲気があり、仕事が出来そうな感じだった。
(まさにデキる男って、感じだよね。)
子爵様が私たちと一緒に働いてくれるかが、不安だった。
営業はテミティ・カーリテック、20代後半の男性で、綺麗な金髪にアンバーの瞳。明るくて、言葉を巧みに操る感じが、頭のよい営業向きだと思う。綺麗な男の子と言った男性だった。
そして最後の経理にはエイン・カリルトン、20代前半の女性だった。
前世の漫画ではないが、髪を三つ編みにしていて、瓶底眼鏡をしていた。
仕事さえできれば容姿には、拘らない。
どんな人なのか一緒に働いてみなくては解らないが、嫌な感じはしなかった。
(さぁ、これで商会ができるぞーっ!)
これからもっと楽しくなりそうな予感がする。
「トゥーリ、良い商会ができそうですね。お仕事いっぱい、頑張りましょうね」
「ほんと、今まで以上にアンジュと、お仕事するのが楽しみだわ」
色々なことが決まって行くにしたがって、なんだかワクワクしてきた。これからどんなことをしようかと思うと、楽しみで仕方がなかった。
「二人とも今までの仕事が忙しかったから、人を増やしたんだからな。人数が増えたからと言って、仕事を増やしたのでは本末転倒じゃないか」
「あははは、そうですね。少しペースダウンしないと、いけませんね」
「少しだけか?」
クロードにジロリと睨まれて、アンジュは首を竦める。
人数が増えてこれからもっと楽しくお仕事ができるのに、ペースダウンなんてしたくはなかった。
とりあえずここは大人しく、従順にしておくことにした。
「はい、善処します」
「まぁ、ほどほどにな」
「お父様」
「なんだ?」
「お父様、だーい好き♥」
アンジュがいつものリップサービスを言葉にすると、クロードの顔が朱に染まった。耳まで赤い。本気で照れているようだった。
この国の宰相様も、娘には弱かった。
まだまだこの手は、しばらく使えるみたい。
(お父様、可愛い。だーい好き♥)
読んで戴きありがとうございました。