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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
135/199

135.バーベキューのお店をつくろう!

「私たちが一生懸命仕事をしている時に、アンジュはずいぶん美味しいことをしていたのねぇ」


 お皿に山盛りの魚介類を乗せ、トゥーリがジト目で近づいてきた。

 しっかりとバーベキューを食べているところを見ると、エールで酔ってしまっているわけではなさそうだった。


(もしかしてトゥーリって、絡み酒なのかも。)


「わぁ、ごめんなさーい。お土産を沢山買ってきましたから、今日はしっかり食べてくださいね。ほんとごめんなさい。いっぱいお仕事してくれてありがとうございます。エビ、食べます?イカも美味しいですよ」


 焼き立てのエビやイカなどを、トゥーリの皿に追加で乗っけて見た。

 こうなるような予感はあったのだが、対処法は解らなかった。

 実の弟のトーイに聞いても、姉のトゥーリの怒りを鎮める方法など、知らないようだった。


(トーイって、まったく役に立たない。残念くんなんだよね。)


「・・・・・ほんとジレンマだわ。アンジュの側にいれば楽しいことが、いっぱいあるって解っているのに、そのアンジュと楽しいお仕事をする為に離れなくてはいけないなんて・・・・・。常に一緒にいられないなんて、なんて神さまは意地悪なのかしら」


 昨日、ラートピオの街に一緒に行けなかったことを、悔やんでいるのだと思う。


(あれは楽しかったし、美味しかったものね。)


 『魚介類屋』を借り切って、昼食にバーベキューをしたことを、弟のトーイにでも聞いたのかもしれなかった。

 港町なんてそうそう行けるところではないから、悔やむ気持ちも理解できた。


(さて、これからどうやって、バーベキューのお店の話に持って行くかが、問題だった。)


「トゥーリ、魚介類のお味はいかがですか?」

「ほんと美味しいよね。シンプルな味付けに、炭で焼くだけの調理法なのに、どうしてこんなに美味しいのかしら?」

「一番の理由は、新鮮な食材だからでしょうね。新鮮なものは何も手を加えなくても、美味しいのです」


 『魚介類屋』から買った食材は、どれも新鮮でピチピチ、プリプリだった。


「ほんと旨いわ。エビ、イカ、ホタテ、ハマグリにお醤油もあうわね。焼いた肉にこのソースも美味しい。どれもエールにあう。ほんとエールが進むわね。いいわねバーベキュー」

「そう思います?思われますよね。こんなお店があったらいいなぁって、トゥーリも思いますよね」


 何かを感じ取ったトゥーリが、一瞬動きを止める。

 まだアンジュは何も言っていないのに、トゥーリにはすべて解ってしまっているようだった。


「ちょ、ちょっと待って。そりゃあこんなに美味しいバーベキューが、食べれるお店があれば、いいなぁとは思うわよ。でも実際にはないわけでしょ。今回は魚介のお店を、借り切って食べたのよね」

「そうなのですが、こちら昨日借り切った『魚介類屋』の店主の孫娘のチャルチさんなんですが・・・・・・」

「アンジュ、()()()?」

「はい、その()()()なんです。こちらのチャルチさんが、バーベキューのお店を開きたいと仰って」

「・・・・・・・・」

「ダメ・・・・・ですか?」

「アンジュ、ほんとあなたって、次から次へと」


 そりゃ、トゥーリも、いい加減怒るよね。

 アンジュはいつも考えるだけ、と言うよりも思い付きをただ口にしているだけで、契約など実際動くのはトゥーリだからね。


「わーん、ごめんなさい」

「ほんと、アンジュあなたって何者なの?私にこんなに仕事をさせて・・・・・」

「ほんと、ごめんなさい」


 もうここは、謝るしかなかった。

 ここでトゥーリに見放されたら、この先アンジュの思い付きは、実現できそうになかった。


「もうアンジュったら、楽し過ぎるじゃない」

「・・・・・?」

「どうしてこんな楽しい仕事ばかり、見つけてくるのかしら?」

「トゥーリ、バーベキューのお店も、プロデュースして戴けるのですか?」

「もちろん、こんな楽しいお仕事、他人には任せられないわ」


 ほんとトゥーリって、お仕事大好きだよね。

 まさにデキる女と言う感じだった。


「わーい、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」

「任せて、ほんと美味しいわ。この魚介類。まずは地元でオープンさせて、王都にも最低1店舗は欲しいわね」

「そうなんですよ。私もそう思っていたんです」


 王都にも新鮮な魚介類が食べられるお店、あったらいいなぁと思う。


「ところでそのお店を開きたいと言う方は、何処に居るの?」

「こちらチャルチさんと、その旦那さんのグバックさんです」


 トーゥリは自分が今まで話をしていた夫婦が、お仕事相手と知って目を丸くする。

 その後、にっこりと微笑んだ。まさにしてやられたと言う感じだった。

 まぁある低度、ここまで誘導したって感じだけどね。


「ほんと楽しませてくれるわね、アンジュって。いいわ、やりましょう。さっそく今から、ラートピオの街に行くわよ」

「えーっ、今からですか?」


 でも今日は王都に、帰らないといけないのに・・・・・。

 テリュースに目をやると、焦った顔をして駆け寄ってきた。


「今からラートピオに行くなど、絶対にダメだ。アンジュは今日、王都に連れて帰る。ここに残るなど絶対に認めない」


 まぁ、そう言われるだろうなと、アンジュも思っていた。

 テリュースがアンジュを一人置いて帰るとは、絶対に思えないかった。


 元よりアンジュには、信用がない。

 やらかし体質なので、ここでテリュースがアンジュを野放しになどしてくれるはずがなかった。


「アンジュを一人で、置いておけるわけがないだろう」


 それだけは絶対に譲れないと言うテリュースの態度は、頑なだった。


(じつわテリュースは柔らかい見た目に反して、これが結構頑固なんだよね。)


 一度言い出したら、絶対に引いてはくれなかった。それがアンジュのこととなると、尚更みたいで。


「しょうがないわね。ほんと過保護なんだから」


 じっとテリュースを見ていたトゥーリだが、諦めたようにふーっと息を吐き出す。

 降参と言った感じで、両手を肩のあたりで上げる。

 何を言っても無駄だと、解ったみたいだった。


「解ったわ。アンジュは王都に帰ったら、バーベキューソースに焼肉のたれ、ポン酢とマヨネーズを、『森の恵み亭』に大量につくらせること」

「はい、解りました。それでトゥーリはどうされるのですか?」

「これからラートピオに行って、チャルチさんたちと打合せして、ある低度形にしてから、王都に戻るわ」

「ありがとうございます。私もお手伝いしたいのですが・・・・・」


 ちらりとテリュースを見ると、首を横に振られた。


(うん、ダメだよね。解っているって。)


 クロードとの約束もあるし、約束を守らないと次の旅行のお許し絶対に出ないと思う。ここは我慢なのは、解っていた。


「大丈夫よ。アンジュの店のイメージだけ教えてくれればいいわ」

「わかりました。すぐにイメージを書き出しますね」


 昨日見た『魚介類屋』を思い出し、店のレイアウトを書きだす。

 あまり時間がないので、現実的な設計図と言うよりは、思いつく限りのことを書きだしてみた。


「やっぱりアンジュの発想って、おもしろいわね。そのイメージって、いったいどこから来るのかしら?いいわ、これで勧めるわね。レレミアとケントにはここに残ってもらって、こちらのお店をオープンさせてから、ハーブの店に移るわね」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫。これだけイメージがしっかりしているのだから、すぐにオープンさせてから王都に帰るわ。アンジュは王都で、楽しみに待っていて」

「解りました。レレミア様が伝書鳥の魔法を使えるので、何かあったら連絡して下さい」

「ええ、そうさせて貰うわ。アンジュは安心して、殿下と王都で待っていて」

「はい、お気をつけて」


「トゥーリ、アンジュは置いておけないが、後のことは頼んだ」

「はい、殿下。こちらのことは、ご心配なく。さっさと終わらせて王都に帰りますから」

「ああ、王都で良い話が聞けるのを、待っている」


 絶対に放さないとばかりに、テリュースがアンジュを抱きしめる。

 ただアンジュが逃げ出さないように捕まえているだけで、色気も素っ気もなかった。


(ほんと信用がない。今更逃げ出したりしないのに、ね。)


 この後、アンジュはドナドナ状態で、テリュースに連れられ王都へと繋がったゲートをくぐった。

 ミエリッハ領に行くのも早かったが、帰り王都に着くのも早かった。


 帰りもテリュースと手を繋いで、ゲートをくぐったのだが、来た時ほどのドキドキ感はなかった。

 テリュースにしっかり手が繋がれて、ゲートの中へと足を踏み入れる。

 

 耳の中にキーンと、金属音が響いた。(うわぁ、気持ち悪い!)


 行きもそうだったが帰りも、慣れることはなかった。

 地面がグニャリと歪むような感覚が気持ち悪くて、アンジュは慌てて眼を瞑りテリュースに抱きついた。


 感覚は、ほんの一瞬のことだった。


(やっぱりゲートの魔法、最高だね。)


「ただいま、お父様」


 ゲートの先、王宮の庭には、クロードが待ち構えていた。


読んで戴きありがとうございました。

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