129.晩餐
ちょっと上等なドレスに着替えお洒落したアンジュは、テリュースにエスコートをされ、晩餐の席へと向かう。
自分で作った料理なので新鮮さはないが、エビフライは久しぶりなので楽しみだった。
(今世では、はじめてだよ。楽しみだよね。)
「アンジュ、お疲れ様」
「はい、テリィもお疲れ様です」
「今日の晩餐は、どんな料理が食べれるのかな。楽しみだね」
「こちらの領は海に面しているそうです。海の幸の料理もありますので、楽しみにしてくださいね」
「海・・・・・、そうかミエリッハ領は、海に面しているからね。その顔だと、美味しいものができたようだね」
「はい。テリィの為にがんばりました」
「ありがとう。それは楽しみだね」
扉が開かれると、みんなすでに席についてアンジュたちを待っていた。
2つ空いた席の左側にコンラットにアンリ、右側にエルにトゥーリにトーイが座っていた。
レレミアは、ミエリッハ子爵家側に座っていた。ケントは使用人側なのか、給仕の中に姿があった。
アンリの隣にテリュース、エルの隣にアンジュが座ると、飲み物が運ばれてきた。
テリュース、コンラット、アンリ、エル、トゥーリ、トーイはワインを、アンジュは果実水にした。
今、ワインなど飲んだら、絶対に寝てしまう。アンジュはアルコールに、強くはなかった。
「さぁ、皆様。今宵は我が領の食材を使った、アンジュ様の最高の料理をお召し上がりください。フランドール公国に、栄光あれ!」
「「「「「フランドール公国に、栄光あれ!」」」」」
ヴェルダリスの短い挨拶のあと、みんなが一斉にグラスを掲げる。
前世の乾杯みたいなものだった。
テーブルには、前菜から運ばれてくる。
最初はトマトのカプレーゼと、マグロとアボカドのサラダが、ワンプレートに綺麗に盛り付けられた前菜だった。
王都とは違いこの辺は輸送に時間をかけなくても良い為、畑で十分に熟れたトマトが食卓に上がる。
良く熟れたトマトにモッツァレラチーズとバジルを、オリーブオイルと黒胡椒で味つけしたもので、見た目も美しいかった。
マグロとアボカドのサラダは、醤油とマヨネーズで味つけしてある。
こちらも色バランスの、美しいサラダだった。
マヨラーのコンラットは、マグロとアボカドのサラダがお気に召したようだった。
「アンジュ姫、美味しいです。この赤い肉は、何の肉ですか?」
「マグロと言うお魚の身なんです。新鮮なものだったので、今回は生でアボカドとあえてみました。美味しいでしょ」
「マグロ?・・・・・魚ですか?初めて食べましたが、美味しいですね」
「そうですか。お気に召してよかったです」
ミエリッハ子爵家の方たちも、恐る恐る前菜を口にすると、次の瞬間目を見張る。そして今度はパクパクと食べ始めた。
ミエリッハ子爵家の方たちにも、お気に召したらしい。
みんな綺麗にお皿を、空にしていた。
「・・・・・・美味しい」
「お父様、私こんな美味しい料理、初めて食べました」
「うんうん。私もだ。世の中にこんな美味しい料理があったとは・・・・・」
次に運ばれてきたのは、エビフライだった。
(やほーっ、エビフライだよ。この世界に海老があると解れば、いろいろな料理が作れるってことだよね。)
「この料理にはタルタルソースかオーロラソースをかけて、お召しあげりください」
アンジュが説明すると、みんな好みのソースをかける者、両方のソースを試してみる者といろいろだった。
フォークとナイフで切り分け、口へと運ぶ。
口に入れた瞬間サクッ!と音がして、次の瞬間プリプリの海老の感触が口の中に広がる。
噛みしめると外側のカラリと揚がったパン粉と、海老の旨みが1つになり、とても美味しかった。
(海老って、美味しいよね。海、最高!)
みんな食べることに夢中で、とても無口だった。
「まぁ、これがエビ?」
「はい、エビフライと言います」
「こんな料理、初めて食べました。エビがこんなに美味しいなんて知りませんでしたわ。この調理法も、初めてです」
まぁ、茹でるだけの調理法でしか食べたことがなければ、そう思うよね。
この世界、油はとても高価な物なので、揚げると言う調理法はまだ広まっていなかった。ちょっと高カロリーだしね。
「アンジュ、このエビフライって、本当に美味しいね。タルタルソースも、オーロラソースも、どちらのソースも良く合っている」
「そうですか。お気に召して、良かったです」
「王都でも食べられると良いのだが・・・・・」
「そうですね。明日は海に行って、海老やお魚を買って帰りませんか?」
「うん、いいね。買って帰ろう」
「はい。明日が楽しみですね」
(やったーっ!これで明日は、テリィと海デートに決定した。)
続いてすりおろしじゃがいものポタージュスープ、鶏肉の赤ワインソースかけと続いた。
みんな初めての料理に驚き、感動し、すべてを完食していた。
ほんと作った者としては、嬉しいかぎりだった。
パンのディップも、好評だった。
王都でアンジュの料理を食べなれているテリュースやコンラット、アンリやトーイも、満足してくれたみたいだった。
トゥーリは眼をキラキラさせて、今度は海の幸料理の店も良いかもしれないなんて呟いていた。
(海の幸、美味しいよね。ほんとにお店のこと、考えてもいいかも。)
締めのプチケーキのアイスクリーム添えなどは、アイスクリームを知らないミエリッハ子爵家の方たちには大変好評だった。
甘いものは別腹みたいで、男性も女性もみんな完食していた。
「ふぅ~っ」トーイが、自分のお腹を擦る。
膨らんでいるように見えるのは、気のせいではないと思う。
アンリもお腹を擦っているところをみると、かなりの量を食べたみたいだった。
(いったいおかわり、何回したのかな?腹も身の内って、言うのにね。)
「アンジュ様、本当にありがとうございました。素晴らしい料理でした」
ヴェルダリスが感動したと言わんばかりに、近づいて来る。
エルがサッと立ち上がると、アンジュとの間に割って入った。ほんと騎士の鏡、反応の速さはピカイチだった。
アンリやトーイは、食べ過ぎで、全然動けていない。護衛として、どうなの?と心配になる。
「な、何もしません。ただアンジュ様に、お礼が言いたかっただけで」
両手を上にあげ危害を加える気はないと、ヴェルダリスが情けない顔をアンジュに向ける。
エルはすでに抜刀していて、いつでも切れる状態だった。(危ない、危ない)
「解りました。お礼はもう結構です。エル、剣をおさめて」
「しかし、姫様?」
「大丈夫です。一先ず引いてください」
「はい、畏まりました」
「それで、アンジュ様にお願いが・・・・・」
「またお願いですか?明日の食事は、作りませんよ」
今日はいっぱい頑張ったのだから、もう許して欲しかった。
(やっぱり、もう帰りたいかも、だよね。)
読んで戴きありがとうございました。