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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
124/199

124.領地唯一のレストラン

 フランドール公国の王都から、テリュースの魔法ゲートでミエリッハ領にやって来て、そろそろお昼になる。


 それまで精力的にいろいろなハーブを見て回り、かなりの収穫に主にアンジュとトゥーリがとても喜んでいた。


(だってラベンダーにカモミール、レモングラス、ローズヒップ、ペパーミント、クランベリー、ハーブがいっぱいなんだもの。ミエリッハ領って最高だよね。)


「なんだか、お腹が空きましたね」

「そうだね。そろそろお昼にしょうか?」

「はい」

「今日はこの領にはある唯一のレストランで、食事にしょう」

「わーい、どんな料理が食べられるのでしょうね」


 この領で、唯一のレストラン。どんな料理が出て来るのかとても楽しみ。


「・・・・・・ここがレストラン?」


 ミエリッハ領唯一のレストランの前で、アンジュたちは立ち尽くす。

 どう見てもレストランと言うよりは、食堂と言った感じのお店だった。


 まぁ田舎だものね。この際ディテールには、アンジュたちも拘らない。

 料理が美味しければ、それで良かった。


(お腹も空いてるし、早く食べたいよね。)


「さぁ、中へ入ろう」


 いつものようにテリュースが、レストランの中へとエスコートしてくれる。

 外のこじんまりとした外観のわりに、レストランの中は意外に広く感じられた。

 それでも長い廊下などないので、入り口からテーブルまで数歩でついてしまう。

 テーブルに着くとテリュースのエスコートは終わり、彼の手が離れていく。


 エルが椅子を引いてくれたので、アンジュが腰を下ろすと、その隣にテリュースも腰を下ろした。


「これはちょっと座り心地は、よくないね」

「自分の脚が、邪魔だな」

「子供に戻った、気がしますね」


 テーブルも椅子も木製のもので、前世の田舎の小学校の椅子に似ていた。

 アンジュやトゥーリには座りやすいが(縦も横も小さいからね。)、足の長い男性たちやエルにはちょっと辛いかもしれない。


 なんとなくミニチュアっぽい店内は、前世の女子高生が好みそうな内装だった。

 赤いチェックのテーブルクロスが、アクセントになってほんと可愛く見える。


「可愛い内装ですね」

「ほんと、ハーブのカフェの内装の参考になるわね」

「そうですね。ミエリッハ領のハーブを使ったお店ですから、領の特色を生かすのもいいですね」


「そんなことより、早く飯にしょうぜ」

「賛成です。俺、もう腹ペコです」


 アンジュとトゥーリが興味深くあちこちを見ていると、アンリとトーイが苦情の声を上げる。

 本当にお腹が空いているようで、とりあえず何かを食べさせないと静かにはなりそうになかった。


 ほんと行儀の悪い兄で、恥ずかしくなる。トゥーリも同じことを考えているのか、渋い顔をしていた。


 お互い兄弟には、苦労するよね。


「適当に注文するから、小皿で取り分けて食べることにしょう」

「わーい。どんなお料理が運ばれてくるのでしょうね。楽しみですね」

「・・・・・・・・」


 アンジュがワクワクしながら、レレミアたちに話しをふると、彼女たちは気まずそうに目を反らした。


(な、なんだ?どうした。)


 運ばれてきた料理は、見た目結構美味しそうな料理だった。

 しかし、みんな一口食べるなり、無言になる。

 お腹が空いているはずなのに、フォークは動かなかった。


「アンジュの料理を知った後では、ちょっと食べれないかな」


 テリュースも、そっとフォークを置く。

 食べる気が無くなったのか、誰もが再び食事を再開しようとはしない。

 あの食いしん坊のアンリやトーイでさえも、フォークが止まってしまっていた。


「腹が空いてるのに、食べる気がしない」

「ほんとそうですね。俺、前までは不味くても、食べれるものならなんでも食べていたのに、これは本当に食べる気がしないって言うか食べれません」

「え~っ、そんな。食べて戴かないと、私たちが困ります」


 料理を運んできた中年の女性は、困ったようにオロオロしていた。

 さすがにテリュースのことが王族とは知らないだろうが、ご領主さまのお客様の口に合わない料理を出したとなれば、困るのは当たり前だった。

 店主も厨房の小窓から顔を出し、どうしたらいいのか解らないと言う顔をしている。


「うーん、困りましたね」

「アンジュ、この料理、どうにかしてくれないか?」

「私がしても、よろしいのですか?」

「ああ、このままでは、アンリもトーイも腹が減っては仕事にならないだろうし、出したものが手つかずのままでは、店の方も困る。私もアンジュのご飯が食べたいし、ね♥」


 ね♥って、テリュースに可愛く頼まれては、アンジュも断れなかった。


(アンジュのご飯が食べたいとまで言われたら、私もがんばっちゃうよね。テリィ、大好き♥)


「解りました。少しお待ちくださいね。申し訳ありませんが、厨房を貸して戴いてもよろしいでしょうか?」

「は、はい。こちらです」


 中年の女性は躊躇なく、アンジュを厨房へと案内する。

 もう藁にもすがると言うか、誰でもいいから助けて欲しい感が現れていた。


「アンリ兄様、トーイ、ここに出ている料理を、厨房に運んで下さい」

「「解った」」


 アンリもトーイも 背に腹はかえられないとばかりに、今回は何の文句もなく料理を運んでくれた。


「アンリ兄様、マヨネーズを作ってください。トーイはドレッシングを、お願いします」

「「了解」」


 さて、この料理を、どんな味付けにしょうかな?


 鹿肉をそのまま焼いたものは、パン粉にバジル、オレガノ、粉チーズをつけて、カツレツ風にした。

 鳥肉を焼いただけのものは、たっぷりパセリを混ぜ合わせたバターレモンソースをかけてパリッとするよう焼き直す。

 タイム、ローズマリー、パセリを使い、じゃがいもとパプリカをローストにして塩、胡椒で味つけをした。

 アンリが作ってくれたマイネーズを使って、ポテトサラダも作る。

 イタリアンパセリとマヨネーズ、鶏肉のささ身をほぐしたものを混ぜてディップをつくり、パンに塗って食べれるようにした。

 グリーンサラダには、トーイの作ったドレッシングを添える。

 スープはレモングラス、オレガノを使い、少し味を調えて出来上がり。


「凄い。ほんの少しの時間で、料理がこんなに変わるとは・・・・・」


(うん、解るよ。ちょっと手を加えただけで、こんなに変わるとは思わないよね。)


 厨房内は食欲をそそる良い匂いが、充満していた。

 食は5感で食べるとは、よく言ったものだと思う。

 視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚が揃って、料理は美味しく感じるのだろう。


「できましたので、温かいうちにこの料理をもう一度テーブルに運んでくださいますか」

「は、はい。ありがとうございました」


 店主と先ほど困っていた中年の女性のお二人に、丁寧にお礼を言われた。

 二人はどうやらご夫婦のようで、このお店を二人で経営しているようだった。

  

 アンジュは手を洗うと厨房から、テーブルにもどる。席に着くと再度、料理が運ばれてきた。


「ほんといい匂いがするね」

「美味しそうだわ」

「では、戴きましょう」


 今度はフォークが止まることなく、みんなの食が進む。

 先ほどと具材は変わらないのに、みんな美味しそうに召し上がっていた。


「美味しい♥」

「旨い!」

「こんなに美味しい料理、食べたことがありません」

「もともと素材は良いものですからね。あとは味付けだけ、少し直せば美味しくなりますよ。ほとんどここのお庭にあるハーブを使って味つけしただけなんですけどね」


 本当にそんなに手間は、かけていない。

 それでもみんなが美味しい、美味しいと食べてくれるので、アンジュはとても嬉しかった。


「ハーブって、ほんと凄いものだったのですね」

「レレミア様、ここは宝の宝庫ですよ。きっと王都にも良いカフェができると思います。楽しみですね」

「アンジュ様、ありがとうございます。私もこの領地が好きになれそうです。この御恩は一生懸命に働いて、お返しします」

「オレ、いえ私も、精一杯働きたいと思います」


 レレミアにもハーブの良さが伝わったようで、アンジュはとても嬉しかった。

 

 美味しいは、正義なのです。

読んで戴きありがとうございました。

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