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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
118/199

118.女護衛騎士 エル

 あの拉致事件から、数日が過ぎた。

 ミエリッハ子爵は、爵位を8歳の息子イーアニュに譲り、嬉々として領地へと帰って行った。これからながーい引き籠り生活が、始まる。


 クロードから聞いた話によると、爵位を息子に譲り領地に引き籠るだけで借金がなくなるのなら、それでお願いしますと土下座せんばかりに頭を下げたらしい。

 ほんとに、良く似た親子だと思う。

 かたや自分のしでかしたことの尻拭いに、アンジュを差し出そうとしたレレミア、借金をチャラにするために、領地に引き籠る父親。


(まぁ、借金はチャラには、しないけどね。)


 しっかり働いて、返してもらいますよ。借金を返すのは、あたりまえだよね。


 拉致事件から後、アンジュには女性の護衛がつけられた。


 名前はエルベーラ・クベーケレ子爵令嬢、21歳。通称エルと呼んでいる。

 綺麗な金髪の髪をポニーテールにした、琥珀色の瞳が印象的な凛々しいと言ってもよい女性騎士だった。

 本来は1人では足りないのだが、手が足りない時などは兄のアンリと助手のトーイが穴を埋めることになっていた。


「姫、今日のご予定は?」


 エルが今日の予定を確認する。

 アンジュの呼び方は、姫だった。

 いくらアンジュと呼び捨てでいいと言っても、頑なに姫呼びを続けるので、アンジュはもうエルの好きに呼ばせることにした。


「今日はトゥーリ様が、打合せに来られることになっているので、お部屋で待機していただいて構いませんよ」

「いえ、私は姫の護衛ですから、ご一緒させて戴きます」

「そう言われるのでしたら、エルには退屈だと思いますが、よろしくお願いします」

「かしこまりました」


 エルは綺麗で、強くて、護衛としては申し分ないのだが、とても真面目だった。


(でも真面目って、悪いことではないよね。)


 ◇◆◇◆◇


「で、今度は何をするつもり?」


 トゥーリがさも面白そうに、ニッコリ笑って言う。


「はい、今度はカフェを作ろうと思います」

「カフェ?アンジュにしては、普通過ぎない?」

「えーと、ハーブのお店です」

「ハーブのお店?」

「はい。数種類ですが、用意しましたので、飲んでみてください」


 アンジュがタマラに合図を送ると、トゥーリ、エル、アンジュの前に数種類のハーブティが用意される。


 今回は色の綺麗なラベンダーティ。

 リラックス効果があり、風邪予防、血圧を抑える効果がある。ラベンダのよい香りのするお茶。

 2杯目はカモミールティー。リラックス効果があり。胃を整えたり、身体を温める効果がある。青リンゴの香りに似ていて、フルーティーで瑞々しい香りのするお茶。

 そして3杯目は先日ケントが淹れてくれたレモングラス。レモンのような爽やかな風味で、レモンティーのような味わいがして、すっきりとして飲みやすい。美肌効果、整腸作用、リラックス効果があるお茶を用意した。


「これがハーブティ?」

「そうですよ。そしてこちらが、ハーブを使ったお菓子です」


 ローズマリーを使ったクッキーとレモンバームを使ったパウンドケーキを用意した。


「さぁ、どうぞ召し上がれ」

「わぁ、これが全部ハーブを使ったものなのね」


 トゥーリは好奇心で目をキラキラさせながら、試食していく。


「エルも試食して、感想を聞かせてください。護衛のお仕事とは違いますが、私の護衛となってくださるのでしたら、これもお仕事になります」

「お茶を飲んで、お菓子を食べることがお仕事ですか?」


 エルは意外なことを聞いて信じられないように、眼を見開く。

 そんな仕事など、あるわけがないと言う表情だった。


「そうね。アンジュの護衛なら、こういったお洒落なお茶やお菓子の他に、魔物の肉も食べなくてはいけないわね」

「えっ、魔物の肉なんて、冗談ですよね」

「私はビックバードとワイルドボアのお肉を食べたわ」

「・・・・・・・」


 トゥーリの話を冗談だと思っていたのか、エルはカチンと固まってしまった。


「えーと、エルは『森の恵み亭』って知っている?」

「はい、王都では有名なカレーの美味しいお店ですよね。私も何度か行ったことがあります。から揚げやカツカレーは絶品ですよね」


 エルの口からから揚げや、カツカレーが出て来て、アンジュも嬉しくなる。トゥーリも、同じ気持ちのようだった。


「・・・・と言うことは、カレーは食べたことはあるのね」

「はい。今人気のお店ですから、もちろん食べたことはあります」

「そっか、それなら話は早いわ。あのお店私とアンジュが出資して、アンジュのレシピ料理のお店なの」

「・・・・・・?」


 突然そんなこと言われても、理解できないと思う。

 エルはポカーンと、アンジュたちを見つめていた。

 貴族令嬢がお店を経営しているとは、普通は思わないよね。


「で、次はこのハーブのお店を、オープンさせることになると思うわ。なのであなたは護衛と言えども、そう言うことも知っておかないと、いざと言う時、アンジュを守れないわよ」


 言ってトゥーリがとても美味しそうに、パウンドケーキを口へと運ぶ。

 その様子を見てエルは覚悟を決めたのか、ハーブティに口付けた。


「あっ、・・・・・・おいしい」

「うん、おいしいわね。どれも独特の味がして、いろいろな効果がある。ほんとハーブって、凄いわ」

「そうでしょ。美容や健康にも効果効能があり天然のくすりと呼ばれるハーブの専門店って、いいんじゃないかと」

「確かにいいわね」


 若い女性は美容などに興味があると思うし、年配の方なら健康関連は大切だと思う。

 この世界薬局もないし、一般市民には薬などは手に入れにくいので、その予防策としてハーブティが役立つのではと思ったのだが、トゥーイの反応はとても良かった。


「それでハーブの入手は、継続的にできるわけ?」

「もちろんです。ハーブの生産地を抑えていますので、大丈夫ですよ」


 ミエリッハ子爵の借金を肩代わりしたのも、彼の領地で採取されるハーブが目的と言っても良かった。

 アンジュとミエリッハ子爵が交わした借用書関連の書類にも、その旨が記載されていた。


 その点は、ぬかりはなかった。アンジュがと言うより、クロードが、だけどね。


「そして従業員も2人、確保しています。1人は男性で、とてもハーブティを入れるのが上手いのですよ」

「さすが、アンジュね」


 確保した従業員は、レレミアとケント。

 彼女たちには今度オープンさせるカフェで、アンジュに迷惑をかけた分はしっかり働いてもらおうと思っていた。

 もちろんお給料も払うし、お休みだってあげるつもりだった。


「さぁ、忙しくなるわよ。腕がなるわ」


 トゥーリが本当に楽しそうに、あれこれとこれからしなくてはいけないことを上げ始める。


「さぁ、エル、あなたも忙しくなるわよ」

「私もですか?」

「もちろん。アンジュが忙しくなると言うことは、エルも忙しくなるのよ。護衛だからとは、言ってられないわよ」

「はい、私も姫のために、がんばります」


 エルも覚悟を決めてくれたようで、クッキーなどの菓子類にも手を伸ばす。

 エルはクッキーを口に含むと、ほっこりと口元を緩めた。


(女の子って、甘味が大好きだよね。甘味、最高!)


 レモングラスのお茶は、お変わりをしていた。


「エル、今飲んでいるお茶はレモングラスと言って、美肌効果があるの」

「美肌効果ですか?」

「美味しい上に、美肌効果って、最高ね」

「本当にハーブって、最高ですね」


 どうやらトゥーイもエルも、ハーブの虜になってしまったようだった。


「あっ、そうそう。エル」


 トゥーリが何かを思い出したように、エルを呼んだ。

 アンジュもトゥーイが何を言うのかと、手を止めて彼女を見つめる。


「『森の恵み亭』の料理は、みんな魔物の肉だから」

「はぁ・・・・・・・?」

「だからエルの好きなから揚げも、カツカレーもみんな魔物のお肉を使った料理だから、念のため」

「・・・・・・・・」


 それ今、言わなくてはいけないこと?

 聞いたエルは再びカキーンと、固まってしまった。


 確かに魔物のお肉とか言ったら、抵抗がある人もいると思う。

 エルもその一人と、言うことなのだろう。


 しかし『森の恵み亭』の看板にも、メニューにも、魔物料理専門店って書いてあると思うのだが・・・・・・。


 まぁ、エルもそのうち慣れるよね。(美味しければ、いいと思うよ。)



 

読んで戴きありがとうございます。

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