105.花粉症にはハーブティ
久しぶりの家、自分の部屋なのに、なんだかちょっと落ち着かない。
1か月家を空けただけでこんな感じになるとは、アンジュも思っていなかった。
王宮に戴いた私物も何もない部屋の方が、落ち着くなんで不思議だよね。
「でも、・・・・・・・つかれた」
アンジュは、ベットにごろりと寝転がる。
貴族の令嬢としてはどうかと思うが、幸い誰も見ていなかった。
「テリィのことは好きだけど、なんだかよく解らない」
ほんと自分の人生は、超特急だと思う。
ジェットコースターのように登り下りはないが、凄いスピードで進んでいると思うのは、気のせいばかりではないと思う。
もっとゆっくり恋をして、恋愛をして、結婚と言う流れになるはずだったのに、いきなり婚約の儀まで終わってしまった。
2年後にはテリュースと結婚する。
それは別にかまわない。
テリュースの事は、素直に好きだと思う。
それでもどうしても未来に不安を感じてしまうのは、前世の千尋も経験したことがないことを、アンジュが経験するからなのだろうか?
(自慢ではないが24年間、彼氏無し、恋愛経験無しの、薬剤師の卵だからね)
まぁ、ここでグダグダ考えても、しかたがない。運命と言うのは、そんなものなのだろう。
自分で勝手に結論づけたところで、瞼が重くなった来た。
重くて重くて、目が開けられない。
(私、結構疲れてたんだ。)と思ったところで、アンジュの意識はストンと途絶えた。
◇◆◇◆◇
翌日はテリュースとの約束通り、早起きして紅茶のシフォンケーキを作った。
お添えのアイスクリームも、アンリに氷魔法で冷やして貰うだけにしてある。
「アンジュ、そろそろ行くぞ」
「はーい。ごめんなさい。よろしくお願いします」
アンリは護衛も兼ねているので、朝はアンジュと一緒に出勤することにしたらしい。
妹の護衛は不本意のようで、朝のせいかあまり機嫌はよくなかった。
(きっと低血圧なのよね。それか夜更かしのし過ぎ?なにやっているだか?)
王宮まで一緒に馬車で来た後、薬学研究室まで送ってくれる。
ここでアンジュをトーイに引き渡して(なんだか犯罪者みたいだよね)、アンリはテリュースのところへと戻って勤務に着く。
「トーイ、後はたのんだぞ」
「はい、はーい、薬草園と薬学研究室から、出さなければいいんですよね」
(人を危険物のように、言わないで欲しい。)
「ああ、よろしく頼む。何かあったら、テリュース殿下の執務室まで、連絡をよこしてくれ」
「はい、は-い。了解しました」
アンリに対してめちゃくちゃ低姿勢なトーイと、不機嫌顔のアンジュに見送られ、アンリはテリュースの所へと勤務に向かった。
「さて姫さん、今日は何をしますか?」
「何をしましょうか?」
アンジュは少し考える。
今朝、長兄のアルフレットの屋敷を揺るがすようなクシャミで、アンジュは眼を覚ました。
それは1回だけでなく、
「ベクシューーーーーン!ベクシューーーーーン!ベクシューーーーーン!」
何度も繰り返していて、とても苦しそうだった。
あんなに力いっぱいくしゃみをしていたら、さぞかし体力を使うに違いない。
よけいな力が腹筋などにかかって、筋肉痛になってしまいそうだった。
「そう言えば最近王宮では、くしゃみをしている人が多いわよね」
「そうですね。風邪と言うのとは少し違うような」
(それって前世のアレルギー性鼻炎、花粉症ではないかと思う)
「ベ、べ、べ、ベクシューーーーーン!」
アンジュが前世の花粉症のことを考えていると、トーイまでも盛大なくしゃみをした。
「トーイも、くしゃみですか?」
「ふぁい、先日からくしゃみが止まらなくて」
「ちょっと待っていてくださいね」
花粉症と言うのは、花粉という異物が体内に侵入するのを、排除するためヒスタミンが放出され、涙、くしゃみ、鼻水で体外へ放り出そうとし、鼻づまりで花粉の侵入を防ごうとして起こる症状のことなのだが、ハーブの中には抗アレルギー作用や抗ヒスタミン作用をもつものがあるので、ハーブティーにして飲んで、花粉症の症状が重くならないように予防することもできるのです。(ハーブって、凄いよね。)
「花粉症ならネトルとエルダーフラワーのブレンドティがいいかもしれませんね」
マスカットに似た甘い香りでやさしい味わいのエルダーフラワーと、緑茶のような香りと味で飲みやすい、ネトルのブレンドしたハーブティをトーイに入れてみた。
温かい湯気が心地よいのか、顔をカップにつけるようにして、トーイはハーブティを飲み干す。
吸入器のように鼻からと喉から、スチーム を吸入する事で症状が緩和できているようだった。
「姫さん、なんだかすごく楽になりました」
「そうですか。よかったです。ではこのエルダーフラワーとネトルのブレンドのお茶を、花粉症で苦しんでいる方に、飲ませてあげるとよいかもしれませんね」
「そうですね。みんな喜びますね。では早速、俺は薬学研究室の奴らと、アルフレット様に届けてきますね」
「ありがとう、トーイ。アル兄様、とても大変そうだったので、お願いしますね」
花粉症って、ほんと大変だものね。
ハーブティでも飲んで、少しでも楽になってくれればよいと思う。
後からトーイに聞いた話によると、ハーブティはとても好評だったらしい。
ブレンドしたものを譲って欲しいと、薬学研究室に人が押し寄せ大変だったとリシャール殿下がぼやいておられた。
お茶を配るだけなのでいいと思っていたが、これも報連相案件だっだらしい。
(わーん、ごめんさーい。まさかそんなことになるとは、思わなかったので・・・。)
でも、そんなに人気があるのなら、ハーブティの専門店を開くのもよいかもしれませんよね。
今度トゥーリ様に、相談してみーよう、と。
読んで戴きありがとうございました。