お前がたたなくてどうする
お金が欲しい。
気付くと、呟いていた。
しかし水分を失った唇では、
パクパクと動かすことしかできなかった。
薄く開けたまぶたに、
ぼんやりと木目状の天井が見える。
霞んだ視界では、顔に見えた。
薄暗く、空気が重い。
湿気ていて熱気が籠もっているんだ。
ぼんやりと思う。
打開する手立てはない。
エアコンなど勿論ない。
冷蔵庫も、ない。
なにもないんだ。
得られない。
与えられない。
徹頭徹尾、無意味なんだ。
私の人生は無意味なんだ。
生きてる価値がない。
されど。
他人に必要とされたい。
誰かに好かれたい。
承認欲求の塊で。
どれだけ求めても満たされることはない。
底無しのバケツの様に、
どれだけ注いでも満たされることはない。
私の体は、日々何かを求めて疼いている。
いや、何かをするべきだと、訴えているんだ。
ただこうして、天井を呆けて眺め続ける生活。
意味も価値も生み出すことができない日常は。
人間で行う必要なんかない。
猫に生まれ変わりでもしたら。
そうしたら、意味も価値もできる。
少なくとも私はそう思う。
こうして無駄な思考を続けるのも、
意味がない。価値もない。
行動しなければ結果は伴わない。
失敗を恐れるのは、
若いうちにすることじゃない。
失敗をして、恥をかいて、苦労をするのは、
私たちの特権なんだ。
わかってる。
死なない様にいきるんじゃない。
何かを為すために、
私たちは生きるんだ。
ああ、もういいや。
何もかも、まかせよう。
全てを投げ出して。
視界が暗転して、
思考も。
本来なら働いていてもおかしくない年齢なのに。
何をしているんだ私は。
暗い闇の底に引きこもって。
そこはきっと湿気ていて重々しいに違いないのに。
呼び掛けても返事は返ってこない。
私が聞きたいことは山ほどあるのに。
まあいいか。
鉛の様に重たい体を叩き起こす。
馬鹿馬鹿しい。
告白が失敗した?
バイトに遅刻した?
太って気分最悪?
それは命に関わるほど、
重要のことなのか?
いずれも否。
くだらない。
人生の決断にどれも影響はしない。
本人の受け止め方次第といったところ。
つまり私が言いたいのは。
軟弱すぎるのだ、精神が。
ずきずき痛む手首に、
眉が寄ってしまう。
思考しつつ、説教を垂れ続ける。
蛇口を少しつづ緩めるように、
言葉数も増す。
それは、私の、もうひとりのわたしへ送る言葉だ。
コップに水を注ぎ、飲み干す。
下着、服に袖を通して、化粧をする。
鏡に映り込む表情は、
さながらゾンビのようだ。
唇の血色。
肌のかさつき。
歳若き少女がこの様じゃ、
世間の奥様がたはお怒りになってしまう。
若いのに、もったいない。
ほんとごめんなさい。
なんとかしますから。
この酷い顔。
暫くは立ち直れないだろう。
私が立て直してやるのは癪だけど。
と、変な臭いがして原因を探す。
ゴミが散乱している、わけではなく。
何もない、薄暗い部屋。
埃が落ちているぐらいで、
むしろ生活感がない。
人気がないのだ。
一体何日、床に転がっていたのだろうか。
つまりだ、異臭は私自身の体から発せられており。
その臭いで表情が歪んでしまったのだ。
大きなため息をつき、財布を確認する。
諭吉が1人、こちらをみつめている。
なんだ、いるじゃないか。
化粧落としを片手に最寄りの銭湯に駆ける。
落ち込んでもいいさ、何せ人生だ。
後悔して。
悩んで。
試行錯誤すればいい。
ただ、立ち止まり続けるのはだめだ。
走り抜くんだ。
死ぬまでな。