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レベル?スキル?そんなの無いよ?

作者: KIRIO

「えー、受付番号14番の方ー、どうぞお入り下さーい。繰り返しまーす。受付番号14番の方ー、どうぞお入り下さーい」

 天井の拡音器スピーカーから流れ出した耳当たりも滑舌も良い中性的な声の案内アナウンスを聞き、羽留はりゅう斗喇久としひさは手元の樹脂っぽい板に視線を落とした。

 板の中央に彫り込まれた番号はまさしく「14」。念の為にと裏側も確認してみるも、元々裏表の区別が無いのかそちら側にも同じく中央に「14」と彫り込まれている。

「よし。間違いない」

 板をぎょっと握り込んで座っていたベンチから立ち上がると、斗喇久は一度しっかりと屈伸をしてから徐に正面方向に聳え立つ観音開きの大扉へと足を進めた。

「番号札を」

 大扉の脇に悠然と立ち扉番が差し出した手に件の「14」と刻まれた板を渡して大扉の正面中央に立つと、待っていたかのように大扉が内向きに開き始める。

「待ってろよ。俺の転生チート」

 欲まみれの呟きをこぼしつつ、斗喇久は扉の向こう側へと踏み出した。


◇◆◇◆◇


「レベル?魂や精神に宿る力(スキル)?そんなの無いよ?」

「え?」

「いや、だから、そんなの無いよ?」

「いや、でも、え?」


 ヤーマと名乗る神様の素っ気ない反応に、斗喇久は絶賛混乱中だった。

 主観時間で2時間程前、公共交通機関である市内循環バスの上り線と下り線のバス同士による衝突事故で頭部を含む全身打撲により死亡した彼は、気づくと地面の代わりに雲が広がるなんとも不思議な平原に立っていた。

 正面数十メートル程のところには塀も壁も付属していない縦横数メートルの大きな門だけが立っていて、周囲を見回すと自分と同じように立ち竦む人達が数十人居て、その中には同じバスの乗客だった人も見受けられる。


(これはもしやアレか?アレなのか?)


 そんな事を思い付いた頃に、門から古代中国風の無駄にごてごてと装飾の施された服を着た病的に青白い顔の男が現れて、その場にいた全員を門の向こう側へと誘ったのだ。

 門を潜ると何故かそこには平等院鳳凰堂を彷彿とさせる巨大な屋敷が立っており、その一室へと案内された斗喇久を含む人達は告げられたのだ。


 君たちは本来なら今日亡くなるはずの命ではなかった。

 君たちは天の邪鬼と呼ばれる愉快犯を気取る罪人によって引き起こされた虐殺事件の被害者だ。

 この不幸を悼んだ死後の安寧と輪廻を司る我らが主ヤーマ様から、その権能の許す範囲で君たちに見舞いが下される事となった。

 見舞いの下賜は一人ずつとなる。

 各々に番号札を預けるので、呼ばれた順にヤーマ様との謁見に臨むように。


 斗喇久は興奮した。

 やはりそうだ。テンプレ通りとはいかないが、これは明らかに神様転生やチート転生だ、と。

 賜るという見舞いは転生先での優越アドバンテージとなるスキルや異能に違いない、と。

 

「いやいや、何度も言うけど、そんなの無いって」


 斗喇久の正面で、背凭れと肘掛けの付いた古代中国風の長椅子に腰かけた赤ら顔の大男──ヤーマが、顔の近くで手を振った。


「でも、転生なんですよね?」

「うん。寿命でもないのに天の邪鬼の悪戯で死んじゃったというのはいくらなんでも可哀想だし、これで逆縁の罪なんて背負わせる訳にもいかないし。だから、僕の権能でカルマの浄化とかを済ませて転生して貰おうと思ったんだよ」

「転生先は地球だけじゃ無いんですよね?」

「うん。さっきも言ったけど、ここ幽世かくりよからみて現世うつしよと呼ばれる世界は五つほど在るから、その何れかを選んでくれて良いよ」

「記憶は持ち越せるんですよね」

「命の灯火は消えたけど寿命の蝋燭は溶けきってないからね。来世の寿命の蝋燭に溶かし混ぜれば、映画を見るような感覚にはなるけど、前世の記憶を見ることが出来るようになるよ」

「それならやっぱり異世界転生じゃないですか。異世界転生にレベルやスキルは付き物なんですよ?」

「いや、だからさ、ちょっと考えてみてご覧よ。

 君の現世の記録を覗いてみたけどね、まず「生物が須くレベルという数値型パラメタを持っていて、生物を殺生する等の行為を行う事で値が加算され、値が増える毎に身体的

精神的な能力を示す他のパラメタも自動的に値が加算される」なんて、そんな奇抜を通り越して無茶苦茶な現世うつしよは無いよ?

 人括りに生物の能力って言うけど、動物と植物では相違が大きすぎるし、動物だけみても爪が伸びる速度とか鼻毛が生え変わる周期とか千や万でも足りないし。

 そんな概念がまかり通るのは遊戯ゲームの仮想世界だけだよ」

「じゃあ、スキルは?」

「「魂や精神に刻まれる何らかの能力の雛形で、常時その能力が発現してたり、その能力を使いたいと思ったり能力の名前を発声したりすると能力がつかえる」なんてのも無いよ?

 先天的に計算能力が高いとか長年練習したからルービックキューブで数秒で六面揃えられるとかそういう意味の能力はあるけど、前者は遺伝で、後者は努力と研鑽の成果だからね。何の理由も無しに他者が見て凄いと思える能力なんて身に付かないし、どこまでいっても肉体的能力でしかないし」

「あっと、えっと、じゃ、じゃあ、転生先の肉体を先天的な能力が発現するようにしてください」

「僕の権能は大まかに言えば、幽世かくりよの入出裁定なんだよね。だから現世うつしよの肉体には干渉出来ないんだ。まあ、仮に出来たとしてもやらないけどね」

「何でですか?」

「あのね、先天的な能力が発現するようにするには、遺伝情報を改竄するか脳細胞に異常を起こさないといけないんだよ? 簡単に言えば生まれつきの身体障がい者だよ? そんな事出来るわけないでしょう」

「じゃあ、やっぱり……」

「うん。レベルもスキルも先天的能力もないよ」

「無いのかあ。……でも、無いなら仕方ない。諦めて、転生先での才能次第だけど、剣か魔法で身をたてる事にします」


 憑き物の落ちたような顔で頷く斗喇久に、ヤーマがにこやかに笑った。


「そうか。分かってくれたかい。それは良かった。

 ……ところで剣で身を立てるって、道場でも開くの? あと、魔法も無いからね」

「え? 転生先って剣と魔法のファンタジー世界じゃ?」

「あー。現世うつしよの文明レベルはどれもほぼ横並びだよ。歩んできた歴史は違っても進歩の過程は余り変わらないからね。

 だから剣持って歩くような人はほとんど居ないよ。紛争地帯でも銃だろうね。

 同様に魔法も無いよ。君の居た現世うつしよでも迷信として廃れてるでしょ?」

「…レベルも…スキルも…剣も…魔法も…無い?」

「うん。無いね」


 苦笑混じりの断定に、とうとう斗喇久は叫んだ。


「こんな異世界転生はイヤだーーー!!!」


「じゃあ前世と同じ現世うつしよにするかい? 南アフリカ辺りでベビーラッシュが…………」


「そんな輪廻転生もイヤだーーー!!!」

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