5話 熱風(寝息)吹く夜
結局今日は丸一日魔力流しに使ってしまった。目標の3秒にあと1秒届かず4秒で魔力をへそから[羽衣鼓]まで流すことができたが...
「ア、アノー...カナタさん?」
襖の奥にいるカナタが気になって仕方がない。こそこそ見ていたことに気づいていないと思っているのか、さも(終わりましたか?)みたいな表情で入ってきた。完璧に見えてどこか抜けてるんだよなぁこの女神さんは。
「悪い、4秒が限界だった。」
素直に謝るが1番だろう。
「おおー、結構頑張りましたね。偉いです」
思いの外...怒ってらっしゃらない?
「突然大声を出してごめんなさい。怒る意図はなかったので安心してください」
「お、おう。なら良かった」
わからん。それ以上説明もしてくれないから余計に不安になる。
「もう20時ですね、ご飯にしましょうか。」
カナタは慣れた様子で手を叩いた。見慣れた豪華な飯が出てくるのはいいが、流石にお腹が空きすぎる。食べたら魔力はみるみる回復するものの腹は空っぽという摩訶不思議な飯はもう食べたくないので...
「あのー、実物のご飯ないですかね?」
ダメ元でお願いしてみた。
「あー、確か奥の宿舎にあった気がしますね。取ってきます。」
そういってカナタは奥へ入っていく。しばらくすると
「じゃーん!冷凍庫にお肉入ってましたよー」
「やった!鉄板とかある?」
こいつは想像以上のご馳走だ!
ジュウゥ...っと鉄板から肉の焼ける音が響くともう耳だけで美味い。ちなみに建物内でやろうとしたら油が跳ねるからNGだと外へ出されてしまった。これはこれでBBQ気分で有りだけど。
バクバク食べている内にふと気になったのだが...
「ここにいた神主とかが肉食べてたのか、これ。」
「えぇ。そりゃあもう隠れてバクバクバクバク食べていましたよ。」
「なんか聞いちゃいけないこと聞いた気がするな。」
「アラタは純粋ですねぇ。私なんて何千年と人間を見てきたので肉食禁止を守ってる人なんてそうそういないと確信してますよ。菜食主義者を除けばですが。」
嫌なことを聞いたな...よく探したら酒とかもでてくるんじゃないか、この神社。
そんなこんなで食べ終わったらもう21時。修行で疲れたからもう寝よう。
「んじゃ、おやすみ〜」
「あ、ちょっと待ってください。」
ん?
「寝るなら今から修行です!」
「いやいやいや、殺す気か!もうヘトヘトだっての!」
「あぁ、いやアラタは別に寝てるだけで構いませんよ。私が魔力を完全同調させますから。」
?
なんだ魔力の完全同調って
とりあえず言われたまま建物に戻って布団を敷いて寝る。やっぱりかなり疲れているからかすぐに意識は飛んでいった.....
なんだ?首筋が妙にこそばゆい。
「スースー」
!?
ガバッと布団から起き上がる。
「なっ、えっ!?カナタ!」
どうやら俺の首筋に当たっていたのはカナタの寝息だったらしい。俺の声でカナタはゆっくりと起き上がる。
「まだ2時じゃないですか...寝ますよぉ〜ふわぁ。」
あくびをしながらポンポンと布団を叩く。そこで寝ろと?
「な、なにしてんだよ!添い寝なんかして」
「ん〜魔力の同調って言ったじゃないですかぁ〜」
こ、これが魔力の同調...?
「詳しいことは明日言うので、寝ましょ。」
「お、おう。」
覚悟を決めて再び布団に入るもスースーと首筋をカナタの息がくすぐる。無意識なのか知らんが身体もかなり密着して暖かみが生々しくて...
寝れるか!!!
結局寝付けないまま朝を迎えたのだった。
「おはようございまーす!いい朝ですね!」
「どこがだよ...」
「うわっ!クマすご!寝れませんでした?」
当たり前だろうが!もうちょっと自分が可愛いこと自覚して欲しいわこの女神が!
と言ってはカッコ悪いので
「い、いや全然ぐっすりだったし?」
虚勢をはることにした。
「は、はぁ。ならいいですけど」
「そんでその、魔力の同調?ってのは上手くいったの?」
「確認しましょうか。刀を呼んでみてください」
「OK.[羽衣鼓]」
シュ!っと刀が出現。素早く柄を握る。
「おさらいです。魔力を流してください」
「ふっ!って...え?」
早い。あまりにも。昨日は結局4秒に縮めることしかできなかったはずだ。でも今は体感で1秒もかかっていない。
「ふっふっふっ、成功のようですね」
驚愕する俺をよそに一人で得意げになるカナタの肩をがっちり掴む。
「こっ、これなら昨日の修行意味なかったじゃねぇか!」
「そんなことないですよ。10秒かかってたアラタと完全に魔力を同調させても3秒になるくらいです。アラタがちゃんと努力をしたからこそ最大限の成果が得られたんです。自信と誇りを持ってください。」
なんと。そんなシステムだったのか...
「さぁ!今日は技の修行ですよ!」
「刀の使い方の練習か!」
きたぞファンタジーっぽい修行!
昨日はヘソに魔力を貯めて刀に流すという地味作業の繰り返しで正直言うと萎えていたからな。テンションも上がる。
「おバカですか。たった2日3日刀の振り方を練習しただけでプロに勝てるわけないでしょう。」
ガクッと身体が転げる。
「んじゃ何するってんだよ。」
「言ったでしょう。【技】です。一昨日使ったのは【瞬閃】っていう基礎の基礎でしたから。さ、奥の林に行きますよぉ〜。」
言われるがままカナタを追って林の奥へ向かう。思っていた数倍境内は広かった。150mほど進むとサッカーコート1つ分くらいのひらけた場所が見えてきた。
「ここにはさらに特殊な結界を張っておいてあるので、全力で撃っちゃってください。」
「【瞬閃】を撃っとけばいいのか?」
「はい。まずはおさらいから始めておきましょう。」
俺はもう慣れっこになった魔力を羽衣鼓に流す作業を瞬きする間に終えると、上空に向かって
「【瞬閃!!】」
思いっきり放出したのもつかの間、撃ち上がった薄浅葱色の斬撃が空中で爆散する。
「なんだぁ!?」
「言ったでしょう。結界です。これを壊せるようになるのが今回の目標です!」
これは昨日に引き続き...相当タフなものになりそうだ。
「【瞬閃】」「【瞬閃】」「【瞬閃】」「【瞬閃!!】」
もう2時間は空に向かって瞬閃を撃っている。明らかに手は震えてきたし、魔力が尽きるという感覚も覚えている。
カナタは...答えを教えてくれることなく俺を見たり、どこか遠くの方を見ている。
結局答えのわからないまま、俺は刀を振り続けた。
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