4話 アラタの才能
「おはようございまーす。朝ですよ。」
ちょっとテンションの高いカナタに叩き起こされる。なんだかんだ昨日あの話のあとすぐ寝たんだっけか。
「朝ごはんも用意しておきましたよ〜どうぞ!」
あっ、良い。コレはいいぞ。新婚さんみたいだ。
「ありがとう。わざわざサンキュな」
「まぁ手を叩いただけですが」
「・・・」
言わなきゃいいのに。雰囲気ぶっ潰れだよまったく。
でも、こんなに朝から明るく振舞ってくれて、きっと俺への励ましなんだろう。
実を言うと俺はまだ地球人の生き残りがいることを諦めていない。現実問題70億人をちゃんと殺しきるだなんて不可能だ。というのが俺の結論。...もとい願望だ。
「今日から修行だっけ?何するの?」
「まずは刀と魔力についての認識ですね。アラタの覚えが良ければ一つ一つ技の練習もしたいですが。まぁ今日は無理でしょうね。」
さらっと呼び捨てで呼び合う関係となってる。昨日は様付けだったのに。あんなことやこんなことを考えてから俺への対応がなんか変わった気がする。
「まぁ、こういうのは大体サクサクっと攻略して、一瞬で最強になるのがお決まりだからなぁ。期待しとけよ?」
何回でも見た作品群のお決まりパターンから無駄な自信が湧いていた。
「はぁ。まぁ、無理をせず...」
疑ぐり深くジト目で見てくる。冷めてるなぁ。
とりあえずご飯を流し込み、食べたのに腹はふくれぬ矛盾に駆られる。これだけを食ってたら気づいたら餓死しました〜とかならんだろうな。
1人で心配している俺をよそに、カナタはパンッと手を叩いて机と皿を消す。
「さぁ!修行を始めましょうか。」
「建物内で修行して大丈夫なのか?」
「最初は魔力の流し方や、刀の認識だけなので大丈夫です。で、さっそくなんですけど刀出してください。」
「え?」
「ほら、刀ですよ、刀。」
「い、出でよ〜刀!」
シーーン...え、なにこれ...
「こういうのはサクサクっといくはずでは?」
クスクスを隠すように口に手を添えてカナタは言う。
「い、いやこれは...その、ってか出し方くらい教えてくれよ!」
「は、はい。クスッ えっとですね、出し方は2つです。1つは私が出す。もう1つは刀の名前をアラタが呼ぶことです。その声には当然、魔力を込めて。」
「だったらカナタが呼んでくれればよくないか?ってかこっそり笑ったよな今。」
「私と離れた時に武器が無くなったら確実に死ぬでしょうし、オススメできません。」
まぁそうか。てか今スルーしたな。
「じゃああの刀の名前教えてくれよ。」
「はい。あの刀の銘は[羽衣鼓]。天女の羽衣をも叩く力を持つという意味から名付けられました。」
思ってた倍カッコいいな。もっと◯◯丸とかそっち系の名前を想像してた。
あとはその名前を声に魔力を込めて呼べばいいんだっけか。昨日の要領でいけば喉くらいに魔力を貯めて...
「[羽衣鼓!]」
シュバッ!と効果音を立てて刀が現れる。
昨日はよく観察する時間は無かったが、改めて見ると柄が薄浅葱色をして綺麗だ。
「おぉ〜思ったより早く出せましたね〜。次はその刀に昨日やったみたいに魔力を流してください。」
確かへそ辺りに魔力を込めて、どんどん腕の方へ流していくんだっけか。
昨日の感覚を思い出して魔力を流す。10秒くらいで刀が薄浅葱色の魔力の靄に包まれる。
「よしっ!どんなもんだい!」
「遅い!!」
えっ!?
「遅い!遅すぎです!私が敵なら4回はメッタ刺しにできてますよ!」
「えっ、いや」
「口ごたえしない!まずは3秒で完成させるまで私は外へ出ています。できたら呼んでください!」
そう言ってピシッと襖を閉めた。
何で突然怒られたのかさっぱりわからないが、怖いのでさっそく再開。
「ふんっ!」
まだまだ時間を縮めることができそうにはなかった。
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大声を出して本殿から出た後、わたしは心地よい風に30分ほどあたった。
別にアラタに対して怒っているとかそんなつもりはない。
ただ、この戦いがどうなるかわからない以上、必要以上に彼に教授することは避けたかった。もしわたしがここで死んだら、彼は1人でどうにかしていかなくてはならない。少しでも魔力的意味での自立を促しておきたいと考えた結果だった。
「敵に動きはなさそうですね。」
わたしの予測ではあの異界の者が回復するまでに3日はかかる。
猶予があるとなると気になりだすのは他の現女神のことだ。
「まぁ、あの子たちなら大丈夫ですか。」
気づかれないようそっと襖を数ミリ開ける。
「「オラッ!くそっ!まだ9秒かかってる」」
正直彼は魔力の扱いは長けているほうだと思う。
昨日の段階で戦闘を五分五分に持ち込めたのは紛れもなく彼の才能だった。普通の人間なら最初の火炎で死んでいただろう。
地球人が70億人死んだと伝えても、できるだけ冷静でいようとしていた。私が数千年見てきた人間はそんなに強い生き物ではなかったはずだが、この数日の非日常が彼の精神を人外の領域まで育てたのかもしれない。
「「くそ!また10秒に戻った!」」
彼の姿を見て私は
「男の子ですねぇ」
なぜか少しだけ、暖かい気持ちになったのです。
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およそ何百年ぶりかの月明かりしかない東京の夜もわずか1週間にて終わりを迎えた。
街灯に群がる虫のように、異界の者たちは東京では1番馴染みのある形状をしたらしい建物、国会議事堂を占拠していた。
「まったく粋な建築をするもんだ。こんなことなら皆殺しにせず、カルデロンの居住地も造らせれば良かったな。」
上官の言葉に、兵士たちは笑うことができない。
今回地球に来た兵士たちは見ていた。あの大虐殺を。中には激しく嘔吐し、精神を病み退役した者もいた。ゲートから出てきた人間の顔を確認する間も無く魔法を放ち、積み重なったかつて人間だった炭を退かし、また魔法を放つ。正気でいられる者のほうが少なかった。
「大佐、もう3度目になりますがその怪我、本当に建物に衝突してできたものなのですね?」
「また中尉か。何度でも答えよう。そうだ。とな。」
隊員たちの顔は暗い。誰一人として心から信じている者はいないだろう。とガルシアは悟るが、表情は変えずに座り続けた。
「俺はどうせあと3,4日は動けぬ身だ。その間特異点を探しておいてくれ。」
「了解致しました。」
隊員たちを見送った後、ガルシアはいつものように寝床についた。
「さぁ、どんな化け物になるか...楽しみだ」
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