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8.光の勇者のお話

声が届きそうな場所まで来た。後半分。


「お待たせ、セレネル。約束護りにきたよ」

「反逆者、ミィス・フォス!よく姿を現した。お前のせいでこの者は処刑される」


「それは違うよ、王様。わたしが迎えに来たからセレネルは死なないし、それにわたしは反逆者じゃない」

シュトリヤ(あの竜)だけは生かしてはおけない。お前はこの世界を滅ぼす竜を逃がした重罪人だ」


「いいえ、まだ何の罪も犯していない人を殺すなんて、できない。だってわたしは勇者だから。どんな人も護って、救うのが勇者だってわたしは思ってる」



王と話を続けながら歩みを進めるミィス。兵はひしめく群衆に阻まれ辿りつけない。



「世界が滅ぶのだぞ…!」

悔しさと、悲しさがはっきりと伝わってきた。ミィスには、王が本意でシュトリヤを殺そうとしていないということが理解できた。


それだけわかれば十分だった。

「もし滅ぼそうとしている者がいるならば、世界はわたしが護る!それが代々わたしたちに与えられた使命!」


あと20mで、処刑台。

すらり、と聖剣を抜くとそこに一条の光が空から降る。



「奇跡なら、かならず起こす!それが人間(アントロピー)の可能性だから」

一歩、歩みを進めるたびに、ミィスの髪が光を集めて輝いていく。



「光の、勇者…」

群衆のだれかの口から洩れる。



光を集める剣を掲げ、そして光そのもののように輝くミィス。

語られてきた伝説の勇者のような姿に、群衆は射止められる。


それはミヤビが強制的に集めた視線とは異なる、人々の期待のこもった眼差し。


たった今王に説明をうけた竜の再来によって世界が滅びるかもしれないという不安など消し飛ばすような、熱を帯びた。



「だ、だめだ。これは、行わなければならない…」

王はその姿を見ても尚、震える声で続ける。ミィスの光が、バルコニーまで届かない。



「しょ、処刑を続けろ、フェガリ!」



震える声で告げる王の声に、弾かれるように駆けだすミィス。

(もう少しお話したかったのに!!)


命令の声に、淡々と剣を抜くフェガリ。跪くセレネルが、自ら首を垂らしてその前へ差し出す。

抵抗は一切ない、後悔も、迷いも感じさせない姿に人々は心を打たれる。


こんなに潔い人など、いままで存在しただろうか、と。

それを見ても尚、少しも表情を崩さずに、ゆっくりと見せつけるように大きく剣を振りかぶるフェガリ。


「安心しろ、即死だ」

愚かとはいえ息子へのせめてもの慈悲だった。痛みなど与えない。

「…?」

微かに、うつむいたセレネルの口元が笑っているように見えた。


しかし気にしている時間はない。きらりと光るミィスが、視界の端に映っている。



剣を、振り下ろす。

間に合わない、と誰もが思った。



処刑台までは、まだ10m。


「<スパークル・レイル>!!!」

ミィスの声に反応し、前に出した左手から鋭く光が奔る。

寸分違わずフェガリの掲げた剣を穿ち、吹き飛ばす。


「チッ無駄なことを」

苛立った声で呟くと、もう一本の剣を抜く。フェガリもまた、双剣使い。


しかし、衝撃でしびれた手がほんの少しだけ時間を作る。その僅かな時間で、ミィスは処刑台へ跳躍し、フェガリとセレネルの間に滑り込んだ。


息を止めて見つめていた観客からわっと歓声があがる。


「お待たせ、セレネル!」

「ああ、わかっていた。」

顔を上げるセレネルは、一度もミィスの言葉を疑っていなかった。


それゆえの、笑顔。


「…その顔は、つまり」

「ああ、ミィスが約束を破ったことはない。こいつは「また会おう」と言った。だから、ミィスは必ず会いにくる。俺は死なない、わかっていた」


立ち上がり、親であるフェガリに挑発的に笑いかける。

「お前には、わからないか?」

尊敬はしているが、命令を遵守することを最優先にする父親とはわかりあえはしない。


「…恥さらしが、ここで死んでおけ」

「させない!」

ミィスが応戦する。

しかし。


「うっ…やっぱり、つよ、い!」

素早い斬撃に防戦一方。

剣技だけなら王都一の腕をもつ故の団長の称号は嘘ではない。

身動きのとれないセレネルを護りながら、狭い処刑台で最強の剣士と戦うのにそう時間が持つはずもなく。


そもそも幼いころから稽古をつけてもらってきているが一度だって勝てたことはない。

「っ…!」


受け損ね、剣を握る右手に抉るような一撃。

ぽたぽたと垂れはじめた血に気が付くと歯を食いしばり、それでも剣を交える。


処刑台のまわりには漸く集まってきた兵の姿もあった。



「お前はよくやった、ミィス。だが、おとなしく姫と愚息をさしだせばお前だけは助けてやる。お前の血筋を絶やすわけにはいかん。それを選べ」

「できるわけ、ないよ!フェガリさんの、ばか!」


魔法を撃つ隙も与えられない、剣を防ぐのが精一杯。

身体能力も人間より優れる獣人(セリアントロピー)、その上王都一の強さを謳われる。


更にセレネルと同じく所有する種族スキル【危機察知(ラピヌ)】は、ミィスの剣の筋を見逃さない。



しかし、その危険を察知するセンサーでもある頭頂の耳が、ぴくり、と震える。

とっさに後ろへ飛び、処刑台から降りる。

瞬間、広場に響いたのは銃声。


更に、4つ続けて。


「さすが化け物みたいな精度だな。」

セレネルはちらりと発砲元を見上げる。姿は見えないが、こんな狂いのない腕をもつ人なんて他に知らない。


跳弾も貫通もなく、枷のみが破壊されていた。

「行くぞ、ミィス」


「はあぁ…、よかった。間に合った」

自由になった腕で、ミィスの腕を掴み処刑台から飛び降りるセレネル。


空中で体制の整わないミィスを横抱きにし、軽やかに着地。

群衆からは黄色い歓声が沸く。


それに思わずげっそりとした視線を投げるミィス。

「これだからかっこつけ(セレネル)は。ありがとう、逃げよう」

「ああ、シュトリヤ(あいつ)は大丈夫なのか」


「アナトーレと一緒」

「ならば問題ないな。」


ぴく、と耳を立たせ、息を吸うセレネル。


「――砕けぬ鉄の帳 降りて護りとなれ」

「<シデーロス・アヴレア>」

早口で呪文を唱え、振り向きざまに魔法を放つ。


ちか、と光るのは左手首の時計の長針を飾る赤の魔宝玉。

現れた透明の壁が2人を兵たちと分断する。護りの魔法だ。



「くっ!逃げる気か、恥知らずめ!」

阻まれ叫ぶのは、体制を整えて追うフェガリ。


「こいつが、俺を必要とする限り。それは恥ではない。俺の誇りだ」

ミィスを下し、肩を貸す。



「何が起きてもわたしが、絶対この世界を護る。約束、する」

大きな声で、王にも、そして群衆にも聞こえるように宣言する。


「だから、邪魔、しないで!!!」


叫び、進路を見据える。

誰からともなく、その道は再び開かれる。


勇者の旅立ちの門出を祝うように、割れんばかりの歓声が広場を彩り、しばらく鳴りやむことはなかった。










2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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