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7.夜明けのお話

空が白んできた頃、全員の準備は整った。

「結局待ち伏せも襲撃も無かったわね」


「王様、黙っててくれたのかなあ」

「余計わからへんなあ。でも先にセレネルやね。ほな、手筈通り。」


北の方角は城へ続く道。

南の方角は新市街地へ続く道。

それぞれ走り出した。





「シュトリヤ姫、そろそろ」

城が視界に入るとともに、兵の姿も見え始めた。

「わかったわ。」


「――かさね かさね」

「――廻れ ギュゲースの指環」


「<インビジブル・リング>」


「――二重に 累て 覆せ」

「<プログレ・エフェクト>」


呪文を唱え終わると、2人の姿は完全に見えなくなった。

「これでいいわね」

「ええ。急ぎましょう」


互いに姿が見えないので、手を繋いで駆ける。




――新市街地


「――真影を映せ」

「<八咫鏡(ヤタノカガミ)>」


ミヤビの呪文に合わせて長い髪を束ねる髪飾りに付いた紫の魔宝玉が輝き、一瞬ミィスの姿が2つにぶれる。

次の瞬間には、エリューと背格好が同じ少女になっていた。

姿を変えることができる魔法だ。


ミヤビは人間(アントロピー)ではあるが、上級魔法が使える優秀な腕を持つ。


「これで分からへんかな。やけど、(はぐ)れんように」

「ありがとう、ミヤビ」


ミィスのお礼の言葉に、肩越しに微笑みを返すと背筋を伸ばしカツ、とヒールを響かせた。

ファッションモデルのランウェイのように、通りを闊歩する。


美しい桜色の長髪を風に靡かせ、ロングカーディガンはマントのように存在を示す。

もともと高い身長を更に高くする15㎝ヒールのパンプスは細い脚をより魅力的に引き立てる。

時折淡い朱色の瞳が撫でるように視線を移し、人々の視線を惹きつける。


そして振り撒くのは最大の罠、スキル【魅了(ドルチェ)】。


少し後ろでこっそりとついてゆくミィスは群衆の目がすべてミヤビに釘付けになる様を見ていた。

「本当すごいなあ」

全く影響を受けないミィスから見ても美しくは映るミヤビの姿。


そして計画通り小さな騒ぎのようになる。

少しでも城の警備を軽くするための罠だ。


「ん。ミヤビはきれい。素敵」

少しうっとりつぶやくエリュー。【魅了】が効いてしまったかと、慌てる。


「大丈夫?もう少し離れる?」

「あ、大丈夫、違うの。ボクは…ううん、なんでもない」

魅了のせいではないと否定するが、頬は薄っすら赤い。


大丈夫だと判断できているのでそれ以上は追及せず、一定の距離を保ちながらミヤビの後ろを歩く。

視界の端には騒ぎを聞きつけた騎士が尽く頬を染めて立ち尽くしている姿が見えた。








――同時刻・城内


そのころ、城では慌ただしく歴史上はじめての処刑の準備が進んでいた。セレネルは城内の一角にある自室で軟禁されている。大量の兵が部屋の中も外も見張り、セレネルの動きを制限していた。


「セレネル様…!どうか逃げてください、本当に処刑されてしまいます」

見張りにはセレネルの部下も含まれており、何人もが懇願し、泣いて嘆く。


「それ以上言うな。お前たちは自分の身を大切にしろ。俺は逃げない。」

静かに窓辺に佇むセレネルに、息をのむ部下たち。

「俺は誇りを持って処刑に応じよう。何も違えていない。何も恥じてはいない。俺は俺の大切なものを護っただけだ」


まっすぐと告げる姿に、誰もが言葉を失い、感嘆の溜息をついた。

そして。


「罪人、セレネル・ニフタ。こちらへ」

扉が開き迎えに来た兵が、セレネルの両手と両足に枷を付ける。


行動と、魔法を封じる枷だった。最早抵抗は不可能。


悔しそうに目を逸らす部下たちの姿を見て小さくため息を漏らす。

(…監視対象から目を逸らすような育て方をした覚えはないのだが。)


「ひとつ、頼みがある」

「聞こう。」


「俺の誇り…剣を、携えさせてはもらえないだろうか」

双剣の片方は王宮騎士隊長に任命されたときに王に賜ったもの、そしてもう片方は卒業祝いに、とミィスに贈られた大切な物だった。


「許可しよう。」


言葉と同時に部下の一人が双剣をセレネルの定位置へ装備させる。

「感謝する」

一度頭を下げ、その後はしっかりと前を見据えて歩く。

罪人の影などない、誰もが憧れる騎士そのものだった。




普段から城の一部を広場として開放しており、この度その広場が処刑の場として選ばれた。

一般国民と王宮の距離が近いのも、いかに平和であるかを象徴している。


広場の中央には臨時の台が設けられ、そこへ促されるまま足を運ぶ。

王宮騎士第一隊長に任命された日のように。証である外套を翻し、凛と歩く。


その姿に、処刑を直接見ようと押し寄せた民衆の誰もが言葉を失う。月の騎士という二つ名に相応しく、美しく気高い。



処刑台で待つのは一人の獣人。王宮騎士団長、フェガリ・ニフタ。

セレネルの上官であり、父親。視線は交わすが言葉はなく、2人は静かに時を待つ。



やがてゴ――――――ン、と広場にある大きな鐘が鳴り響いた。

正午、処刑の時間を知らせる音だった。



ざわめいていた人々は、張り詰めた空気に口を閉ざし、様々な感情で広場の中央を見つめる。

群衆の正面にあるバルコニーから王と王妃が姿を現した。


「急なことで皆を集めてすまない。そして、ありがとう。よくぞ集まってくれた。今日はこの王都の歴史上初めての処刑を行う。よって、この光景は周知のとおり、王都中に届けられる」


と、王は語り始める。もともと話が長い方ではなかった。それが、今日はゆっくりと、時間をかけて話しているようで。

処刑の実行を少しでも遅らせているようにも見えて。


そして何より王の表情は暗く、悔しさを隠しもしなかった。




その姿がよく見える、処刑台から真っ直ぐ約100m。

「やっぱり何かあるんやね。それとたぶん君を待ってるんとちがう?来るって信じてはるみたいやなあ。どっちの意味かはわからんけど」


反逆者としてか、それとも救世主としてか。


「そう、じゃあ期待には応えられるかわからないけど行かなくちゃ。セレネルが待ってる。」

「じゃあ、解くで。」


「――昏き世界の終り」


解除の呪文を呟くと、幼女の姿からミィスの姿に戻る。

周囲の人々が驚き、後退し、少しだけ場所が開ける。


「行って()い。退路は任せて、な」

「うん!行ってきます!」

背中を押され、大きく息を吸う。



「道を!開けて!!!」



良く通る声に、弾かれた様に道を開ける群衆。

人々の目は、と気にしかけ、やめた。

他の人は関係ないのだから。


綺麗に二つに割れてできた道を、胸を張って。

しかしなるべく速足で歩む。

焦りは見えないように、堂々と、堂々と。











2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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