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6.セレネルの処刑のお話

にやにやと一部始終を眺めていた顔をようやく真顔に戻したミヤビの口から語られる衝撃。


「え、どういうこと?処刑!?」


王都1000年の歴史上、処刑された人物は一人もいない。

一応法は存在するが、適用されるような出来事が起きたことがなかった。


どんな犯罪者もせいぜい投獄や労働。


「早すぎる、お父様…まさか、わたくしをそこまで…?」

「せやろなあ。セレネルを処刑するとなればミィスは間違いなく来るやろし、そうなれば姫はんも来るやろっていう心づもりやろねえ」


「けれどあの慈悲深い王の判断とは思えません。シュトリヤ姫を殺すという判断も。」

「うん。王様のことはわたしもよく知ってる。こんな判断、わたしも変だと思う」


「まずはセレネルやな。処刑は明日やて。」

「あ、明日!?つかまったのは今日なのに…?」


呆然とするシュトリヤ。


「わかった、みんな。」

ミィスは顔をあげて一人一人の顔を見つめる。

みんながいるなら、もう怖くない。

そして、することはただ一つ。


約束を果たすだけだ。

「また会うって約束したから、行かなくちゃ。でもそれにはみんなの助けが必要。手伝ってくれる?」


手を伸ばすミィス。

エリューが真っ先に小さな手でミィスの手をつかむ。


続けてアナトーレが長い指を絡める。

ミヤビが細い指をそっと乗せ。


最後に白く滑らかな手で全員の手をそっと包むシュトリヤ。



「ありがとう、みんな!」

その手を更に包むミィス。

次の目的が、決まった。






「あ、その前にシュトリヤ、こっちの部屋をあげるね」

「ありがとうミィス」


ミィスをずっと探していた他の仲間はリビングで休ませ、シュトリヤを自室の隣の部屋へ通す。

部屋のクロゼットを開き、一度ミィスのクロゼットにしまっていた買った服を一緒に片づける。


全て収納し、シュトリヤは端末(ブローチ)を取り出す。

いくつか操作し、シュトリヤの端末とこの部屋のクローゼットのリンクが完了した。


「助かったわ。これで、わたくしも普通の女の子になれた、のかしら」

少し寂しそうに微笑むシュトリヤを反射で抱きしめるミィス。


「シュトリヤ、わたしがいるから。シュトリヤに寂しい思い、絶対させない。ずっと、一緒にいるから」

手が冷え、小さく震える。

自分の父親に見捨てられる気持ちなんて、わからない。だけど、寂しい思いなんて絶対させたくなかった。


「ありがとう、ミィス。ありがとう」

背に手を回し、抱きしめ返す。


「ん…っっ!シュトリヤ、待っ」

「えーい」

胸に顔をうずめる形になってしまい、あわてて離れようとするミィスを離すまいと、背に回していた手を頭に移して力を強める。


「んぐ!?」


「ミィスー!おわったー?」

ひょこ、と扉から顔を出すのはエリュー。


「あ、なんか楽しそうなことしてるー!」

その場で踏み込み、二人に飛びつくエリュー。


「んぐう!?」


更に胸に顔を押し付けることになり、呻くミィス。

「エリューさんはミィスのこと、好き?」


「うん!だいすき!ミィスはね、ボクのこと可愛いって言ってくれたの。」

「可愛い?」


「うん、ボクね、鬼人(デモニアトロピー)だけど、こういう服が好きでね」

抱き着いた姿勢のまま、器用にスカートの裾を持ち上げる。

「そうね、他の鬼人の方ってもっと肌を出すのを好むわね」


「だから家族(ファミリア)から…他のみんなから、ずっと笑われてたの」

鬼人は家族と呼ばれる集団をつくり生活する。血のつながりは一切関係ない、強さですべてが決まる集団だ。

「それが、嫌で。ボク一生懸命がんばったんだ。一人前なら外に出られるから」


「鬼人は確か、一番強い長以外の家族全員に勝つと一人前とみなされて外に出る選択もできるんだったかしら…え、じゃあ」

その言葉には曖昧に微笑み、ぴょん、と地面へ降りる。


「ぷはあ!死ぬかと…!」


「だから、ボクはミィスが好きなんだ」

「エリューはその服似合ってるし、かわいいんだから。気にしないで」

家族を思い出したのか、少し笑顔を曇らせるエリューの頭をなでる。その手に気持ちよさそうに目を細める姿をみてほっとする。


「エリューが来たってことはもうミヤビは大丈夫なのかな?」

「うん。魔宝玉(スフェラ)回復したよ!」

ゆっくり精神と体力を休めれば、その分早く魔宝玉は回復する。


「じゃあ降りようか。」

階下にはお茶を飲むアナトーレとミヤビ。

「終わりましたね。作戦ですが」

「あれ、もう考えてたの?」


「拙とアナトーレがおれば作戦立てられるやろ、脳筋(ミィス)と違うんやから」

からかうように笑うミヤビに毛を逆立てるミィス。


「脳筋とかいてミィスと読むのやめてってば!」

白金の髪を膨らませて怒る姿は子猫のようだ。


「…このミィスは初めてみるわ」

「あっいやそのミヤビって友達いないから!こういうからからかい方してくるの!」

「友達がおらんていうんは余計やわあ」

「ほんとだもん」

「ほんまやけど」

「やめてください。」

あきれた声でやりとりを静止するのはアナトーレ。


「まずシュトリヤ姫の銃の確保組、それからセレネルの救出組に分かれます」

「ごめんなさい。わたくしが役立たずだから…」


「これは必要なことです。恐らくセレネルの枷は、姫にしか壊せません。一番強固な魔法封じのものでしょう。ミィスの聖剣や私の槍ではセレネルごと傷つけてしまいます。銃の確保には私とシュトリヤ姫、残りは救出兼時間稼ぎに。」

「ボクとミヤビがミィスの面倒みるからね!安心してよ!」


「うん、心強い。じゃあ早速しゅっぱーつ。」

ミィスの家は2区、特区までは人目を避ければ3日はかかる。


「問題はどうやって明日までに特区に行くかです。」

「王宮騎士に転移魔法が使える奴がいて、目の前で王都に帰っていったんだよ!」


「それなら問題ないよ、ここからなら一時間で特区に入れる。抜け道があるの」

「なるほど。こんなところから学園に毎日通っていたのだから、何かあるとは思いましたが」


2区と特区は隣接しているものの、間には聳え立つ連峰がある。

普通のルートでは所定の場所にあるトンネルまで迂回が必要。


「あの山を貫通してる洞窟があるの。すぐ向かおう。森を抜けるから、暗くなる前に行かないと」

もちろん秘密の抜け道だが、勇者の家が城と繋がっていないわけがなかった。



「でも、この道は、王様も知っている。だから…」

「待ち伏せの危険性はあるわね」

「でも、ここを通るしかないと思う。」

話しながら到着したのは森の奥。


鬱蒼と茂る木々に隠され、入り口はわかりづらくなっている。その扉に魔具(イディ)の鍵をかざすと洞窟が現れた。


「暗いわね。」

中に入るのをためらうほど闇が深い。


灯りもなく、外からの光も届かないため、中の様子はわからない。



「大丈夫。わたしの魔法が役に立つのはこんなときくらいだよ」

スクール時代もこの魔法がないうちはここを通り抜けるのが怖かった。

「<スパークル・レイル>」


詠唱のいらないこの魔法は、魔法名のみを口にすると、左手首のブレスレットの飾り、青の魔宝玉(スフェラ)がきらりと輝く。

母親の形見のブレスレットは、ランクは8と低めだがミィスにとっては十分なものだ。


小さな灯りが洞窟を柔らかく照らす。


最大威力なら光の線が先ほどの森トカゲ程度なら貫くほど攻撃性の高い魔法だが、威力を絞り進路を与えなければ灯りになる。

というか専ら灯りで使っている。



「さあ、行こう。」

一歩、洞窟へ踏み出した。

「エリュー、後ろを見張ってください。私が先頭を。ミィスは灯りを絶やさないでください」

てきぱきと指示をし、自ら先頭に立つアナトーレ。



「第一門ってアナトーレが就任してからまだ一度も突破されていないんだよ」

そのほかの門は開閉の際に魔物が入り込むことがある、となぜか誇らしげに胸を張るミィス。

「そうなの、それで指示が的確なのね」


「セレネルには及びません。」

少し悔しさを滲ませて、だけど心からの言葉。


「そんなことないよ、アナトーレだって本当だったら門兵じゃなくって王宮騎士になれるのに。」

「…いいんです、ミィス。なりたいわけではありませんから」

この言葉が強がりであることをミィスはよく理解していた。

普段から怠らない鍛錬は、門兵のままでいいという気持ちではないのは明確だったから。


「まだ若いのに難しい召喚魔法が使えるんだよ?もったいないと思うんだけどなあ」

「あまりほめないでください、慣れません」

少しだけ耳朶を赤く染め、足を速める。

「急ぎましょう。」


「わたくしのことは気にせずペースをあげてくださる?」

「わかりました。では。」





――王都特区・旧市街地


一本道を走り続け、日が落ちた頃。

無事王都特区、旧市街地に抜ける。

歴史的建造物が並ぶここは城の管轄のため、一般市民は住むことができない。


「ここに抜けるのね。」

「昔からある道だからね。少しここで休んでいこう。この家もわたしの家」


洞窟の出口は一軒の家につながっていた。


「ほな、朝まで休憩にしよか。処刑は正午やし。みんなはしっかり寝とき。明日のために」

「わかった、そうする。みんなもベッドとかソファとか好きに使って。何もなくてごめんね」

ミィスは真っ先に頷き、すぐにソファに横になる。


次の瞬間には寝息が聞こえていた。

「もう寝てる。ミィスは寝るのが上手ね。昔からだわ」

「体を休める術を知っているようですね。誰に教わったのかわかりませんが」


シュトリヤは自然な流れで当然のようにミィスの頭に膝を貸し、慈しむように頬をなでる。

「セレネルだわ。あの男は好かないところもあるけど…でも絶対助けないと」


幼馴染なんだから。と小さくつぶやきシュトリヤも目を閉じる。

それを見届け、アナトーレ、エリューも別のソファで寄り添うように眠る。

ミヤビは一度外を見回り、誰もいないことを確認し、玄関の横に座り込んで目を閉じた。








2020.01.17_読みやすいように少し修正。ストーリーへの変更はありません

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