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迷宮の眠り姫は竜騎士の呪いを解く  作者: 鳴田るな
四章:竜姫 騎士と過ごす
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竜姫 騎士と再会する 前編

《さて、この辺で一段落つけていい? いいよね、ボクもう大分眠たくて》


 くああ、と大きく口を開いた竜はシュナの横でどさっと横たわるとそのまま丸くなった。


《シュナも寝たら。ボクら別に人間と違って起きっぱなしでも死にゃしないけど、アップデートとデータ整理するにはどこかで眠らないとね》


 また独自用語……と思っているシュナの前で早くも緑の竜は寝息を立て始めた。寝入りがいいなんてものではない。照明を消すような落ち方だった。


《提案。子守歌》


 エゼレクスとは反対側の方からシュナによってきたピンクの竜がふん、と鼻を慣らして言う。そういえばシュナは以前この竜に歌を歌ってもらったり眠りの番人をしてもらったりということがあった。彼女自身は今そこまで眠りたいという意識は強くないのだが、竜達が休めというのならきっと休み時なのだろう。寝ているエゼレクスを放っておいて迷宮を自分で探索することもできるのだろうが、なんかこう、色々と後が怖い。


 ばさり、と羽音がして見上げると、大きな黒い竜が崖から飛び立とうとしている所だった。思わずシュナは目を丸くして立ち上がる。


《アグアリクス、どこかに行ってしまうの?》

《何、我は秩序の頂点ゆえ、シュリの担当も受け持っていてな。ずっとここにいる訳にもいかぬのだよ》


 今にも飛び立ちそうだった彼だが、呼び止められると見下ろして優しく言う。なんとなくシュナは納得した部分もあった。黒い竜がファリオンを連想させる見た目や雰囲気をしているのは、その方が母が落ち着くから、なのだろう。


《そう不安そうな顔をするでない。すぐに他竜が交代で面倒を見に来る、あなたも慣れる》

《アグアリクスはもうわたくしの所には来てくれないの?》


 黒い竜は銀色の目を見開いてから、喉奥で音を立てた。


《もちろん我も時折は様子を見に来るとも。まだ伝えていないことも山ほどある》

《わたくし、いい子で待っているわ》

《案ずるでない、竜は人間と異なり嘘はつかぬ。果たすと言ったら必ずそうするよ。なるべく早くとは言えぬがな。あなたの側にはエゼレクスもネドヴィクスもいる。そう寂しがることはない》


 アグアリクスは言うべき事は言ったとばかりにふわりと飛び立つ。彼は巨体だからそれなりに質量も力もあるはずだが、飛んでいるときは妙に軽やかだ。シュナが首を上げてずっと軌道を追っていると、旋回して一度戻ってくる。


《我の留守中、ネドヴィクスはともかく、エゼレクスの言葉は本気にしすぎないように》

《うるせー》


 緑の竜が唸ってシュナはびくっとしたが、どうも寝言だったらしい。もぞもぞ動いた後、寝返りを打っている。苦笑した彼女が了承の意を唱えると、大きく頷き、黒の竜は迷宮の中に、深い奥底に向かって飛び去っていく。


 後ろ姿の消えていった方をじっと見ているシュナの横で、聞き覚えのある音が鳴り出した。ネドヴィクスが喉を震わせ、シュナの瞼も意識もあっという間に落ちていく。

 丸くなると、前とは違って身体の上に軽い重みを感じた。どうもネドヴィクスがよりかかったかのしかかったかしたらしい。重みで一度だけ目を開いたが、不快に感じることはない。むしろ安心した。


(本当に小さい頃は、泊まっていく日、お父様が一緒に寝て下さることがあった。物語を聞かせてくれて、眠たくなってくると今日はここまで、って……)


 シュナが物心ついてから少しすると、彼は泊まっていく日もシュナとは別に寝るようになり、彼女をベッドに入れて自分は部屋の隅で丸くなっていた。驚いたし、あれで本当に眠れているのだろうかと訝しんだこともあったが、迷宮暮らしで冒険をしていたこともあった人だ、慣れていたのだろう。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りの中に落ちていた。




 今度は夢を見なかった。いや、見ていたのかもしれないが、起きたときには忘れてしまっていた。


 パチリとシュナが目を開けると、横で首をピンと上げたネドヴィクスがどこかを見たまま停止している。前にも似たような光景を見たきがするが、違うのは位置関係だ。少し離れた所から入ってこなかったはずの彼は、今はシュナの真横にぴったり身体を寄せている。寝ぼけ眼のまま見回して何か足りないなと思ったら、緑色が見当たらない。


《おはよう、ネドヴィクス。エゼレクスは?》

《起床。承認。エゼレクス。外出中》


 鬱陶しいぐらいにガンガン近づいてきたと思ったらあっさりいなくなる辺りがなんとも彼らしいというか、自由人気質だ。シュナはまた寝起きの頭を起こすべく水場に近づいていき、ざぶんと音を立てて飛び込む。今度は後を追いかけてきたネドヴィクスも水の中に入ってきた。が、シュナをじっと見ながら動きを真似ている感じがあり、なんとも挙動不審だ。笑いながらシュナが水を出ると、彼もすぐに続く。


《み……身繕いはいいわ、自然に乾くもの!》


 音もなく寄ってきたピンクの竜が口を開いたのを見たシュナは、瞬時に彼が何をしようとしているのか悟って思わず拒否の声を上げてしまう。ネドヴィクスは固まった。好意はありがたいし断ることには罪悪感がなきにしもなのだが、正直彼のお手入れは整えるのではなく荒らす方の面が多く、あえて受けたいとは思えない。


《……了承》


 心なしか反応が読みにくい竜のわりにがっかりしている気がする。が、あっさり身を引く辺りはやはりシュナの言うことを優先しているらしい。ふっと息を吐いて安堵したシュナだが、さてここからどうしよう、と少し困った。見た感じ、周囲はシュナとネドヴィクスしかいない。アグアリクスは帰ってしまったし、こういうときうるさく先導したがりのエゼレクスもいないとなると、受け身姿勢の強いネド相手では自然とシュナが行動の主体者になる。


《……何か予定や、やるべきことはあるかしら?》

《自由時間》

《あなたはしたいことや行きたいことはないの?》

《シュナ。側。滞在。自分。任務》

《そう……アグアリクスやエゼレクスがわたくしに用事があるときは、あちらから来てくれるのかしら?》

《肯定。呼び声。検知》


 ふむふむ、と聞きながら、では迷宮を探検してみようか、いや外の世界にも戻らないといけないけどどうしようか、なんてことを考えていたシュナはピンと両耳を立てた。ちょうどまさに、ネドヴィクスが言葉にした呼び声とやらが聞こえてきたのだ。ピイイ、ピイイと空を裂くような高い音。最後に耳にしたのは随分前のことにも思えるが、懐かしくしっくりと馴染む。全身がぶわっと反応して、喜びに震えるのを感じる。はっきりとわかる。他の誰でもない、自分が指名されて呼ばれているのだということを。


《デュランだわ!》


 いそいそうきうき翼を広げた彼女が以前よりも大分スムーズに飛び立つ。ピンクの竜は素早い彼女の動きに若干出遅れたようだが、すぐ同じように地を蹴った。



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