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迷宮の眠り姫は竜騎士の呪いを解く  作者: 鳴田るな
三章:姫 自分を知る
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姫 人混み怖い

 慣れない揺れから安定した大地に戻ってきて人心地ついたはずのシュナだったが、すぐにまた穏やかでない気分に苛まれることになった。


(人、人、人……何人いるの!?)


 見回す全方面に人がいる。

 城内の、例えば騎士達の集っていた訓練場なども似たような所はあったが、あれよりさらに数が多く密度が大きく、おまけに見かけが多種多様だ。


 今まで本の中でだけ見たことのある世界が目の前に広がっている。

 ――情報量が多すぎる!


 早速デュランを盾にするように、半泣きでブルブル震えている彼女を、引率者達は優しくなだめようとする。


「トゥラ、大丈夫だよ? 人が多くてびっくりしちゃったかな」

「別に、取って食おうって人達じゃないし、あたしたちがいるから……」

「いや中にはそういう輩もいるかもしれないから、全員信用しては駄目だけど」

「ちょっと。不安になっている子をこれ以上脅かさないで」

「でも、安心して。俺と手を繋いでいれば大丈夫だから」

「デュラン、あんた本当いい加減にしなさいよね――」


 シュナがぎゅっとデュランとリーデレット、両方の服の裾を確保すると、ピタッと騎士二人の言い合いが止まる。プルプル小刻みに震えたまま、二人の陰に隠れようとしている娘を見て、彼らは顔を見合わせ、それからほぼ同時に心配の表情を向ける。


「やっぱり広い場所に連れてくるのは、早すぎたんじゃないかな……」

「うーん……訓練場辺りで慣らした方がよかったとか? でも、それはそれで皆がうるさかったはずよ。皆この子に興味津々だし、だから今日こっちに連れてきたってのもあるじゃない。違う?」

「……船酔いもしてたし。トゥラ、どうする? 辛いなら、どこかで休む? 帰りの馬車を手配しても――」


 デュランが優しく持ちかけると、途端に彼女はぶんぶん勢いよく首を横に振った。


 二人の騎士を離そうともしないし、足にはいかにも全力で踏ん張っているように力がこもっているのだが、では帰るかと言われるとそれはそれで拒絶の姿勢を示す。


「……じゃ、こうしてみましょう」


 しばらく三人の上に沈黙が落ちた後、何か思いついたらしいリーデレットが声を上げた。彼女はシュナの手を取ってデュランに握らせ、もう片方の手は自分が握る。

 シュナを間に、騎士二人が左右から挟むように手を繋いでいる状態だ。間にいるのが幼子なら微笑ましい親子の図ができあがったのだろうが、シュナは中身の知識はともかく見た目は十八歳の娘、成人と認められる年齢である。

 シュナの右側担当を割り当てられたデュランが渋い顔になった。


「リーデレット、これはさすがにどうかと……」

「いいじゃない。見た目はともかく、皆安心できるでしょ? 慣れてきたら交代制にすればいいんだから」

「俺一人で十分なんじゃないかな? リーデレットはほら、ちょっと遠くから、自由にしてもらいつつ様子見してもらうだけでもいいんじゃないかなって」

「あたしも譲らないわよ? どう考えても一人余り物扱いにされる未来が見えているし。大体、思い出してほしいけど、そもそも今日の企画提案者はあたしなんだからね? あんたこそ、無理言ってついてこなくてもよかったのよ? 何当たり前の顔してしれっとデートを始めようとしてるわけ?」

「別にデートってわけじゃ……!」


 色々とパニックを起こしかけていたシュナだが、こうなってしまえばいつも通りだ。

 二人の手をぐいぐいと両方とも引くと、注意は彼女に移る。


(もう大丈夫!)


 怖くなったら二人に集中すればいいのだとコツを覚え、多少余裕が出てきた彼女がふん! と鼻を鳴らすと、リーデレットが空いている手を町の方に向けた。


「それじゃあ、いざ! 張り切っていきましょう!」


 リーデレットが歩き出すと、当然シュナはとことこついていく。

 デュランはいかにも「しょうがないなあ」と言いたげな気配を隠しもせず、けれど歩調は女二人に合わせた。



 男女三人並んでの町観光は比較的、というかかなりすぐに終了した。

 きょろきょろ周りを見回す余裕が出てきたシュナが、「これはじろじろ見られるに値するような行為なのだ」と察するのが早かったのが理由の一つ。

 もう一つは、デュランが色んな方向から声をかけられたことだ。


「おっ、若様! 今日は非番ですか!」

「わー、デュランだー! ねえねえ、またお話聞かせて!」

「あらぁ、閣下。どちらに行かれるんです?」


 こんな有様で、四方八方老若男女、あらゆる人が彼に顔を向ける。

 すると必然的に一緒にいるシュナも注目の的になる。


 慣れない人混みの緊張と、人見知りが両方あるシュナはデュランから離れたがった。彼は結構衝撃を受けたような、悲しそうな顔をしていたが、すぐもみくちゃにされてそちらへの対応に忙しくなったようだ。


「ほら見なさい」とでも言いたげなリーデレットの方は、視線は飛んでくるし挨拶はかけられるものの、そこまでグイグイ深入りしにやってこようとする者はいない。


 デュランはもっと大変そうだ。物は投げられるし子どもにはタックルされる。皆表情や態度から好意での行いであることは明らかなのだが、近くのシュナまでよろめきそうになって、リーデレットがさっと自分の方に確保して庇っていた。


 この二人に対する町の人達の差は、二人の性格や、人との関わり方の違いのせいなのだろうか?


 今までのやりとりを見ているに、リーデレットが特別会話下手、人嫌いというようにも思えず、むしろ彼女は気さくな方だと思う。となると、デュランが領主子息という立場上特別有名人なのか、それともリーデレットが前に自分は少し特別な一族なのだと言っていた事が関係しているのか……。


 迷宮同様、人間のことも知れば知るほどまた新しい知らないことがでてくるものだ、とシュナはしみじみ感じ入る。


 最終的に、デュラン一人(人目を惹きつけるの担当)からちょっと離れた場所で、シュナの手をしっかりと握ったリーデレットがついでに色々指差しながら説明する、という位置関係で三者は落ち着いた。


「ここが大広間。地図で見た? ちょうど町の中心にあるのよ。人がすごいでしょ! あそこに広がっているのがアリーナ。スポーツやイベント、舞台が開かれて皆で見るのよ。それから南北に伸びている大きな通りが見える? 北に行くと、迷宮や領主館に行けるわ。南にずっと行くと、海と港があって……」


 迷宮! と言葉に反応するシュナだが、残念ながらこの場所からは迷宮の姿は影も形も見られなかった。

 代わりにお城の方は、少し人がいなくなるか、高い所に移動すると結構よくわかる。


 半ば山の中に埋もれるようにあるから平地より少し高い場所にある、とかリーデレットが解説してくれて、なるほどと思う。


(お城に帰りたい時は、あまり迷わずに済むかも)


 少しほっとした気になった彼女は、不意にリーデレットが指差して色々説明してくれている方向から目をそらし、周囲に視線を彷徨わせる。


 今、彼女はちょっと休憩も含めてカフェとやらに連れてこられていた。主に飲み物を嗜む場所で、広場の周りにちらほらと点在している。テラス席、とやらはどうやら屋外の席のことを示すらしく、昼の陽射しが眩しかった。帽子を被せてもらっていてよかった、とシュナは思うが、人探しには少し視界の邪魔だ。


(デュランは? どこに行ったの?)


 大勢の人の群れが、立っていたり座っていたり、あちらからこちら、こちらからあちらへ、歩いたり、走ったり……酔ってしまいそうになるのをぐっと堪え、シュナは自分の内側に意識を向ける。


 とくん、と心臓が鳴るように、何かが響いた。


 するとある方向にシュナの意識が向いて、追いかけるように顔を向けると、果たして少し遠く、広間の中に立ち尽くしている赤色の髪を見つける。


(デュラン!)


 彼は一瞬、何か考え事をしているかのようだったが、シュナが手を振っているのにすぐ気がついて振り返してきた。一緒にいた男性が、こちらを見てからデュランに何か言い、彼が言い返しているのが見える。


 シュナがニコニコ遠くから様子を見守っていると、横合いから視線を感じた。

 目を向ければ、リーデレットが何とも言えない目でシュナを見守っている。


「あなた、やっぱり……」


 言いかけて、彼女は止まってしまった。

 シュナは首を傾げたが、なんでもない、と言うように女騎士は首を振り、笑顔になった。


「町と言えば、せっかくだから。この後は、お買い物にいってみましょうね」


 シュナは笑顔で応じ、素直に頷いた。

 その辺りで、ようやく開放されたらしいデュランが合流した。

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