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迷宮の眠り姫は竜騎士の呪いを解く  作者: 鳴田るな
七章:迷宮の至宝 目覚める
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死の舞踏

 天に向かって猛然と伸びていく。また腕の群れが現れたのかと思えば、そうではない。


 ネジの先端のようにぐるりと螺旋を描くものは、よく見れば絡み合う複数の根、あるいは蔦の集合体である。

 石にしてはしなやかだが、植物にしては生命を感じさせない。無機質に伸びていくそれはおぞましく、死の匂いを纏っていた。


 自生し、育っていく柱――できあがっていくものを遠目に見れば、そんな表現ができそうだ。それが一つだけでなく、いくつも地面から生えて、やがては複数の塔に成長する。


 塔達は天に向かって貪欲に伸び、半球状に迷宮領を覆う偽りの空まで届いた。

 鋭い棘は勢いのままに迷宮領の覆いを突き破ろうとしたが、それは叶わない。

 突進し、ぐしゃっと潰れた先端が別れ、自らの侵出を阻む壁を這い伝って広がっていく。その様はどこか、汚染されながら広がっていく血管を想起させた。


 地面から伸びていく汚らわしい線は、少し前の女神の腕同様、地表の人間への襲撃を繰り返すかと思えば、下方に興味を示さない。邪魔な天井を這うように広がっていき、互いにもつれ、絡まり合う。

 線は網になり、網目は細く狭く小さくなり、まもなく迷宮領を覆い尽くす巨大な膜が出現する。


 暗く、昏く、冥く――遮断された世界がより深い闇に閉ざされていく。

 点を貫く柱は枝葉を伸ばしたことで、今や世界を飲み込む大樹となっていた。


 どくん、どくん、と脈打つように数度、幹が目に見えて伸縮運動のような挙動を示す。

 根元の迷宮領から吸い上げられた何かは、ぶくぶくと肥え太った管のごとき枝に瘤として集まり、だらんと垂れ下がって赤黒い実に変じる。

 落下した実は地表で砕けると黄金の液体――迷宮神水エリクシルをまき散らしながら割れた。

 産声と呼ぶには耳障りで醜悪な雄叫びを上げ、グロテスクな形の何かが這い出てくる。


 経験ある冒険者であれば、いくつかは該当の魔物の名前が思い浮かべられるだろう。だが、常であればどの固体ももっと小さく、形状ももっとシンプルだ。どの実から出てくる魔物も、複数の魔物を無理矢理かき混ぜてくっつけたような、歪な姿をしている。そしてどれもが、少なくとも三階建て以上の大きさをしている。


 ――強襲強敵(レイドボス)


 迷宮内に出現する、ひときわ体の大きな魔物。討伐には複数の冒険者の協力が必要だが、移動はせず、また最終的な戦果も通常の魔物に比べて大きい。平常時であれば、彼らの出現は一つの祭りとなり、ささやかな非日常と恵みをもたらす。


 しかし、人間達が度重なる迷宮からの侵略で消耗しつつある今、そして明らかに常より凶悪な形で現れたとなれば、状況は悪化していると言わざるを得ない。


「……もう一踏ん張り、か」


 休憩を挟んで立ち上がった人々はけして絶望はしていなかったが、平時のように笑みを見せる者は誰もいなかった。



 変わっていくのは上空だけではない。

 木の根元、地表には、霧のようなガスのような靄がいつの間にか立ちこめてきている。

 その中をゆらゆらと、人影のようなものが歩いてくる。


「なんだ、ありゃ」


 再戦の気配にいち早く前に出て構えていた戦士達は、その姿がわかるようになると今度は眉を顰めた。



 迷宮の魔物はすべて女神イシュリタスから生み出される。

 彼らの多くは動植物に似た見目をしているが、一見してすぐに迷宮の化け物であるとわかるようになっている。


 例えば犬に似たヘルハウンドは、頭に小型の角が生えている。

 二足歩行で人間に形が似ているオークは、猪のような牙を持ち肌が緑色だ。

 試練の間でデュラン達の前に立ち塞がった鎧の化け物も、中身は空洞だ。

 先ほど地上に出てきたリビングデッド達も、人間を模しているが、一目で死人の模倣品だ、ということがわかる。


 ――迷宮に人型の魔物は存在すれど、()()()も存在しない。

 亜人はギルディア領に多く存在する、獣と人の掛け合わせのような姿をした人間のことを示す。迷宮外の生き物で、ヒト種の一種だ。


 迷宮内の魔物はどれも等しく言葉を話さない。

 その知性と社会性、人間という種に示す共感は、女神の化身たる竜にのみ許されたもの。


 で、あるがゆえに。


『ここ……どこ?』

『助かった、の……?』

『それともこれがあの世……なのか?』


 彼らはあまり見たことのない、奇妙な衣服を身に纏っている。

 互いに手を取り合い、寄り添って、不安を顔に浮かべ、言葉を話している。

 どう見ても人間にしか見えない者達の姿は、これまで出現したどの魔物よりも異様なものだった。


 そして場は更に奇妙な方へと変じていく。

 空から落ちてきたキメラ達が、ついに動き始めたのだ。

 彼らは真っ先に、靄から出てきた人間のような者達に向かって攻撃を開始した。


『きゃあああ!』

『わあああん!』

『なんでまた――二度も死にたくない! 死にたくないーっ!!』


 襲われた人間達は恐慌に駆られ、逃げ惑う。勇敢に立ち向かう者はない。足をもつれさせながら飛び跳ねる様は、奇妙なダンスのステップにも似ている。



「おい! 大丈夫か?」


 見かねて手を貸した騎士は、ふと相手も鎧を着た人間であると理解する。

 見慣れない形なのだが、既視感もある。

 一体何が、と考えている間に、相手が手に持つ旗らしきものの紋章に手が止まる。


 一方、動転して硬直していたらしい相手も、迷宮領の騎士に不審の目を向け、口を開いた。


『貴様、帝国の人間か?』



『あ――ああああ、あ!』

「んだよダリィ、急に現れるわ役に立つどころか足手まといっぽいわ、なんなんだこいつら」


 兎の耳をぴょこぴょこさせ、亜人は面倒そうに吐き捨てる。駆け寄ってきた学者は興味津々に、白い衣に手を伸ばそうとしたが、拒絶された。

 靄の中から出てきた女は白目を剥き、金切り声を上げる。


『なんなのよ! なんで実験体どころか、第一種族まで外にいるのよ! 汚らわしい劣等奉仕家畜が――施設監督者は何をしているの!? 皆、駆除して!!』



「今度は何だ!?」


 レイドボスの出現には速やかに撃墜の指示を出せたデュランも、逃げ惑う非戦闘員の姿には困惑する。

 だが誰よりも早く事態を把握した迷宮の姫の悲鳴が、竜を介して伝わる。


《なんてこと……あの人、召喚した魔物をより強化するために、既に迷宮の糧となった過去の人達を疑似復活させているのだわ》


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