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迷宮の眠り姫は竜騎士の呪いを解く  作者: 鳴田るな
七章:迷宮の至宝 目覚める
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竜騎士 謎を追う 4

 神官の弟子と廟で鉢合わせし、どうやら彼――というより、おそらく彼の師匠の方が何かあまりよろしくないことに巻き込まれている、という相談をそれとなくされていた。


 法国の人間に知り合いがいないわけではないが、身内のトラブルならデュランにはまず話そうとしないだろう。ルファタからかなり核心的な話を聞けただけで、十分すぎる。


 一体彼らが何に対して困り事を抱えているのか。神官の弟子が漏らしたヒントの中から、相手はたぶん冒険者の誰かだろうと検討をつける。


 真っ先に浮かぶのはオルテハ=ヴァイザー。以前にトゥラのことでカルディと対立しており、気が荒く、コケにされて黙っている女ではない。根に持って、折に触れて嫌がらせをしてくる可能性ならば充分ありえる。


 ルファタは師が一緒にいる相手が自分の大嫌いな人物だと述べた。優等生気質の神官の弟子が個人的に破廉恥な同性愛者を嫌っているのは、想像に難くない。


 が、なんとなく違うな、とデュランはすぐに彼女から注意を外した。


 理由は二つほど。


 一つ目。オルテハは気が短いが、勝ち目のない喧嘩をするほどバカではない。それに、彼女の執着の対象として、ユディスは少し()()()()

 女性に執着しすぐ口説き出す困った性癖の持ち主、全ての女性は自分のものと公言している自称愛の求道師だが、美学というか好みにも結構うるさかったりする。

 お堅い相手を突き崩していく、というロマンならオルテハにもあるのだろうが、率直に言って……たぶんユディスは見た目がオルテハ好みではない、少々男っぽすぎるのだ。だとすると、オルテハはユディスを嫌ったとして、わざわざつきまとうより避けるのでは? と思うのだ。


 二つ目。ユディスはオルテハごときに喧嘩を売られようと相手にしないし、もしくはあっさり叩き潰せる。

 枢機卿カルディは神聖ラグマ法国の法王ヒエロに継ぐ序列、まして術士の頂点と言われている女なのだ。冒険者としての格も、本人が昇級に興味がないから一級止まりになっているだけ、本当は自分たちと同じ特級クラスだろう。


 さてそうすると……と何人か当たりをつけながら受付嬢に探りを入れている最中、不意にふっと浮かんだのがザシャ=アグリパ=ワズーリの姿だった。


 根拠があるわけではない。ただ、もしそうなら自分にとって一番嫌な状況になる、という思考。


 はたしてルファタとの接触が確認できたわけだが、さてわからないのがユディスの方との関連である。


(ワズーリの奴、懺悔と称してカルディにつきまといでもしたのか? それで弟子が荒れている? ただ、組合ではプルシの方にちょっかいをかけていたという話……)


 どうせまたろくでもない事を考えての行動なのだろうが、何とも言えない嫌な感じがつきまとっていた。


 何故今このタイミングで、わざわざその二人がつるまねばならない?

 そんな思いが、どうにもうっすらデュランに怠惰に座して変化を待つ姿勢を拒ませ、手探りでも情報を得ようと行動させる。


 ユディスと今度話す機会――なるべく早い方が、しかしなんて切り出したものだろう。直球にルファタに聞いた、と言ってしまうと、今度は彼がかわいそうだ。


 考え込みそうになった思考が、ふと視界を横切ったエプロンによって止められる。


 オープンスペースの方には小食堂も存在する。そこの給仕係の制服を見て、トゥラを廟に連れて行った日、もう一人挙動不審な知り合いがいたことをデュランは思い出したのだ。


「そうだ、もう一つ。最近ニルヴァは来てる?」


 冒険者の娘、ニルヴァ=ラングリースとも、あの日お昼ご飯を食べたときに遭遇している。


 やけにトゥラのことを見つめていたと思ったら、バイト先の店から体調不良だとかで早退してしまったのだ。


 緊急性があるわけではないが、ずっと頭の片隅に、なんだか気になることとして残り続けていた。


 組合ならば学校帰りなどに定期的に訪れているはずだ、手がかりぐらいは得られるかも、と思い立っての質問である。


「え? えーと、そうですね……確かちょっと質の悪い風邪にかかっちゃってしばらく来られないとか、何日か前に言ってきて、それきりかなあ」


 受付嬢の方は、お代わりに果物を入れて楽しんでいたらしい。

 大胆に水面にスライスされた果実を浮かべて満足げな顔になっていた彼女は、デュランの言葉に顔を上げる。


「そういえば、ジャグの方も見かけないから。一緒に倒れちゃってるんでしょうか? 感染症かって聞いたら、そうではないとは言っていたんですけど。ほら、ジャグは離脱症状を起こしているから弱っていて、それでニルヴァちゃん、看病が忙しいか、自分も移されたかしたのかも――」

「……ちょっと待って。ジャグも来なくなってるの?」


 風邪ね……と残った茶に目を落としていたデュランが、顔を上げ、表情をさっと曇らせた。応じる受付嬢の方も釣られてだろうか、戸惑うように眉を下げる。


「いえ……ええと、ほら、ジャグさん、引退後は道具屋を始めるって予定だったじゃないですか? ちらほら顔を出して、早速一緒に冒険に行っていた人を中心に、もうお試しの注文なんかも受けていたんですよ。それで、何日かにいっぺんは、特に進展なくても顔を出して、知り合いと飲んだり食べたり、してたんですけど……」

「最近見ない。いつ頃から?」

「んー……一週間ぐらい、でしょうか。ああ、そうだ。大体引退後も週一では顔を出していて、一昨日がその日だったんですよ。それで、あれ、今日いないなーって」

「住所」

「え?」

「ラングリース一家の住所はどこ。中央区の南より……いやもっと港に近い方だったかな。誰か家を知っている人はいる? すぐに様子を見てきてもらいたいんだ」


 カップにはまだ飲み残しが存在していたが、構わずデュランは立ち上がった。スペースから出て行ってしまう彼を、慌てて盆にティーセットを戻した受付嬢がカチャカチャ音を立てながら後を追う。


 と、そのまま組合を出て行ってしまうかに見えるぐらいの勢いだった彼が立ち止まったので、彼女は驚きの声を上げた。幸いにも、持ち物は無事だ。ほっと一息吐き出し、恨めしげに流し目を送るが、デュランはいつになく厳しい顔をしている。


「あの、若様――」

「近所の人に見てもらう? 無防備な誰か一人を送るのは嫌だな。できれば腕っ節の立つ奴がほしい。巡回を呼ぶべきか……」

「どうしたんですか、そんな急に怖い顔になって。そ、そりゃあ確かに、二人とも倒れていたらちょっと大変でしょうから、誰かお見舞いをって言うのはわかりますけど、なんだかちょっと深刻に捉えすぎのような――」

「あら、デュラン? どうしたのよ、そんなところで」


 盆を抱えたままオロオロする受付嬢に、突っ立っているデュラン。

 そこに明るい声がかけられると、二人とも驚きと喜びで目を見開き、振り返った。その拍子にまた食器が音を立てて、危ない、と声をかけた女騎士は慌てて支える。


「大丈夫? 片付けてきちゃったら?」

「あ、はい……すみません、ありがとうございました!」


 優しく受付嬢を送り出したリーデレットは、ふう、と一息吐き出した後、ポン、と肩に置かれた手の方を振り返って、ヒッ!? と小さく飛び上がった。


「リーデレット、本当に素晴らしいタイミングだ。君はよく、俺が今ちょうどここにいてくれないかなって時に現れてくれる。神ってる」

「ど、どうも……えーとでもその、普通に迷宮探索してたら、なんか急にネドに《終了。帰還》って強制的に待合所まで強制送還されちゃったから、仕方なく戻ってきただけなのだけど……」

「さすがだネドヴィクス。有能。愛してる」

「やめなさいよ、人の逆鱗に愛情を無駄にいい低音で投げ売りするな! あー鳥肌立ってきた、何か雰囲気怖いんだけど!?」


 腕をさすっていたリーデレットだったが、デュランが真面目な顔になると、素早くそちらに合わせて表情をきりりとする。


「悪いんだけど、ラングリースの家に行って二人の様子を見てきてほしいんだ。ここ数日顔を出していないらしいし、連絡もない。ニルヴァの方は何日か前に風邪で休むって連絡をしてきたらしいんだけど、ジャグはもう下手をすると一週間以上行方不明だ」

「それは……でも、少し大げさじゃない? 何かあったの?」

「かもしれないし、これからそうなる可能性も、今現在進行形の可能性もある。とにかく、二人の無事を確かめるだけでもいいんだ。本当に二人とも調子が悪くて外出を控えているとかってだけなら、俺がただ神経質で笑いものになるだけで済む」

「いいわ、わかった。ジャグ、冒険者を引退して、新しく仕事を始めるのだものね。慣れないことを始めている時に、思わぬ事故に巻き込まれるってよくある話だし。あたしは元々この時間は迷宮探索に当てるつもりで空けていたんだもの、大丈夫よ」


 時に容赦のない突っ込みを入れてくるスーパーゴリラ女ではあるが、一方で本当に困っているとき、必要とされている時は素早く状況を汲んで応じてくれる優秀な騎士でもある。


 そこで、パタパタと足音を立てて、皿の面倒を見終わったか、あるいは急いで洗面所に投げ込んできたかした受付嬢が戻ってきた。


「あの、若様、リーデレット様。もう少ししたら、ズライが酒瓶片手にうろうろし出す頃合いです」

「ズライ?」

「『絶壁の守護者(ガーディアン)』だね。今は特定のグループには所属してないけど、『憤怒の戦斧』――セティヴァ=ラングリース存命の頃はチームの盾を務めていた男だ」


 オウム返しに問うリーデレットに、素早くデュランが説明すると、「あんた本当によく覚えているわね……」と女騎士は肩をすくめた。迅速で正確な話の進み方に、受付嬢は喜色を全面に、こくこくと何度も頷いている。


「そうです、その人です! ジャグとも仲が良くて、先に潰れた彼を家に送っていって娘さんにドヤされた――と前に愚痴っていったことがあるんです。だから、家もわかるはず。リーデレット様は、ラングリース家の場所まではご存知ではないですよね。ですから、彼と一緒にお見舞いに行くのは、どうでしょう?」

「あたしは大丈夫。デュラン、それでいい?」

「頼んだ。とりあえずこれ、先立つ物。何かあったら費用にして。なかったら遊んで」


 懐からすっと袋を取り出したデュランがリーデレットの出した手に乗せると、じゃりん、と景気のいい音が鳴った。

 ん、と短く返事をして、女騎士は荷物の中に軍資金をしまい込む。


「ところで、あんたは? これからどこか出かけるの?」

「ちょっといくつか用事を済ませてから、迷宮……確かめたいことがあるから」

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