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おつかい

「エリ様、なぜこのような真似をなさるのですか?」

「戯け。領主が根も葉もない妄想に囚われているなどと民衆に知られては厄介になる。我々は皇帝陛下に仕える高潔な騎士でなくてはならないのだ。呪術のために奴隷を求めたなど、血腥い噂が広まることは避けたい」

「いえ、そちらのことではなく、師は変装のへの字も知らないのですか?」

「変幻術は専門外だ。仕方なかろう」

「魔術云々以前として、それでは変装ではなくただのイメチェンです」

「印象が変わっているならば充分ではないか」

「いいえ、全く」

 基本的に師の言動を批判することのないウミだったが、眼鏡をつけて顎髭を生やしただけで充分な変装をしたという言い分には賛同できなかった。

「うまくできていると思うのだが……」

 鏡を覗き込むファメリドの背中に嘆息を吹きかけ、ウミは渋々と切り出した。

「仕方ありません。私が行ってきます。いくら未熟とはいえおつかいくらいはできます」

 それに――と前置きしてウミはローブのフードを外した。

「私の貌は誰にも知られていません」

 みどりの黒髪を頭の後ろでたくし上げ、大きな髪留めで纏めた少女を瞥見し、自分の変幻術を貶されたことに多少の不快感を示しながらファメリドは言う。

「また貌を変えたな」

「今回の貌は東部で人気を博していると噂の歌姫がモデルです。如何ですか? なかなか美しいでしょう?」

「借り物、紛い物の貌に美醜などあったものか。悍ましいだけだ」

「だからこそ美しいのですよ。醜悪を内包してこそ美とは輝くものなのです」

 それについての感想はくれず、ファメリドは早く行けと手を振った。

「それでは、行って参ります」

 ローブを被りなおしてウミは城を出た。すでに陽は高く、城下に広がる市場は活気と喧騒に溢れていた。人混みに紛れ、誰からも視線を向けられていないことを念入りに確かめてから貌を晒す。少女の美しさに道行く人々が立ち止まる。

(失敗した。隠密行動には向かない)

 ウミは足早にその場を離れ、辻馬車を捕まえると奴隷商人の館に向かった。御者には暗示をかけたため、どこに向かったのか、誰を乗せたのかは忘れてしまうことだろう。

「半刻ほどで戻ります。ここで待っていてください」

 館の手前で馬車を降り、残りは徒歩で向かう。

 商人の館は貴族の館に匹敵するほどの土地を有していた。商人達の居住区と奴隷の収容所を兼ねた屋敷、そして土地の大部分を占めているのが大理石と琥珀で造られた競売劇場(オークションホール)だった。

 ウミは劇場には向かわず、屋敷へと足を運んだ。

「もし」

 門番の男に声をかけた。

「お館様に取り次いでいただけますか?」

「……あんたは?」

「とある人の遣いで参りました。身分を明かすことはできませんが、その辺りのことは、そういう商売をしているならご理解いただけるかと」

「用件は何だ?」

「そちらが所有する赤髪の精霊種を売っていただきたいのです」

「……どうして知っている?」

 門番に警戒の色が混ざった。件の精霊種が運び込まれたのは今朝方のことであり、商品の情報はどこにも流されていないはずだ。どうやってこの少女は知ったのか。

 門番を宥めるように手で制してウミは淡々と告げる。

「この世界に私が知らないことなどありません」

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