あるサンタの話(side A)
「うへぇ、寒い寒い。」
そう言いながらも、慣れた手つきで身支度を整えていく。
彼は、サンタ。
聖夜にプレゼントを振りまくという伝説の人物だ。
「まったく、嫌になるねぇ……。」
まったく嫌そうに聞こえない、そのセリフを吐きながら彼は笑う。
1年に1度しか訪れない、不思議な日。
誰でも魔法が使えるようになるという、そんな日。
今年こそは気合いれましょうかね、と思うのももはや10数度目。
「そりゃ、おじさんも年取るわけだわ。」
ぶつくさ言いながらも、身支度を終える。
真っ赤なコートに赤い帽子、それから白くて大きな袋。
面倒臭そうに見える目は、それでもなお優しい光を持っていた。
「じゃ、今年も行きますか。」
そう言って、近くの家に飛び移る。
トナカイもソリも、彼には必要ない。
彼は自分の足で、子供にプレゼントを渡しに行ける。
その一点でもって十分、彼はサンタなのだ。
「んじゃ次は、っと……。」
手元に視線を下ろし、次の目的地を確認する。
「うーわっ、2kmもありやがる。誰だよこんなルートにしたのは。」
自分で決めたことを棚に上げながらも、彼は袋を担ぎ直す。
目の前には何もない広い土地。
サンタはその土地に向かってまた一歩、歩を進めて行った。
◇◆◇◆◇◆
『さんたさんへ。』
そうやって始まる手紙は何度も見た。
その度に、自分はサンタなのだと自覚する。
サンタ。
子どもへ夢を与えたり、夢を届ける存在。
いつから自分はそんな存在だったのか、正直なところはっきりと覚えていない。
だからといって、最初からサンタだったわけでもない。
自分にもサンタを待つ側の子供だった思い出が確かにあるのだ。
自分はいつからサンタに憧れて、今に至るのか。
そもそも憧れてなどいたのだろうか。
時々、頭をかすめるそんな疑問は、自分でも知らないうちに頭の隅へ追いやられて行った。
(ま、いまさら考えても仕方ないしな。)
そして、いつしか一切の疑問を抱かなくなったその日。
『どうしたらわたしもさんたになれますか?』
ある少女にぬいぐるみを持ってきたその家で。
彼はそんな、手紙に書いてあった言葉に目を奪われてしまった。
サンタになる。
言葉にすれば簡単に聞こえるかもしれないが、きっとそうではない。
自分はもう覚えていないが、それは逆に『思い出したくないほどの何か』があったのでは、と想像させてしまう。
ブルリ、と人知れず身震いしてから手紙の続きを追う。
『わたしのところにはさんたさんがきてくれます。でもともだちのうぃるくんや、らにあちゃんのところへはきてくれません。ふたりともとってもいいこなのに。だからわたしがさんたさんになってふたりにもぷれぜんとをくばりたいです。』
(…………。)
思わず黙り込んだ。
いい子にしていればサンタが来る。
大人が子供に言うことを聞かせるために、何度も言う言葉だ。
しかし実際はというと……。
(サンタは良い子にしか来ない、か。)
言葉はあっている。
だが、その意味は決定的に違っていた。
良い子、とは別に『親の言うことをよく聞く子』ではない。
(世知辛い世の中だねぇ。)
くしゃ、と言う音に手元をみると、手紙の端を強く握りすぎて少しばかり痕が着いてしまっていた。
夢を届ける、与えると言っても、そこには線引きが存在する。
『良い子』はもらえるし届くが、反対に『悪い子』はそれがない。
全ての子供に配られるわけではないのだ。
「またドヤされるんだろうな……。」
はーやれやれと、自分にため息をつきながら歩きを再開する。
彼が向かうのは少し外れた道。
地図のルートにはない、『悪い子』が住む家々だ。
彼はサンタクロース。
世界中の子供へ夢を与えたいと願って、事実そうなった存在だからだ。
こんばんは、Whoです。
少し前にspikeくんに描いてもらったイラストを元に小話を作らせてもらいました。
spikeくんありがとう。またよろしくお願いします。
そしてもう一つ。
「side B」も投稿しますので、そちらもよければぜひ。