number∞
けたたましく鳴るサイレンの音
遠く彼方から聞こえてくるであろう悲鳴
誰かは意味もなく叫ぶ 何を? 助けをか?
ならば私は耳を塞ごう
聞こえなければ、それでいいのだ
世界から音が消えた瞬間だった
そこに耳のない男を置いて
私はその場から立ち去った
少し歩けばごろごろと来る野次馬達
皆見えない引力に引き付けられている
既にラインを引かれて立ち往生
何かを喚いているのが私は知らない、聞こえない
そして私は彼らの間を通り抜ける
誰も私に気づかない 何故? 気づいてほしいのか?
否
私はそっとしてほしいのだ
気づかれなければ、それでいいのだ
世界から視覚が奪われた瞬間だった
そこに女の幽霊を置いて
私はその場から立ち去った
やがて私はそこにたどり着く
目の前に現れる巨大な壁
白く、白く何処までも白かった
例えるなら巨大なキャンパス
私は懐から黒のスプレーを取り出した
誰も気づかない、誰にも気づかれないならば
私は何をしたっていいんじゃないか?
瞬間、私は身体を捻らせ踊るように白壁の前で舞った
ふっとふっとふっふっふっふっ
誰にも邪魔されない、私のリズム
次第にその白さは失われ、黒く塗りつぶされていく
光が失われ、私も何を描いているか分からなくなる
否
分かるのだ、私には何を描いているか分かる
誰かに理解されなくてもいい
私だけが分かればいい
それでいいのだ
それでいいのだと思っていたけれど
「10時50分、容疑者確保」
あっけなくその時間は終わりを告げる
「何故気づいた?」
私は彼に尋ねた 見えない筈なのにと
彼は言った
「最初がゴッホ、次がムンク、最後は分からんが、時代の変遷を残す手法はお前のだろ?」
凄い、分かっているじゃないか
でもそれだけじゃここには辿り着けない
「可笑しな顔をしているな? そもそもその流れが犯人は『時代』だと特定に至っただけで、お前を見つけたのはもっと他の理由だぞ」
ほう、それは何だろうか?
彼は指をさして言った。
「そりゃあ、突然絵が現れたら皆お前に気づくだろう。誰にも見えない分、誰の声も聞こえない分な」
これは参ったな 私の誤算だった
何も聞こえないんじゃない
聞いていなかっただけなのだ
誰も気づかないんじゃない
気づかれていると思わなかっただけだ
それが私の誤算でもあり、彼の誤算でもある
「まぁ、残念だったな。これで永らく捕まえられなかった、連続殺人犯の……「まだチェックなのだよ」……は? 何を言っているのだ?」
くっくっくっ、と私は笑う
彼は何を言っているのか理解してなかった
じゃあヒントをあげようか
それ、と言い私は壁の黒く均質に塗られた空間を指さす
「ジャクソン=ポロックって知ってるかい?」
「お前ら今すぐその絵を消すんだ!! 兎に角早く!!」
いやはや、もう遅いのだよ
扉は既に放たれた
それは現代アートの扉
枠に収まらない けれど本質的な絵画
何処から見ても ムラがない
どこにも私が存在する
それはまるで空気のように
私はやがて絵画となる
どうでしたか?
あまり分かりにくい文章ですみません。
取り敢えず使った絵画の作者名と作品名を
フィンセント=ファン=ゴッホ
『包帯をしてパイプをくわえた自画像』(1889-1)
ムンク
『マラーの死』(1907 wikに乗っている方です)
ジャクソン=ポロック
特定の絵画はなし、強いて言うなれば彼のアクションペインティング全体