132
132
良治は、上手く二人を誘導していた。
前方の状況は判らなかったが、どっちにしろ合流した方が戦いやすいに決まっている。
そこで、敵に距離を詰められないギリギリを狙って、良治は少しづつ前進していた。
わざと接近し、ナイフを撃つ。
すると経験の浅い小娘が、分銅で攻撃してくる。
射程距離は判っているから、ここで一気に前進するのだ。
連中には、炎に慌てて逃げているように見えているだろう。
小娘がムキになって追ってくるので、勢いボクサーも前進せざるを得なくなる。
これの繰り返しで、良治は前に進んでいた。
攻撃に変化をつけることも学んだ。
野球のピッチャーと同じだ。
色々な変化球を混ぜるように、大きなナイフを投げたり、分裂するナイフを投げたりする。
大きなナイフは時間がかかると思っていたが、二、三本なら手早く作れるようにもなった。
敵は大きなナイフで怪我をしているので、神経質になっていた。
良治が、戦いの中で考え、色々に戦法を工夫するのは初めての事だ。
そもそも影繰りと二対一の戦いをするのも初めての経験なのだが、それも、逃げていれば味方に辿り着く、という気楽さからくる余裕の賜物と言えた。
そして、気が付いてみると全てのナイフを跳弾で投げたり、大きなナイフを分裂させたりすることで、ボクサーを慌てさせ、小娘を怒らせて全身速度を加速させることに成功した。
連続で襲ってくる分銅の攻撃を避けて、全力疾走するうちに、やっと仲間の姿が見えてきた。
良治は、こみ上げてくる喜びを隠して顔を引き攣らせたが、すぐに状況が判らずに、口をポカンと開けることになった。
味方二人が、まるで睨めっこでもしているかのように、突っ立って向き合っているのだ。
「兄貴、どうしたんだ?」
「僕は、この人に心臓を握っています。
殺したくなかったら、大人しくしてください!」
大柄な兄貴が、膝立ちにされて、後ろに餓鬼が立っていた。
言葉を喋らなかったら、小さくて判らなかった。
良治は咄嗟、ナイフを浮かべる。
「止めな。
あんたがナイフを発射する前に、あんたの兄貴の動脈が切れちまうよ!」
黒い獣が、後ろも見ずに言った。
「どうやら詰んだようだな」
ボクサーと小娘が、良治の後ろに立っていた。
「ああ。
誠君が全てを仕切ったようなもんだ。
大した中学生だよ」
永田が笑った。
アクトレスは、獣の姿で、内心の動揺を抑えていた。
真…。
真だって?
用心深く、アクトレスは問う。
「で、あんたたち、なにものなんだい?」
永田は胸から手帳を取り出した。
「俺たちは内調だよ」
獣が黙り込んだ。
大男がゆっくり手を上げる。
「判った、判ったよ。
お役所じゃ仕方がない。
お国に逆らうつもりは無いんだ。降参するよ」
誠が、ホッと笑顔を浮かべた瞬間、脇腹に重い一撃を受けた。
しまった。
思ったときには遅かった。
大男の言葉に、指先を緩めたところを狙われた。
美鳥を吹き飛ばしたのと、同じ一撃だった。
大男は、体のどこからでも攻撃を繰り出せるのだ。
誠は線路を越え、反対側に落ちた。
同時に、良治が誠に向かって、突っ込んでいく。
大男は、隣に立っていた美鳥の背後に素早く回り、美鳥の顔と同じぐらいある太い腕を、美鳥の首に巻き付けた。
「おっと、動くなよ。
俺たちゃあ零細企業でね。
公務員さんみたいに、のんびりしたこと言ってられないんだよ。
この餓鬼は、今のままでも何億も稼いでくれるサラブレットだ。
三佐さんに出てこられたって、引けないね!」
線路の反対側では、良治が、ナイフを餓鬼の首に突きつけていた。
「動くと喉笛が裂けちまうぜぇ」
誠は、良治を落ち着いて見ていた。
「あなたたちは、僕をどうするつもりなんですか?」
大男が近くにいたら、良治に答えさせなかっただろう。
だが良治は、空気を読むとか、相手の気持ちを考えるとかは出来ない男だった。
「ヒヒヒ。
そりゃあ稼いでもらうのさ。
なーに、俺と兄貴で、優ーしく、お前を一人前にしてやんぜ!
それで、俺はロンドンに海外旅行をするんだぜぇ!」
勝ち誇った良治だが、そのまま凍り付くことになった。
誠が、首元のナイフに構わず、立ち上がったのだ。
ひっ!
良治が叫んだ時には、良治の心臓は握られていた。
「美鳥さんを放してください!」
大男も、さすがに驚いた。
この餓鬼は、いや、この少年は、もはや不意打ちを喰らう以外は、まともな攻撃は一切効かなくなってやがる!
たった一日で、ここまで育った化け物は初めて見たぜ…。




