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巨大な獣が、誠と美鳥を前に、毛を逆立てているのを見て、永田は足を速めた。
正直、足を撃たれたのは二、三時間前だ。
影の治療を受けたとはいえ、激烈に痛い。
が、四の五の言っている場合では無かった。
最凶、と言っていい化け物が、子供二人の前に立っているのだ。
美鳥はプロとして三年のキャリアがあったが、接近戦のプロ、アクトレスを前にして、どうにか出来るというレベルではない。
確かに二度ほど、アクトレスを投げる事に成功しているが、タイミングさえ合えば投げ技は、なるほど子供でも大人を投げることが出来る。
だからと言って、殺し合いになってしまえば、大人が勝つのは必定だ。
真剣勝負は、そんなに甘いものではない。
誠君に至っては、二四時間前に影繰りになった身だ。
一応、二つの影が使えるのは天分の豊かさを感じるし、短期間でそれなりに影を纏えてはいる。
だが、あくまで短期間にしては、というレベルで、本気の格闘戦をする次元ではない。
どうあっても、自分にアクトレスの注意を引き付ける必要があった。
永田の叫びに、アクトレスは瞬時に横に跳んだ。
バリアーを警戒しているのだ。
「壁張り屋かい。
何をトチ狂ってるんだい。
大声出さなきゃ壁が貼れたかもしれないじゃないか?」
嘲笑った。
と、同時に身を沈め、永田の正面まで跳躍した。
跳びながら振り上げた巨大な爪が、永田に襲い掛かる。
ずんっ、と思い音が、トンネル内に響き渡った。
が、永田は肘を上げて、アクトレスの打撃を防いでいた。
永田が、獣の頭部にハイキックを放つ。
これも、ごんっ、と鈍い音を立てるが、獣は微動だにしない。
「そういう奴じゃあ、あたしは倒せない、って知らなかったっけねぇ!」
叫びながら、永田の脳天に爪が落ちた。
が、その攻撃は、アクトレスの下半身が崩れて、爪が横に反れ、コンクリートに突き刺さった。
「暴れないでください!
人質がどうなってもいいんですか!」
誠が叫んだ。
永田と、飛び起きたアクトレスの動きが止まる。
「それは、もしかして…?」
永田が、唖然と誠を見た。
横に膝立ちの大男を従えてる。
膝立ちでも大男の方が背が高い。
「彼は、この男の心臓を握っているのよ」
美鳥が説明した。
「君は、とんでもない影繰りだなぁ…」
永田は頭を掻いた。
アクトレスは動きを止めたままだ。
その背後で、どん、と言う音と共に、真っ赤な炎が吹き上がった。




