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誠と美鳥の前に、巨大な獣が立ち塞がっていた。
誠は、大男の心臓を握ったまま膝立ちにさせて、その背後に回った。
美鳥は、獣が襲い掛かってきたときのため、男の横、少し後ろに控えていた。
「あたしを脅かす気かい、坊や?」
「そうです。
僕は心臓を握っています。
もし僕たちを襲う気なら、心臓を握ります」
ハッ、と獣は、鼻で笑った。
「坊やは何も分かってないねぇ。
心臓っているのは筋肉で出来ているんだよ。
坊やは、焼き肉のハツしか見たことも無いんだろ?
生きている心臓を、坊やの力で握ったって、ビクともするもんか!」
誠は頷いた。
「それは触って判りました。でも…」
誠は微かに手を動かした。
と、大男が呻いて、ゆらっ、と倒れかけた。
「動脈は脳に直結しています。
そこを少し抑えただけで、こうすることもできるんです」
アクトレスは唸った。
さすが、あたしの坊やだ。
思った通りの賢さだ。
それに、この度胸の据わりっぷりは…、弟を見ているようだよ、可愛いじゃないか…。
食べてしまいたいほどにね…。
「あんた、何歳だって言ってたっけ?」
「それが、何か関係あるんですか?」
誠は怪訝な顔をした。
「関係ないけど、仕方ないじゃないか。
こうも見事に人質を取られたら。
ちょっとした世間話だろ? 大人は皆、子供に聞くんじゃないか? 今、何歳かって」
誠は無表情のまま、一瞬考え、応えた。
「十四です。
もうすぐ十五になります」
女は一瞬、遠くを見るような目になった。
弟が死んだのと同じ頃って事か…。
匂いで、近い歳だとは思っていたけどね…。
「あんた、射手座かい?」
「誠は少し黙って。
「あと二日で射手座だったんですけど、残念ながら蠍座です。
なんか悪だくみをするように思われて嫌なんです」
女は息を飲んだ。
弟と同じ日の生まれで、弟の命日の生まれかい…。
この坊やは、弟が死んだ、その日に生まれたんだ。
弟と同じ誕生日で、同じことを言う。
あと二日遅かったら射手座だったのに…。
それが一生の不覚、とでも言うように、弟はよく、口にしていた。
「で、あんた、名前は…」
女の問いに被って背後から声が聞こえた。
「アクトレス! その二人に近づくんじゃねぇ!」
女が振り返ると、永田が驚異的な速度で駆け寄ってきていた。




