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反対に、バリアーの中の永田はボヤいていた。
「今日は最初っから躓いちまったんだよなぁ、本当にツキの無い日だぜ…」
「嘆いている暇は無いわよ。来る!」
美鳥は叫んだ。
漆黒の獣が、滑るように疾走してくる。
通り抜けざま、強烈な一撃を獣は放った。
ぐわん、とバリアーが揺れた。
続けて、スケートの男が、蝶が舞うように走った。
一度は永田のバリアーを砕いた、空手の下段突きからのドリル攻撃だ。
「しまった!」
永田が叫ぶのと、バリアーが砕けるのが同時だった。
バタフライは踊るように小さく回転すると、誠の腕を掴んだ。
誠は意外と冷静だった。
バタフライの手を透過する。
バタフライはバランスを崩したが、美鳥が影の蝶を大量に発生させているのを見て、地面に手をついて、必死に転倒して止まるのを避けた。
コンクリートの地面には、バタフライの掌から噴き出た血の筋が、一直線に残った。
「誠、オーラを纏うのよ!」
美鳥が叫んだ。
誠は慌てて小指からオーラの糸を出し、体中に急いで巻き付けた。
「美鳥さん、下に落ちられます」
美鳥は一瞬迷うが、微かに首を振った。
「それは最後に取っておいて。
どの道、今、下のトンネルに落ちても時間稼ぎにしかならない。そうでしょ?」
誠は頷いた。
このトンネルには、敵を逃さないためにわざと誘導したのだ。
ここで誠たちが逃げたら、状況は戦闘前と同じになるだけだった。
美鳥は隠しておいた大量の蝶を飛び立たせていた。
良治相手では射程の差もあって使えなかったが、接近戦ならば思うさま貼り付けられる。
バタフライと美鳥が対面する線路の反対側では、永田が意を決し、黒い獣と向き合っていた。
「悪いが女優さんよ、ここは通さないぜ!」
ケケッ、とアクトレスは笑った。
「壁張り屋に、あたしが止められるかねぇ」
「壁っていうのはよぅ。
張りようなんだ、鋏と一緒でな」
言うのと同時に、アクトレスの周囲が、ドーム型のバリアーで覆われた。
黒い獣は、慌てて爪を立てるが、アクトレスの最強の攻撃は、そのスピードを利用した打撃だ。動きを止まられては、永田のバリアーは打ち破れない。
永田は、薄く笑いを浮かべた。




