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「兄貴ー!」
良治は叫んだ。
良治は、空気を読むとか、相手の立場に立って物を考える、とかいう能力が全く欠けていた。
だから大抵の人間に嫌われたし、ハブられた。
そんな良治を馬鹿だ、馬鹿だ、と言いながら笑って許したのは大男だけだった。
良治は大男に懐いた。
と、言うより依存した、ともいえる関係になった。
仕事上の付き合いだけでなく、日常でも、何かと大男に頼った。
良治は人の言葉の裏側など理解できなかったが、自分が馬鹿にされていることだけは敏感に察した。
だが大男は、馬鹿だとは言いながらも、微かにも良治を貶めたりはしなかった。
兄貴は何でも教えてくれた!
兄貴には何でも聞けた!
兄貴の言う通りにしてりゃあ、いつでも上手くいった!
大男と組んでからは人間関係のトラブルもなく、毎日が楽しかった。
大男は、嫌な顔一つせずに、公私両面で良治の面倒を見てくれたのだ。
よ…よくも兄貴を…!
良治は震えていた。
震えるほどに怒るのは久しぶりだ。
たぶん、兄貴と知り合ってからは無かったと思う。
そして、良治が、自分以外の人間のために、震えるほど怒っているのは、生まれ落ちた日から考えても初めての事だ。
「てめぇら、ブチ殺してやる…」
良治の能力は単純だった。
子供の頃から、他人の感情に気が付かない良治は、どうしても護身用にナイフが必要だった。
見えるだけで済ませることもあったが、少し痛い目に合わせてやった方が、後々、良治を恐れることを学習すると、どんどんデカいナイフを持つようになっていった。
そのまま、それが影の能力になり、沢山のナイフを作って、狙った場所に打ち込めるようになった。
普段は自分に一番思い入れがある、死んだ爺の形見だという象牙の二つ折れナイフをイメージして飛ばしている。
だが…。
影の力はイメージの力だ。
良治は、怒りに任せて、巨大なナイフを作り上げた。
それは、剣と言ってもいい大きさになった。
良治の頭のイメージでは、あくまで良治の怒りを吸い上げて作った、巨大なナイフだったが。
客観的には、立派な刀だ。
空中に数十本の刀が浮かび、バリアーに向かって、放たれた。




