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全速力で線路内を駆け抜けた巨大な黒い獣が、獰猛なナイフのような爪を振り下ろした。
その動きは、犬と言うよりはネコ科の猛獣のようだ。
外見も、犬や狼とはあまり似ていない。
前脚は野球のグローブでも付けているように巨大で、全体からみてアンバランスだ。
犬の耳の部分に突起物があるが、耳と言うよりは角のよう。
歯は鮫のようで、細長い顎にびっしりと生えている。
そして、頭頂部から肩、背中にかけては、ライオンかハリネズミのように漆黒の毛が逆立ち、触ったら怪我をしそうだ。
奇怪な、黒い犬、は、バリアーに強烈な一撃を加えると、そのまま横に飛んだ。
一時も止まらず、動き続けて攻撃を加える。
まるでフットワークを使うボクサーのようだ。
永田のバリアーは持ちこたえた。
やれやれ、追加しておいて良かったぜ…。
永田は胸を撫で下ろした。
だが、そのパワーは永田が今までに体験した、どんな衝撃よりも大きかった。
「嬢ちゃん、俺はバリアーを持たせるんで精一杯だ。
他の事はあてにしないでくれ」
「判った」
黒い獣は、横に飛んだ後、永田の背後に回り込んだ。
坊やの背中だ。
仮に前回同様、攻撃が抑えられたとしても、相手は肝を冷やすだろう。
後ろ足で着地し、黒い獣は、空中にある巨大な両腕を、振り落とした。
誠は落とした。
ここまで来てしまったら、人を殺すとかどうとか言っていられなかった。
タイミングが合えば、どんどん落とす。
たとえ失敗しても、相手も怖いはずだ。
だが、獣は落ちなかった。
瞬間、両手を広げて、地面の縁を掴んだ。
長い両手は、真横に広げれば、四メートル以上の長さになった。
手で反動をつけて、黒い獣は跳ね上がり、天井を蹴ると、そのまま真上からバリアーを叩いた。
誠や美鳥だけではなく、永田も衝撃で身を竦める。
横に飛ぶと、獣は笑うように口を広げた。
坊や、やるじゃないか…。
女は本当に笑っていたのだ。
最初に写真を見た時から、この子は何か違う、と直感していた。
今まで可愛がったどの子よりできる…。
それが写真からでも伝わってきた。
面白い子だ。
女は笑い、走り出した。
坊や。
力いっぱい、可愛がってあげるよ…。




