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スピードスケートの姿勢で背を丸め、大男は永田のバリアーに渾身の一撃を放った。
空手の下段突きを、大男なりに工夫したパンチだった。
大男は空手の有段者であり、同時に中学までは本格的にスピードスケートをやっていた。
影繰りとして覚醒した時、彼は迷わず自分の得意な二つのスポーツをミックスした技の完成を目指し、そして無敵の力を手に入れた。
スピードとは、同時に力でもある。
相撲で、体重百キロを越えた男たちが吹っ飛ぶのも、立ち合いというスピードがあるからこそだ。
そしてスピードスケートならば、最大速度で六十キロという人としては普通にはあり得ない速度、イコール力を手に入れられる。
元々の怪力に加え、常識を超えたスピードの乗ったパンチや蹴りは、それだけでも殺人的な破壊力を生んだ。
それに加えて、大男の工夫は、パンチに回転を加えたことだった。
時速六十キロで正拳突きを繰り出せば、さすがにどれだけ鍛えていても、拳がもたない。自分の手がダメージを負ってしまう。
そこで拳に影を被せて、それを回転させたのだ。
これにより、パンチや蹴りにドリルの回転が加わり、男の打撃は常識の外のパワーを生み出してきた。
速度と回転を手に入れた大男の格闘術は、今まで数多くの猛者たちを屠ってきた。
パンチが突き刺さった瞬間、バリアーが揺らいだ。
だが、大男は舌打ちして、走り去った。
やはり、壁を作る能力者に、一度自分のフルパワーを見せたのがマズかった。
当然、より強い壁を作るのは必定だった。
むろん、大男もそれは判っていたから、可能な限りの加速を付け加えてパワーアップを図ったのだが、三人の中で年齢的に最も場数を踏んでいるだろうサラリーマンは、大男の思惑も推測して、より強い壁を作ったのだ。
俺たちより一足早く、誰かが来ていた。
「いたっ!」
叫んだ声を、大男は聞いていた。
それが、敵か味方か、までは判断が付かなかった。
と、いうより、今や、味方であるはずの変態女の方が、なまじな敵より危険だった。
あの女は、餓鬼を玩具にしてしまう。
現に一人、犠牲になった子供がいた。
今や、大男は、敵から餓鬼を奪うだけではなく、変態女からも餓鬼を護ってやらなくてはならなかった。
やりずらいな…。
大男は呟きながら、より一層の加速をつけていく。
良治が敵の動きを見張っている階段まで、大男は全力で滑った。
ここから加速を弱めずにターンをして、再度バリアーに突っ込む予定だった。が…。
良治が驚愕の表情で、大男の背後を指さしていた。
何事かと振り返ると、餓鬼が…。
餓鬼が、仲間とともに浮き上がっていた。




