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ゆっくり呼吸するのよ。
そういわれて、ズボンの上から腹部を抑えられて、誠は逆に緊張した。
だが、美鳥の声は催眠術のように誠の心に浸透していき、何度も囁かれている内に、段々リラックスできてくる。
誠が落ち着いて腹式呼吸になったのを見ると、美鳥は誠の体から離れた。
「あなたの体には、今、影が満ち溢れている。
昨日の夜、契約をしたときから、あなたの半分は影なのよ。
あなたは影と人間のハーフになったの。
影は闇に住むもの。
暗闇とは、言ってみれば大きな影よ。
だから、あなたは闇の中を見ることが出来る。
心を開いて、影に身を任せればいい」
言われてみると、そんな気になる。
暗闇しか網膜は捕えないが、眼球の、どこか別なところで、音もなく疾走する敵がいることを、なんとなく感じていた。
感じたら、感じたで、新しい恐怖が沸き上がってきた。
悲鳴を上げたかったが、声を上げたら敵に見つかる気がした。
敵は熟練の影繰りで、当然、誠たちの姿などは見えているにしても…。
「…滑っている…!」
「そうよ、感じたのね。
それが第一歩。
遠くのものを、もしくは小さなものを見るように、目を凝らしてみなさい」
背を丸め、まるでスピードスケートの選手のように、大男が駅のホームを滑ってきた。
早いわけだ。
あれでは、避けるので精一杯でも仕方がない。
大男が接近してきたが、永田が前に出た。
と、誠たちは濃い影に包まれた。
「これは!」
「永田さんのバリアーよ。これで奴は近づけないわ」
「でも、永田さんは怪我を…」
「彼はプロなのよ。
本人が大丈夫と言うときは大丈夫。
命のやり取りをする現場では、無理なことは無理だというのが常識よ」
そして、永田のバリアーと、大男が激突した!




