56
54
「キャハ!
坊やの匂い、見つけたよっ!
ちょうど、この下を走っているんだねぇ。フフフ」
明治通りを、真っ黒なハーレーに漆黒のレザースーツの女が疾走している。
そのフルフェイスのヘルメットの中から、不気味な笑い声が漏れていた。
「だけど…。
あの、ゲボチンカスも坊やを追っている! 坊やを護らなきゃ!」
女は派手にアクセルをふかし、スピードを上げた。
55
レディはタクシーの中で大きな地図を広げ、金の鎖のラピスラズリを揺らめかせていた。
「うん、間違いない。
あの子たちは渋谷に向かうわ」
「運転手君。
最速で渋谷に出られる道を選んでくれたまえ!」
ミオは、前の座席に身を乗り出して催促をした。
それから、声を落として聞く。
「大江戸線は止まってしまったようだ。ちょっとやりすぎたね」
レディは鼻で笑った。
「なぁーに、派手なだけで被害はそんなに出ていないわよ。
それより、あの獣女と、他に男が渋谷に向かっているわよ。
これはどうしたって渋谷で鉢合わせになるね…」
レディは揺らめく鎖を読みながら、言う。
「戦闘は避けられないか…」
「あちらさん次第だけど…」
言うが、レディは相好を崩してゲラゲラ笑い始めた。
「俺は喧嘩上等だぜ!」
ミオは、レディの短いスカートから覗いた足を、軽く叩いた。
「悪い子だ」
56
「良治! 渋谷だ、渋谷に直行するぞ!」
大男は、突然、叫んだ。
「えっ! でも兄貴。
どの駅に停まるか判らないんだろ?」
大男は、ふふん、と鼻で笑って。
「見つけちまったのさ、奴の弱点をな!」
「ええっ、スゲェ! 兄貴、あの餓鬼に弱点なんてあるのかっ!」
「ははんっ! 奴は落ちられるが、登れねぇ。
副都心線というのは一番新しい地下鉄だから一番下にあるのさ。
つまりだ。
奴はこれ以上、下には落ちられねぇ。ここまで来たら渋谷に行くっきゃねぇんだよ!」
良治はポカンと口を開けたが、話を理解したのか激しく頷き。
「さすがだぜ、兄貴!
そうだな、もう落ちられねぇもんな。あとは電車に乗っているしかねぇよな!」
「餓鬼も、もう策が尽きたってもんさ!」
ガハハ! と大笑いを響かせながら、盗んだ小型スクーター二台が、渋谷に向かって疾走した。
誰でも、普通に電車を乗り換えられる、という考えは、彼らの頭には微かにも思い浮かばなかった。




