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ひひひっ、と細身の男は神経質な笑いを洩らした。
髪の毛は短く刈っていたが、両耳のあたりは剃り上げている。耳には不揃いなピアスが、合計で十三個、耳を覆うように付けられていた。
「兄貴、こりゃあ本物だぜ。
見ろよ。
アスファルトを砕いて、犯人を引っこ抜いたんだぜ」
ケタケタと笑った。
「そのようだな」
細身の男の隣に、百九十センチはあろうかという、大きな男が立っていた。身長だけではなく、横幅も太い。盛り上がった胸筋がTシャツをパンパンに膨らませていた。
丸太のような腕を組んで、黄色いテープの外側から、もう警察は帰った後の犯行現場を、無数の野次馬と共に眺めていた。
「野生種か…」
大男は呟く。
「見たことあるかい、兄貴? 野生種って奴?」
「いや…。おやっさんが捕まえたことがあるようだな。何十年も前の話だろう」
「でも兄貴、どうするよ? こんな奴、どう捕まえればいいんだよ」
一番の問題はそこだろうな。と大男は考えた。
この能力は危険すぎる。地面に埋められてしまったら、動きが取れない。
「警察の内通者によると、子供なんだとよ。まだ声変わりもしていないか、したかぐらいの餓鬼らしい。夜の十時に、そんな餓鬼が出歩いているとしたら、どういう事だと思う?」
「ゲーセンでも行っていたのかな?」
「お前じゃねえんだ。
たぶん塾だろう」
「今頃の餓鬼は、そんな遅くまで勉強してるのかよ?」
「ゆとり、じゃねーんだよ。今頃の餓鬼はな」
細身の男は肩を竦めた。
「やだやだ。ゆとりで良かったぜ、俺は」
「おそらく中学生だろう。自転車か歩きで移動している、と考えれば、二、三キロだろうな。つまり半径二、三キロの円の中にある中学校を見張っていれば、たぶん見つかる」
細身の男は顔を輝かせる。
「やっぱり兄貴は頭がいいぜ!
で、どこにあるんだ? その中学って?」
大男は軽く舌打ちして、細身の男の手羽先のような腕を引っ張って人混みから消えていった。