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照明を落とした室内から望む窓には、東京の夜景が豪華に輝いている。
テーブルの燭台には蝋燭の明かりが輝き、美しく盛り付けられたフレンチを、沢山の恋人たちが囲んでいた。
「このワイン、美味しいね。何というワイン?」
睫を強調するメークをした、ドレス姿の小柄な女性が問いかけた。
「知らないんだ。値段で決めたのさ」
彼氏は優しく微笑むと、小柄な女性に身を乗り出して、囁いた。
「一番高いやつ?」
「いいや、今日はね、特別なんだ。
一番安いワインをソムリエに選ばせたのさ」
ホホホ、と長いシルクの手袋で覆った細い指で口を隠し、女性は笑う。
「あなたって、普通じゃないわね!」
「君のためならなんだってするさ。
一番安いワインをオーダーすることだって!
これが愛の奇跡なんだ!」
彼氏の顔が喜びに輝いた。
だが…。
二人のスマホが同時に鳴り出した。
「ああ…、もう最低…!」
彼女が頭を抱えた。
「そう嘆くなよ、レディ。
最高にエレガントな生活には、多少のリスクはつきものだよ」
彼氏は、レディの細い顎を優しく撫でた。
「最高のスィートを予約したんでしょう?」
「すぐに終わらせればいいさ」
会話の間もスマホは鳴り響いていた。
二台同時に、違う着信が鳴っているので、かなり煩い。
あちらこちらで咳払いが聞こえ、彼氏は電話を取った。
「はい、おや、あなたでしたか? 随分とお久しぶりですね。
ああ、マンハッタンの時以来ですか…。
グレイト。
そういった、手間のかからない仕事は大好きですよ。
では、早速レディと共に仕事にかかります。
ああ。
レディの電話も切ってくださいね。顰蹙を買っているので…」
電話をエレガントに切った彼氏にレディが、なんだって、と聞いた。
「僕には面白くないがね、君は喜ぶと思うよ。
男の子の確保だ。中学生だそうだ」
「別に餓鬼なんて好きじゃなーい!」
レディは即答したが、自分のスマホをハンドバックから取り出して、見た。
「お、この子、才能あるって一目で判るよ。久々の上物だね」
「あんまり褒めるなよレディ。
嫉妬で殺しちゃうかもしれないからね」
言うと彼氏は、レディにディープなキスをした。
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「あの女も助っ人に来るらしいぞ!」
大男は渋い顔を良治に向けた。
「あの女、って言うのは、例のアメリカ帰りの女か?」
嘘だろう、と良治は頭を抱えたが、ムスッと顔を上げて。
「だけど、あの女は間違いなく餓鬼を見つけるぜ、兄貴」
だがなぁ…、と大男は顎を掻く。
「俺たちが先に餓鬼を見つけないと、あの女、餓鬼に何をするか分からないからなぁ…」
なっ! と叫んで、良治は驚愕の表情を浮かべた。
「俺たち、まさか餓鬼の身の安全を確保するために働かなきゃならない、ってことか?」
「元々、餓鬼は無傷で手に入れなきゃ意味がない。
その最大の脅威が、今や、あの女、ってことだ」
「だけど兄貴。
あの女の探査能力は尋常じゃないんだぜ!」
「だから、俺たちが先に餓鬼を見つけるんだ!」
二人の男を乗せる列車が、方南町のホームに近づきつつあった。




